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執事コンテストと亀裂㉑




「・・・もう、こんな真似は止めようぜ」

結人は今、誰かが走っていくような足音が聞こえふと我に返る。 そして目の前にいる梨咲に向かって、溜め息交じりでそう口にした。
「えー」
梨咲はそう言いながら、頬を膨らまし怒った顔をする。 そう――――先程、結人の言葉を遮って梨咲が言ってきたのだ。 『告白ごっこをしよう』と。
当然断ったが、彼女は『少しでも夢を見させてくれてもいいでしょ?』と言ってきたので、仕方なくOKした。
「もっと結人からの告白聞きたかったー!」
「梨咲は色んな男から、たくさん告白を受けてんだろ」
「結人じゃなきゃ、意味がないんだよ」

好きな人から告白されるなんて、実際は本当に夢みたいなことだろう。 また藍梨から『好きだよ』という言葉を言われるのなんて、まさに夢だと思う。
そう思うと、梨咲は好きな人から告白されて羨ましいと思った。 贅沢なお願いだとは思ったが、彼女に少しでも幸せな時間を与えられたのならよかったと思う。

~♪

そんな時、結人の携帯が静かにこの場に鳴り響いた。 着信相手は未来からだ。 梨咲に一言を言って、電話に出る。
「もしもし?」
『あ、ユイ? 藍梨さんがいないらしいんだけど、見ていないか?』

―――え・・・藍梨? 

電話越しからは未来の声と、少しの雑音が聞こえる。 彼は走りながら電話をしているのだろうか。
「いや・・・。 見ていないけど」
『マジかー・・・。 伊達が今捜しているんだけどさ、職員室へ行ってから帰ってこないみたいなんだよ、藍梨さん。 あ、俺も藍梨さんを捜しているんだけど、見つからなくて』
「え、それ本当か?」
『まぁ、見ていないならいいや。 ユイは今高橋と一緒だろ? 藍梨さん捜しは俺たちに任せておいて。 それじゃ、時間取らせて悪いな』
「あ、待てよ未来!」
電話を切ろうとする未来を、慌てて呼び止める。
『ん、何だよ?』
「俺も一緒に藍梨を捜す」
『え? ・・・でも』
「俺も捜すから。 もし見つかったら、また俺に連絡してくれ」
そう言って、彼の返事を聞かずに電話を切った。 そして梨咲に向かって、教室のドアの方へ走りながら口を開く。
「梨咲! 悪い、ちょっと俺行ってくる!」
「行くってどこへ? 私を一人にしないでよ」
「すぐ戻るから、待っててくれ!」
「・・・」
そう口にすると、梨咲の発言が止まった。 結人はそんな梨咲の異変に気付き、慌てて足を止め彼女の方へ身体を向ける。

「必ず、戻るから」

静かな口調でそう言い放つと、梨咲は不安な表情をしながらも小さく頷いてくれた。 彼女の合図を見て、結人は教室を勢いよく飛び出し藍梨を捜す。
―――藍梨は今・・・どこにいるんだよ。





藍梨が戻ってこない。 藍梨とコンテストの練習をするため、空き教室で伊達は待っていた。
そしたら彼女は一度空き教室へ来て『職員室に用事があるから行ってくる、すぐ戻るね』と言って出ていった。 だが――――30分経っても、戻ってこない。 
先生との話が長くなっているのか、それとも彼女の身に何かあったのか。 伊達は心配になって職員室まで足を運ぶ。 職員室の中を覗いてみたが、彼女の姿はどこにもない。
すれ違ったのかと思い空き教室まで戻ってくるが、彼女の姿はどこにもなかった。 電話をするが、それも通じない。
そして教室にまだ残っていた未来と悠斗に聞いてみたが、藍梨は見ていないと言っていた。 

藍梨が、いなくなった――――

未来と悠斗も、今藍梨のことを一緒に捜してくれている。 隣の棟を見に行っても、彼女の姿はない。 藍梨は――――どこへ行ったのだろう。
伊達は階段を降り、廊下の通路へ行こうと角を曲がろうとした、その瞬間――――

―ドスッ。

「あ、悪い」 「わりぃ」
誰かとぶつかり、思わず相手との謝罪の言葉が重なった。 相手は誰だろうと、ゆっくり顔を上げ相手を確認する。 
が――――その人物は、伊達にとって今あまり会いたくない人だった。

―――・・・色折。

彼の息は少し上がっている。 ということは、悠斗たちから藍梨の話を聞いて結人も捜してくれているのだろうか。 伊達は彼の姿を見て、何も言わずにその場から去ろうとした。
だが――――その行為は、結人の声によって阻まれる。
「・・・伊達」
「・・・」
何も言わずに、伊達はその場に立ち止まった。 “色折が俺なんかに何の用だろう”と思っていると、彼は小さな声で言葉を口にする。

「・・・藍梨のことは、好きか?」

「ッ!?」

突然の発言に、勢いよく結人の方へ振り返った。 そんな言葉を発した結人は、伊達のことを静かに見据えている。
その問いに何て答えようかと困っていると、彼は伊達の返事を待たずに次の言葉を紡ぎ出した。
「・・・俺は、藍梨のことを諦めねぇから」
「・・・」
―――・・・それって、どういう意味?
その言葉にも何も返せずにいると、結人はこの場から一人去ってしまった。 だが伊達はすぐに動くことができず、しばらくこの場にたたずんだままでいる。

―――藍梨のことを諦めないって、どういうことだよ。
―――つまり色折は、藍梨のこと・・・好きってことだよな?

実際、結人と藍梨は現在付き合っているのかもしれないとは思っていた。 だけどあの発言をするということは、付き合ってはいないのだろうか。
何も彼らの事情を知らない伊達には、不安ばかりが募っていった。


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