1-3-12 体育館太平?教員棟動乱?
駆け寄ってきた美弥ちゃん先生に新たな火種を聞かされる。
教員棟と男子寮が女子を解放しないそうだ。
「体育館を占拠して、女子専用にしたという事を伝えたのですが、高等部の教頭先生に勝手な事をするなと先生怒られちゃいました~」
「現状どういう状況です。もっと詳しく知りたいです」
「じゃあ~順番に説明しますね。まず体育館の女の子たちですが、全員裸にされていましたが、実際に強姦された者は7名でした。怪我をしていたりした者も自分たちで治療をしたようです。龍馬君に付いていってた4人以外は避妊処置も自分たちでしたようですね」
あの4人は7人のうちの被害者メンバーだったのか。
どおりであの鬼気迫るなぶり殺しになるわけだ。
「裸で全員泣いてたので、てっきり皆手遅れかと思ってたのですが、そうですか……」
「龍馬君、避妊処置の判定できる魔法があるって言ってましたよね?」
「一応ありますが裸になってもらう必要があります。スキャナーに掛けるようなイメージで診察するように創った俺のオリジナル魔法ですので、服を着てると上手くスキャンできない仕様になっています。本来は避妊治療の為のモノじゃなく、あらゆる治療の為に創ったモノです」
「そうですか。もし希望者が居ればその魔法をお願いできますか?」
「俺は良いけど、全裸ですよ?希望者なんかいますかね?」
「龍馬君、自分で言ってたじゃないですか?妊娠の恐怖は当人しか解らないって」
「まーそうですけど。希望者がもしいるなら俺はいつでも良いですよ」
「後で確認を取っておきますね。で、ここは高畑先生がリーダーで仕切る事になりました。問題は教員棟に女子を分離するよう連絡したのですが、今3グループに分かれて揉めているようです。1つは中等部校長と女子中心の賛成派。もう1つは高等部教頭と教員棟リーダーの大谷先生と男子のグループの反対派。もう1つは決まった事に従うと言っているどっちつかずの中立派ですね。男子寮は聞く耳持たないですね、一方的に通話を切られてその後は繋がりません。かろうじて女子のメールで状況が解る程度です。でも、その女子たちも男子寮に残ると言っているようです。脅されてるのかもしれないですね?」
「教員棟は3グループの話し合いの結果待ちという事ですか?面倒そうですね……男子寮の方もどうするのでしょうね?」
「なんか龍馬君、俺には関係ないって感じですね?」
「まさか美弥ちゃん先生、俺に何とかしろとか言わないですよね?」
「流石にそんな事言えませんよー、ここの救出ですら先生止めようと思ったぐらいです」
「龍馬君、どうなりました?」
「あ、美咲先輩。一応一緒についてきた4人がグラウンドで片を付けました。遺体も全て焼却して荼毘に伏しましたのでここの件については完了ですね。お疲れ様でした」
「柳生先輩から美咲先輩に変わってる……事件です!菜奈ちゃんに知らせなきゃ!」
「美弥ちゃん?何言ってるのかな?余計な事を言うなら今から美弥ちゃんはオークの巣に放り込んであげるけどどうする?」
「先生何も聞いてないです!先生に怖い事しないよね?ネ?ネ?」
この先生は……可愛いんだけどなんだかな~とても残念だ。
「美弥ちゃん先生、俺たちは戻りましょうか。ここは美咲先輩と高畑先生にお任せしましょう。男の俺がいると出来ない治療もあるでしょうしね」
「そうですね、そうしましょうか」
「美咲先輩がいれば問題ないでしょうけど、ヘルプが居る時はすぐ呼んで下さい。可能な限り駆けつけますので」
「龍馬君ありがとう。おかげで一人だけで殺人の重みを背負わなくて済みました。随分気が楽です」
「そうですか。俺は逆にこんなもんかと思ってしまいました。相手に対して罪の意識がないからでしょうね。元から俺はそういう奴だったんでしょう。なので殺さないといけないようなやつは俺が全部引き受けますね」
