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1-3-13 龍馬評論会?料理部決起?

 英語教師の大谷がそのまま暴れてたら、俺が出向く羽目になっていたのだが、直ぐに落ち着きを取り戻し、中等部の校長も回復魔法で大事には至っていないようだ。

 現状3つのグループで硬直状態のようで、全く進展が無い。

 「俺は疲れたよ、少し隣で横になってる。大谷がまた暴れて女子に被害が及ぶならすぐ呼んでくれ」

 「分かったわ、おやすみ龍馬君」
 「「「おやすみなさい」」」

 大谷がまた喚き散らしてる声が優ちゃんのタブレットから聞こえてくるが、もううんざりだ。
 
 「じゃあ、妾たちも行くかの」

 「あ、女子はちょっと待って。女子だけでしか話せないことをちょっと話し合いましょ」
 「ん?桜よ妾もその話に参加するのかの?」

 「ええ、女子は全員参加でお願いね」
 「桜先輩、なんですか?」
 「ん!気になる!」
 
 「まぁ、女子会なら俺は抜けるな。おやすみ」

 少し桜の行動が気になったが、男がいたら話せない事もあるだろうと思い、一人隣の部屋に引っ込む。


 
 「桜よ、龍馬の事か?」
 「うん、なんか彼、やっぱり無理してない?」

 「してるじゃろうの。強がっているが、あやつの心は紙装甲じゃからの」

 「菜奈ちゃんから見て、今の龍馬君の状態ってどんな感じに見える?」
 「兄様はバスケ部員を殺して結構平気だと言ってましたが、強がってるだけです。と言うよりそう言って今後の汚れ役は全部自分一人でしょい込む気ですね」

 「あー、やっぱり!先生もそんな気がしてたのよね。さっき体育館でも似たような事を柳生さんに言ってたの。“殺人もこんなもんかと思った、罪の意識も無い、自分はそういう性格の奴みたいだった”ん?って思ったんだけど、その後に柳生さんにこうも言ったの“なので殺さないといけないような奴は、俺が全部引き受けますね”なんか違和感あるよね。ネ?ネ?」

 「違和感と言うより確定かな。汚れ役を自分一人でやるつもりね」
 「ん!桜の意見に一票!」
 「そのほうが兄様っぽいですね」
 
 「多分今頃布団を被って、殺人の重荷で一人震えておるのじゃろう。困った奴じゃ」


 「あの、雅とフィリアと沙織に協力してほしい事があるの」
 「ん?なんじゃあらたまって?」

 「兄様、おそらく街まで私たちを無事送り届けて生活が安定したら、菜奈たちを置いてフィリアと二人で出て行っちゃうと思うの」

 「ん?どういう事じゃ?妾は其方らを捨てて行ったりせぬぞ?」
 「ん!違う、フィリアの勇者召喚の目的に協力するため?」

 「雅、正解!あなた中1にしてはいろいろ凄いよね……やはり強敵!近い将来兄様好みの女になりそう」

 「じゃが、妾は神眼で覗いたが、出来るだけ勇者事案には係わらないという意思をしっかり確認しておる。龍馬の思考はどうやって菜奈を守るかそればかり考えておったぞ」

 「ん!それは初日の龍馬の思考!」
 「そうです。フィリアがこっちに来ちゃったから、今の兄様は菜奈が安全なとこに落ち着いたら、間違いなくフィリアの為に行動をします。フィリアに恩を返すまでは見捨てる事は無いでしょうね。一生かけて、救ってもらった心の恩を返そうとします」

