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第二百三十五話

 商売対決のルールは簡単だ。
 三日間かけての売り上げ対決。ただし、それだとウルムガルトが圧倒的に不利なので、一店舗で、という制約付きだ。店の規模も同じにしてある。
 元からあのいけ好かないヤツとウルムガルトは扱ってる商品が近いので、条件さえ同じになれば後は商人としての腕勝負だ。店の立地条件でもほとんど差はないようだ。

 故に、ウルムガルトは負けるはずがないと自信を持っていた。

 ――のだが。

「……なぁ」
「……何?」
「いつもこんなもんなのか?」
「んなわけないでしょ。いつもならもっとお客さんが来てるよ」

 ウルムガルトは渋い顔で言い返してきた。
 まぁ、気持ちは分かる。何故なら――まだ、今日はお客さんが一人も来ていないからだ。

 開店してから早三時間。

 小さいながらも綺麗にしている店内は、陳列も精一杯考え抜かれたであろう配置だ。小物のアンティークも充実していて、緑の良い香りがするし、清潔感が強い。
 だからこそ、ウルムガルトの店は繁盛している。
 扱っている品が良いのはもう言うまでもないことだしな。
 店で扱っているのは、主に冒険者を相手にした品物だ。簡単な薬から、果てはナイフ、剣まで。高い素材なんかも扱ってる。魔法道具マジックアイテムを作るので、俺もお世話になっている。

「店の前、オープンの看板にしてるよね?」
「それ、聞くの三回目だぞ」

 ジト目で見ながら返すと、ウルムガルトがうぐっと唸った。

「じゃあ、なんでお客さんこないんだろう」
「人通りがないワケじゃあないんだけどな」

 店のカウンターの前はドアもあるし、窓もある。王都らしく、人は行き来している。
 だとしたら、原因は何か。なんて考えたら、答えは一つしかないんだよなぁ。
 早くも行き着いている可能性は、当然ウルムガルトも薄々察しているようだった。さっきから「まさか……いや、でも……うーん……」と唸っている。
 これは調査が必要だな。

「ポチ」

 ぼそ、と名前を呼ぶ。
 店の屋根の上で日向ぼっこしているポチから、すぐに反応がやってきた。

『承知した』

 皆まで言わずとも察したポチが動く。
 後、出来るとしたら、呼び込みとかだろうか? あまり得意ではないが、ウルムガルトがやれば効果的だろう。露店もやってたから慣れてるはずだし。

「ウルムガルト。店前に出て呼び込みでもしたらどうだ?」
「この界隈は禁止なんだよ。露店は許されてるんだけどね。っていうか出来るならもうやってるよ」
「そりゃそうだ。悪かった」
「あーごめん。言い方悪かった。せっかく提案してくれたのに」
「気にすんな」

 俺は微笑みながら言う。
 実際、この対決はウルムガルトの将来がかかっているからな。俺もウルムガルトが負けるとは思えないけど……。とはいえ、このままじゃあマズいよなぁ。

「あれ、そう言えば、そろそろ納品の業者さんが来る頃なんだけど……」
「そうなのか?」
「うん。いつも、『ちゃーっす、ちゃーっす、ちゃ――――っす! お届けにあがりぃやしたぁっ!』って来るんだけど。煩いけど時間にも煩いから、遅れてくることなんてないんだけど……」

 何故か物真似までしながらウルムガルトは言う。
 一瞬ツッコミを入れかけたが、俺は別の所に引っ掛かりを覚える。――そう、来ない、という所だ。

「まさか……」

 嫌な予感がして、俺は《ソウル・ソナー》を撃つ。
 一瞬の光の波紋。やがて戻ってきたのは、普通なようで普通ではない僅かに変な反応だった。

 この魔力の流れ。あまりにも大人しい。

 それ以外はなんのおかしい部分はない。だが、妙なのだ。まるで意図的に抑え込まれているかのような。
 って、まさか?
 電撃的に可能性が降りてくる。その直後だった。

『主。分かったぞ。隠蔽魔法だ』
「やっぱりか。俺も今、調査魔法かけようとしてたところだった」
『随分と周到に組まれた魔法だな。魔法使いを何人も雇ったんじゃないか? 儀式魔法クラスだな。巧妙に魔法陣が刻まれているようだ』

 そりゃまた金のかけてることで。
 俺でも調べて辛うじて違和感を覚える程度にまで隠されていたんだ。レアリティ高い魔法使いを何人も雇ってやらせたに違いない。
 まったく、そうまでしてウルムガルトが欲しいのか?