料理部がいる茶道室に戻ったのだが、ここは凄く落ち着く。
俺が殺人をしてきたのに怯える様子もなく、むしろ気遣ってくれる。
茶道部の未来ちゃんと美加ちゃんが、二人で帰ってきた俺にお茶をたててくれた。
渋みと甘みがある優しい味だ……二人の気遣いで凄く癒される。
「龍馬君お疲れ様でした。思ったより大丈夫そうね」
「ああ、俺も意外に平気な事に驚いてるよ。オークを散々殺してきて耐性が付いちゃったのかな?」
「それはあるでしょうね」
お茶を飲みながら桜と話をしていたら、5人ぐらいで固まっているグループが声を掛けてきた。
「龍馬先輩ちょっとちょっと、こっちきてください」
「どうした?」
行くと優ちゃんを囲んでタブレットで会話を聞いているようだ。
優ちゃんのタブレットは教員棟の女子と繋がっており、こっそりこっちに向こうの状況を流してくれてる娘がいるみたいだ。
「優ちゃんとみどりちゃんって、やたらと人脈多いね?」
「この二人は耳年増なだけですよ。いわゆるマセガキってやつです」
「綾も大差ないくせに、良く言うわ」
「そうですよ。部長が一番耳年増でしょ」
「あはは、結局、今向こうはどういう状況になってるんだ?」
優ちゃんの周りに全員集まってきて、状況を生中継で聞いている。
「硬直状態ですね。何度か怒鳴り合ったりしてましたが、未だ結論に至っていません」
「美和たちもそんなの無視してさっさと出てくればいいのにね」
「教員棟も教師陣や男子が前線で戦闘してたみたいだからね。女子は威圧されたら怖くて逆らえないんじゃない?」
「でも武力で押さえてるんじゃなくて、ちゃんと話し合ってるんだろ?」
「会話聞いてたら女子分離反対派の意見て、イミフな事ばかり言ってますよ。しかも同じ事の繰り返しで、話が進まないんです」
「龍馬先輩ちょっと行って、美和たちを体育館に連れて行ってあげてくださいよ」
「あはは、俺は嫌だよ。ヒーロー願望とか無いし、会った事もない人の為にあっちこっちで怨みとか買いたくないしね」
「まーそうですよね。今でしゃばって先輩が行ったら、確実に男子に恨まれちゃいますよね」
「だろ?他人の為にこっちから態々怨み買うような事したくないしね」
暫く生中継を聞きながら皆でおしゃべりをしていたのだが、不意に桜がフィリアに話を振った。
「そういえばフィリアは、何の目的で勇者召喚をしたの?」
「桜、お前意外とバカだな!それ聞いちゃいけないだろ!」
「うっ、龍馬は相変わらずじゃの。こやつは例の異空間で妾と丸一日おったにも拘らず、結局最後までその事を聞こうとしなかった」
「そういうフィリアこそ、俺になにも言わなかっただろ?」
「あの時はまだ妾には神眼があったからのぅ。其方の考えが解っておった故、妾からは何も言えなんだ」
「龍馬君らしくなくない?どうしてそんな大事な情報を聞かなかったの?」
「ん!桜はやはりダメダメ!リーダーは龍馬で正解!」
「雅に言われるとちょっと悔しいわ!どういう事?」
「勇者召喚だぞ?絶対凄いトラブル抱えてるに決まってるじゃないか。そこに自分から質問して首を突っ込んでいくのはバカだよ」
「ん!そういう事!流石龍馬!」
「兄様素敵です!先を読んで危機回避ですね!桜先輩は危機回避能力なしですね。むしろ自分から突っ込んでいくと」
「うっ、悪かったわね!そこまで全く気づきませんでした!」
「それに地球でも、多分これまでに何回か勇者召喚はされていると思う。しかも大概不運な最期を遂げているんじゃないか?」
「「「え!?どういうこと?」」」
地球でも勇者がいたかもという事に、皆、驚いているようだ。