 「うわー、龍馬君ってどこまでも純善なのね」

 「ん!それは違う!桜はやはりダメダメ!」
 「そうじゃの、善ではあるが美咲のような純善ではないの」
 「兄様はどこまでも優しいですが、純善ではないですね」

 「「「ええっ!?」」」

 「皆、兄様を誤解しています。桜先輩は寄付とかしたことあります?」

 「え?いきなり違う話?ええ、勿論あるわよ」
 「兄様の前で今のように言ったらこう言われます。“フッ、偽善者が……”」
 
 「ええ!なんでよ、寄付したら何で偽善者なの!?」
 
 「違います“勿論”と、さも当然のように自信満々に言ったのがダメなのです。菜奈が学校で回ってきた募金箱に寄付した時に兄様はこう言ったのです。見た事も会った事のない奴の為にお金を出すのは只の自己満足だって。菜奈は納得いかなかったから、可哀想じゃないですかって言ったら。“じゃあ、そいつらにどこまでしてあげるんだ?”って言われました。“お前、昨日学校の帰りにアイス買って食ったよな、それ食わないで寄付してやったら2人救えるそうだぞ”さらに“お前が満足して出した金額じゃ全然足らないんだ。さぁ、菜奈はどこまでしてやるんだ?”菜奈が泣くまで問い詰められました」

 「……確かに自己満足かもしれないけど」

 「でも、兄様はこうも言ったのです。“でも、自己満足でも偽善でも、実際助かる命はあるんだからそいつらにとっては、何もしない俺なんかより良いんじゃないか?”何もしない自分より偽善者の方がずっと良いと言うのです。しかも“俺は寄付なんかしないけど、菜奈はできる範囲でやってあげたら良い”とか言うんですよ」

 「そこまで言ってて、何故龍馬君は寄付とかしないの?」

 「たぶん両親が亡くなって、その後に関わった弁護士の御影恭子さんの影響が大きいです。兄様の唯一の天敵です。恭子さんにお金の有難みや、いざという時の為の行動指針、正義を行うなら弱者じゃダメと強制的に体を鍛えられたりもしてました。その時恭子さんに言われたそうです。“このお金は、由美たちが命懸けで私に連絡して君に託したものだ。一円でも無駄にしたら容赦しない”由美って言うのは兄様の実のお母さんの名前です。恭子さんの親友だったそうです」

 「そうか……そうだよね。そんな大事なお金、無駄に出来ないよね」
 
 「兄様は赤の他人の為に払うお金は一円だってないそうです。でも菜奈が困ったなら全財産出しても救ってやるって言ってくれました。兄様は恭子さんの教えどおりの行動をするのが基本です。今回の事もそうですね。守りたい人の優先順位をつけ、それの為には他人は見捨てる。優ちゃんにとっては友人でも、兄様にとっては全く知らない他人、係わって菜奈たちに危害が及ぶなら見捨てる気だったはずです。でもさっき優ちゃんが一緒にって言っちゃったから……」

 「ごめんなさい……私、皆の事まで考えてなかったです」
 「ん!問題ない!どうせ龍馬は見捨てられない!」

 「そうなんだよね。兄様はなんだかんだ言ってもこれまでも何人も助けちゃってるんですよ。そのおかげで中学の頃は結構先輩たちに目を付けられていました。ここじゃ剣や魔法があるから命に係わるので、菜奈たちに危害が及ばないように結構慎重に動いてくれているようですけど……」

 「なので今回様子見なのね?」
 「おそらくはそういう考えじゃないでしょうか?兄様が動くと、どうしても男子から反感を買ってしまいます。そうなると菜奈たちにも影響が出るかもと考えているのではないでしょうか?だから他の拠点はできるだけ自分たちで解決させたいのではないですかね」

 「そうじゃの。龍馬は美咲のように純善ではないが、善なのは間違いない。どこまでも優しいから妾は好きじゃがの、で、菜奈は妾に何を協力してほしいのじゃ?」

 「兄様が菜奈を置いて行こうとしたとき、声を掛けてほしいの。雅も沙織も、その時一緒に兄様に付いていってほしい」

 「ん!勿論付いていく!逃がさない!」
 「私も一緒に行きます。龍馬先輩がフィリアに協力するなら私もします。足手まといにならないように頑張って強くなります!」

 「嬉しいのう、龍馬も皆ほど素直ならもっと可愛いのじゃがの。で、桜よ皆を集めて龍馬の心理考察なんぞしてどうするのじゃ?妾や沙織がやったように、参ってる龍馬をその最終兵器のボヨンボヨンで慰めてやるのか?」