「破壊できるか?」
『……建物を幾つか破壊すれば可能だとは思うが。民家や公的施設が魔法陣の維持に必要なキーにされてる』
「うーん、無理ってことか」

 声だけで難しい感じが分かる。俺も思わず唸ってしまった。
 さすがに建物を破壊するのはダメだ。絶対騒ぎになるし、それ以上に罠の臭いがする。相手は金をかけて妨害しようとしてるんだ、何か仕掛けているだろう。

「構成術式は分かるか?」

 だったら、やることは一つしかない。

『それは問題ない。妨害魔法を組み立てるのか?』
「ああ、それしかないだろ」
『承知した』

 返事と共に、イメージが伝わってくる。
 脳裏に浮かんだのは、実に複雑な魔法陣だ。ってこれ、この感じは……。

『どうも魔法道具(マジックアイテム)を使っているようだな』
「みたいだな」

 見えた術式は古代魔法のものだ。現代を生きる魔法使いたちが構成出来る代物じゃあない。この古代魔法の術式を基本として、色々な隠蔽魔法をかけているようだが。
 となると、相当に厄介だな……。
 そもそも隠蔽魔法を使える魔法使いそのものが稀少だ。単なる魔法使いにはあまり意味がない魔法だし、古代魔法に準ずるくらいのレア度だし。それを解除するだけでも大変だっていうのに。

「ポチ、オルカナを連れてきてくれ。対策を練る」
『分かった』
「ん? ちょっとどうしたの?」

 俺がコソコソやっていたことに気付いたらしいウルムガルトが訊いてくる。

「ああ。この辺りに隠蔽魔法がかけられてるみたいだ。だから、店の存在がそもそも気付かれないようになってる。だから客が来ないんだよ」
「な、なんだって!? 妨害くらいはやってくると思ったけど……!」
「なんとかするつもりだけど、思ったよりも厄介なんだ。一晩くらい時間貰うことになるけど……構わないか?」
「二日間で三日分の売り上げを達成、か……難しいかもだけど、やってみるよ」

 悩む素振りを見せつつも、ウルムガルトは頷いてくれた。

「悪い、じゃあ早速研究するわ」
「うん。どうせ誰もこないなら、今日は店じまいするし、ここ使って良いよ」
「助かる」

 俺はそう言って、イメージに残った魔法陣の解析から始めた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ――クロックブーク――

 ふっ。魔法陣は上手く機能したようだね。
 初日、様子を見させていた部下からの報告を受けて、僕は満足して笑む。あまりにお客が入ってこないからか、早々に店じまいをしたらしい。
 確かに、ウルムガルトは家に頼らず、独力で王都に店を開き、そこそこ繁盛させている。
 だから、才能というものがあるのだろう。
 けど所詮、女だ。あれだけ可愛いのだし、やはり家庭に入って家を守るべきだ。それこそ、僕の玩具として、ね。

「さて、と、昨日の売り上げは、そこそこだね」

 ウルムガルトの店を気付きにくくする、という依頼。金はかなりかかったけど、上手く成功してくれたようだ。そうでなく、ウルムガルトに流れていた店の客が戻って来て、売り上げが良い。
 これで僕の勝ちは揺るがないね。
 帳簿を閉じて、僕は出かけることにした。
 やはり直に店が落ちこぼれているところを見たいじゃないか。

 護衛をつけて、歩くこと十五分。

 さぁ、閑古鳥に泣く店を――を?
 喧噪を耳にして、僕は顔を引きつらせる。

「な、なんじゃありゃあああああ――――っ!?」

 情けなくも声を出してしまった。
 行列だ。行列が出来ているのだ。ウルムガルトの店に。なんだ、どういうことだ!?

「ば、ばかなっ……隠蔽魔法はまだ生きてるんじゃないのか? すぐに調べさせろ!」

 僕は護衛の一人に怒鳴りつける。護衛は慌てて踵を返して家の方へ走っていった。
 バカな。どういうことだ。まさか騙された? いや、それはない。だって、昨日は――。

「隠蔽魔法、か。言質もいただいちゃったな」

 声はすぐ後ろからした。
 慌てて振り返ると、まだ子供とも言えるオレンジ色の髪のガキが立っていた。見覚えがある。そうだ、ウルムガルトの護衛とかいって、僕の部屋にずけずけとあがりこんで来たヤツだ。

「なんだ、お前!」
「やっぱアンタ、ウルムガルトの家に隠蔽魔法かけてたんだな。言質まで簡単に零すとか、アホかよ」
「あ、アホだとぉ!?」

 バカにさえて、僕は頭に血を昇らせる。コイツ、よりにもよってこの僕にアホと言ったか!

「まぁ言質なんてなくても、証拠はバッチリ押さえてるんだけどさ」

 言って、ガキは顎をしゃくって近くの建物の屋上へ視線を誘導する。
 そこには、大きい白い犬に首根っこを噛まれて項垂れる、三人の魔法使い――僕が依頼した連中がいた。

「もう裏もしっかり取ってある。けど、一応売り上げ勝負だしな? 黙っておいてやるよ。これ以上妨害しないって約束をするんなら、だけどな?」

 余裕の口ぶりで、ガキは僕を脅してきた。ふ、ふざけやがって!
 僕はわなわなと震えながら、ガキを思いっきり睨みつける。

「な、なめやがって……!」
「俺が聞いてるのは答えだ」
「……上等だっ! いいさ、僕の商売センスをなめないでいただこう!」

 そもそも今回の作戦は、僕の勝ちを盤石にするためのものだったんだ! そんなものがなくったって、僕は十分に強いぞ!

「よし、言ったな。やってもらうぞ」
「見てろ! 今に吠え面かかせてやる!」

 僕は憤慨しながら踵を返す。ああ、気分が悪い。僕には丸一日分のアベレージもあるんだ。
 負ける理由はないんだからな!

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