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第一話

 人生ってのは、いつだって大逆転だ。
 俺――斎藤 純太の、たった十七年間のしがない人生は、まさしくそれを体現していた。
 もう目を開けることさえ出来ないけれど、俺は病院のベッドの上で寝ている。
 今まさに命を奪おうとしているその病名は、悪性腫瘍(ガン)

 俺がこの病気を患ったのは、小学生に上がった頃だ。

 そこから学校にも行けなくなって、個室が俺の教室になった。
 体調の良い日はテレビ中継で授業を受けて、モニター越しでのクラスメイトとの会話。でも友達ではなかった。温もりなんて感じられなかった。
 クラスメイトたちはどんどん大きくなっていって、俺は薬のせいであまり成長できなくて。
 俺は、ひとりぼっちだった。

 それでも俺はしぶとかった。

 試験じゃあ誰よりも良い点を取っていた。高校には行けなかったけれど。
 二年持てば良いと言われていたけれど、この歳まで生き延びた。
 いよいよダメだと言われてからも、三日間持った。もうダメだけれど。

 ああ、俺の人生。次は、人並みに生きたいな。

 そう思うと、どうしてか涙が出てきて。

 やがて意識が薄れて――……ああ、終わるんだ、って思って――。

 ――

 ――――

 ――――――――

 ――――――――――――――――


「おっめでとうっ! 君は異世界ガチャに選ばれました!!」


 そんなくっそ明るい声に、俺は起こされた。

「は?」

 全く状況についていけない俺は、思いっきり眉を寄せながらも目を開けて、上半身を起こす。
 ベッドに寝かされていたはずなのに、ただ真っ白な空間に俺は寝そべっていたらしい。
 あー、えっとあれか。天国と地獄の狭間ってヤツかここ。
 思いながらも俺はまだ少し重たい頭を撫でながら周囲を見てから、正面を見る。そこには、蒼い髪をショートカットにしたやたらめったら派手な格好の少女がいた。金銀細工、とりあえず付けていれば豪勢に見えるだろう装飾品と、綺麗な虹色のレースを組み合わせたようなドレス。どう見ても着られてる。

「誰、あんた。失敗したレイヤー?」
「ちょっと女神様に向かって何てこと言うんですかねぇ!?」

 紅玉の瞳の少女は即座に涙目になりながら反論してくる。違ったか。いや、でもどう見ても失敗したレイヤーだろ。

「私の名前はイージス! ちゃんとした神様です! 失敗したレイヤーとかじゃありません!」
「あ、そう……」
「なんで釈然としない感じなの!?」
「鏡を見てもらえれば一目瞭然かと」

 顔を真っ赤にしてさらに言ってくる女神? サマに俺はぴしゃりと返した。

「ぐぬぬっ……! まぁいいわ、あなたは幸運なことに死の間際からこの私によって救われたのよ」
「いきなり凄い話の方向転換したなオイ」

 割と一八〇度近く変わったぞ。
 俺のツッコミを、女神サマはスルーするように咳払いを一つ入れた。

「でも無条件で救われたワケじゃないの。異世界ガチャの景品に選ばれたからなの」

 そして放たれた言葉に、俺は怪訝になる。

「ちょっとまて。異世界ガチャの景品ってなんだ」
「待たないわよ。異世界ガチャの景品ってやつよ」
「説明になってねぇぞコラ!」

 何故か腰に手を当てた仁王立ちで言う(たった今クソと決まった)女神にツッコミを入れる。

「端的に言えば、ピンチを迎えてる異世界が異世界の人間を召喚して何とかしてもらおうとしてるんだけど、その召喚のためにガチャがあるのよ。あんた、その景品に選ばれたってワケ」
「なんだかすっげぇ人としての尊厳奪われてる気がするんだけど、その扱い!」
「奪われてないわよ。ただ循環しようとしてる命をちょこっとくすねて自由に使ってるだけだし」
「それ立派に奪ってるから! 横暴って言うんだぞそれ!」
「奪ってても横暴でも結構。だって私神様だし」

 俺の正当極まりない抗議は、しかしとんでもない理不尽なパワーワードで封殺された。
 信じられネェ。

「まぁ文句言わない落ち込まない気に病まない。召喚されたら良いコトあるんだから」
「なんでだよ」
「簡単よ。よくある異世界転生ものってヤツ。つまりあんたはその世界じゃ優遇されるってこと」

 クソ女神は人差し指を立てながら、笑顔で解説する。
 すると、俺の全身がいきなり淡い光に包まれた。

「あら、早速ひかれたみたいね」
「はい!?」

 俺はいきなりの事態に声を荒げる。
 ちょっと待て、俺、もう景品にされてたの!?

「っていうわけだから、早速いってらっしゃーい」

 言うなりクソアホ女神の姿も光に包まれて消えていく。
 俺は尚も抗議というか罵詈雑言の嵐をぶちまけようとしたが、透明なカプセルに閉じ込められ、ゴロゴロとどこかへ向けて転がっていく。
 って待って待って待ってイヤホントに待って。
 え、ナニコレ、まさかこれあれか、ガチャカプセルってやつか、そして俺は景品として入れられてもしかしてもう転送されてるってことか! だったら何て最悪な乗り心地だよ!?
 俺はごろごろ転がるカプセルに翻弄されまくり、あっという間に目を回して全身を強か打つ。
 生きた心地がしないとはまさにこのことだ。

 あのクソアホチビ女神、ぜってぇぶちのめす!

 固く誓っていると、真っ白だった空間が金色に輝きだした。

『ぱんぱかぱーんっ! ガチャ開封だ! どんなレアキャラが出るのかな!?』

 耳に、というか頭へダイレクトに伝わってくるクソみたいな声は、妙に明るい。
 俺はそれにも反駁してやりたかったが、全身痛いし目が回るし、それどころじゃない。いや、むしろまた意識が遠のいて――――…………。


『……おっと、これは残念、このキャラはレアだ。ハッハッハ、落ち込むなよ……』


 そんな爆弾発言がまた脳へ叩き込まれ。
 どういうことだと言う間もなく、俺の意識はぷっつりとそこで途切れた。

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