 「もう!違うわよ!龍馬君が寝てる間に、私たちで教員棟の問題を解決できないかなって思って」
 「どうする気じゃ?」

 「武力で教員棟を制圧します!A班なら可能だよね?」
 「余裕じゃろうが、殺し合いになった場合其方らはできるのか?現に大谷とやらは校長を刺しておるのじゃぞ?」

 「龍馬君だけに汚れ仕事をもうさせたくないの。彼、なんだかんだで溜め込んで弱ってくでしょ。この世界で生きていくなら守られるだけじゃダメな気がする。私もフィリアの願いに協力したい。私たちにも勇者の力があるんでしょ?」

 「勇者の力と言うが、レベルアップ時のスキルシステムの事だがの。あれはこの世界の住人には無い物じゃ。自分で強化項目を選べて、しかも何の努力も無しにポイントを割り振るだけでその道の達人になれる。チートなシステムじゃの」

 「だよね。柳生先輩一人で解決できるような事案なんでしょ?それなら召喚者が沢山で事にあたったらすぐ解決出来ちゃわないかな?」

 「確かにそうじゃが、命がけじゃぞ?」
 「それこそ今更よ、守られてるだけは嫌なの。殺人の可能性があるのをちゃんと考慮出来てて、それでもいいという人たちだけで教員棟を制圧して、教員棟から抜けたい女子だけ体育館に護送できないかな?」

 「先生は反対よ。桜ちゃんは殺人を甘く見てると思うな~。柳生さん、立ってるのも辛そうだったよ。龍馬君が上手く慰めてフォローしてたけど、彼女一生心に傷が出来たわよ」

 「兄様が慰めてたってとこ、もうちょっと詳しく話してください」
 「先生何も知りません!言うとオークの巣にポイってされちゃうの!怖いのは嫌なの!」

 「妾もあまり感心できんな、リーダーを無視する行為はダメじゃぞ。規律というものがなくなってしまうからの。それに其方らが万が一、人を殺めたら龍馬のこれまでの苦労が水の泡じゃ。何のためにあやつが皆を置いて体育館に行ったと思っておる。それにきっと勝手にいくと怒るぞ。妾はあやつに嫌われたくはないぞ」

 「ん~、どのみちフィリアはお留守番だけどね」

 「ん!行こう!」
 「兄様怒ると怖いよ……泣くまで精神的に追い詰めてくるよ」

 菜奈の説得むなしく、桜の意見で救出にいくことになった。

 「生徒だけでいかせられないので、先生も行きますね」
 「はぁ、仕方ないな~菜奈も行く」
 
 教員棟制圧参加者は7名、13名も参加希望がいたが1パーティーに絞ったみたいだ。

 リーダー :美弥先生 
 アタッカー:桜、雅
 魔法火力 :菜奈、沙織
 ヒーラー :未来、優 

 
 『ナビーよ、見ておるか?』
 『……はい、フィリア様』

 『龍馬には知らせるでないぞ。少し黙って見ておるのじゃ。じゃがあやつらに危険がありそうな場合すぐに知らせてほしい』

 『……菜奈に【マジックシールド】もコピーしてあるので全く心配は要らないと思いますが』
 『菜奈はおそらく使わぬじゃろうな。こっそり物理防御と魔法防御だけ張るじゃろうが、それ以外は使わぬと思うぞ』

 『……それでも余裕です。雅一人居れば制圧可能です』
 『確かにそうじゃの、あやつはちとおかしいからの。日本のオタクという人種はげに恐ろしいのう』

 
 優ちゃんのタブレットからはいまだに大谷たちの怒声が聞こえている。
 またいつ死傷沙汰が起こってもおかしくない状態だ。



 桜を先頭に、龍馬を案じた女子たちが教員棟に向かうのだった。

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