「絶対とは言い切れないけど、神話や壁画にそれっぽいのないか?ブッタとかキリストとかノアの方舟とか、インドの方じゃ、ガルーシャとかもそれっぽいよな。あれってラノベで聖獣とかでいそうじゃん。シヴァ神とかただの雷魔法が得意な奴だったりしてな。モーゼが海を割ったとか言うけど、空間魔法が使えるやつならそれっぽいの出来るしな。ジャンヌダルクとか只の異世界の女剣士だったりしてね」
「「「ええー!!でも言われてみれば」」」
「フィリア、その辺どうなの?」
「うっ、言えぬのじゃ!そのような事は全て禁句指定になっておる!」
「なんかそれって、認めちゃってない……」
「まぁ~あくまで俺の空想だけどな。で、そいつらの最期って、大抵はその時の権力者に殺害されてるんだよな。キリストは磔だったかな?ジャンヌダルクとかも火刑とかだっけ?まぁ、そういう訳で、勇者召喚にはあまりかかわらない事。それは柳生先輩の仕事だからね」
「うーん、そう言われたら。関わらない方が良い気がしてきた」
「妾の前で、皆してよく言えるのう。可愛い女神の為に一肌脱ごうという気は無いのかのぅ」
「フィリアは確かに可愛いけどね。でも生死に係わるような事でしょ?それはちょっとね」
「そうじゃが、……桜もつれないのぅ」
「ん!否定しなかった!命懸けの事案決定!」
「な!桜に引っ掛けられてしもうた!」
その時優ちゃんのタブレットから女子の悲鳴が聞こえてきた……何か起こったようだ。
「優ちゃん何があった?」
「女子擁護派の中等部の校長先生が刺されたみたいです。刺したのは大谷先生です」
「大谷って言ったら、教員棟のリーダーしてるんだったよな?なんでまたそんなやつが?校長や教頭より慕われてリーダーやってるんじゃなかったのか?」
タブレットから聞こえる大谷の声は、どこか狂気めいたものだった。
『何かあった時の責任逃れの為に俺をリーダーにしておいて、都合が悪くなったらリーダー失格だ?ふざけんな!どいつもこいつもクズばっかで呆れるよ!』
「どうやら擁護派の校長も善ではなかったようだな」
「そうみたいね。大谷先生の言い分じゃ、校長も教頭も随分な狸ね……教師ってこんなのばかりなのかしら」
「いやいや、桜の目の前に善の塊みたいなちみっこがいるじゃん」
「あはは、それもそうね。美弥ちゃん可愛いね!」
「先生なんか凄く子ども扱いされてる気がするのだけど……」
「それで龍馬君、うちはどう動くの?」
「まだ動かない……少し様子見だな。フィリア、そんな顔するな。お前が悪いわけじゃないんだ」
「じゃがの……」
「転移そのもののミスはフィリアだろうけど、今起こってる事は俺たちの世界の人間の矮小さのせいだから、フィリアが気に病むことじゃない。完成された生物なら争いは起きない。そもそも確固としたオークという敵がいるのに、こんなにばらけて拠点を構えない。普通はヌーやシマウマのように一カ所に纏まってやり過ごすのが正解だ。それを俺たちは不信感や警戒心でばらけてしまってる。アホな生き物だろ?俺は自分以外の男を信じずここに、女子寮は女子以外を信じず一度は壊滅寸前、野球部に至っては部員しか信じず壊滅しちゃってる。体育館は仲間を襲って崩壊、教員棟も結局仲間内で刃傷ざただ。人間なんてマジ救えない種族だよな」
「あの、龍馬先輩。もし美和たちに危害が及ぶようなら、一緒に行ってもらっていいですか?」
うっ……できるだけ放置するつもりだったのに。
優ちゃん、俺に助けてきてじゃなく、一緒に行ってくれときた。
そう可愛く言われちゃ、嫌と言えないじゃないか。
「兄様、結局行くんですね……」
「ん!優に可愛く言われて、もうその気になってる」
「龍馬君、結構チョロイのね……」
「くっ……少し様子を見よう。女子に危害を加えるようならすぐ動く」
「龍馬先輩、ありがとうございます」
可愛い女子にはやはり弱かった……とりあえず様子見だ。