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執事コンテストと亀裂②




柚乃との出会いは横浜だった。 そして結人が結黄賊を作ってばかりの、中3の時。 結黄賊を作った一ヶ月後に事件は起きた。
その事件は、結人たちは何もしていないのに公共で起きた事件を結黄賊に擦り付けてくるというもの。
それら事件を、ネットでは結黄賊の仕業だと書かれたり叩かれたりしていた。 そのせいで結黄賊は、外を歩くだけで周りの人は怖がり逃げてしまう程。
結人が喧嘩をしている現場に出くわし頑張って人助けをしようとしても、不良たちは結人のことを見ては逃げ、助けようとした人も結人を見ては逃げていった。
だから結黄賊はもう何も手を出せずにいた。 怖かったのだ。 これ以上、人に避けられ続けるのが。 

だけど――――その時だった。 

柚乃と出会ったのは。

普段通り結黄賊が公園に集まっていた時、突然彼女から声をかけられた。 結人は柚乃に対して何も感情は抱いていなかったが、彼女はずっと隣にいてくれた。 
隣にいて、ずっと結人を支えてくれた。 『結人は大丈夫だよ』と何度も言いながら。 そしてある時、彼女は言ったのだ。
『私の知り合いの人に、相談してみたら?』と。 結人は当然、柚乃の言うその知り合いには今まで一度も会ったことがない。 だが素直に嬉しかった。 
その人のおかげで、結黄賊は悪い奴らじゃないということが横浜の人々に認められたのだから。 

事件が解決した後、結人は柚乃と付き合うことになった。 その時も当然、藍梨のことは想っていた。 
だけど、結人が静岡に戻らない限りもう二度と会えないと思っていたのだ。 藍梨と再会を果たすことは、簡単に実現はできなかった。
だがその時の結人は、誰でもいいから自分の隣にいてほしかったのだ。 

自分の味方でいてくれる、誰かが。 

自分のことを支えてくれる、誰かが。 

それが――――柚乃だった。





「別にさー? 今は柚乃さんと別れているんだから、別にいいじゃん。 可愛い彼女、藍梨さんのことを自慢したら?」
結人の目の前で立っている未来が、楽しそうな口調でそう言ってくる。 そんな彼に続き、椎野も優しい口調で言葉を発した。
「そうそう。 柚乃さんには未練がないんだろ? 藍梨さんが一番って思っているのなら問題ないって。 もしこのことが藍梨さんにバレたとしても、そんくらいはフォローできる」
だが結人は彼らの言葉には返事をせず、これ以上は柚乃のことを考えたくなかったため『もうこの話は止めよう』と言って、この話を強制的に終わらせた。

―――これでいいんだ。 
―――俺と柚乃は、もう終わったんだから。





日曜日 午前 


土曜日はあの後特に事件はなく、無事に日曜日を迎えた。 今日は藍梨と遊ぶ約束が入っている。 この日を結人はずっと楽しみにしていた。
早めに家を出て、彼女との待ち合わせの場所へと足を進める。 

それから数分後、期待に胸を膨らませながら歩いていると、突如携帯が鳴り出した。 ポケットから取り出し、相手を確認する。 
―――柚乃・・・か。
電話に出ないままでいようとしたが、しばらく放置していても鳴り止む気配はない。
藍梨との待ち合わせの時間にはまだ余裕があったため、溜め息をついて仕方なく出ることにした。
「・・・もしもし」
『もしもし結人? あのね、相談したいことがあるんだけど』
結人の冷たい声とは反対に、電話越しからは陽気な声が聞こえてくる。 彼女の声のトーンを聞く限り深刻な相談ではないと察したため、なおも冷たい口調もまま言葉を返した。
「何だよ、相談って」
『うん、あのね・・・。 レアタイのことなんだけど』
「なッ・・・!」
柚乃の最後の一言を聞いた瞬間、結人は思わず進む足をその場に止めてしまう。 今一番聞きたくなかった言葉――――レアタイ。 

正式名――――赤眼虎(レッドアイタイガー)。

『ねぇ、結人。 今から会えない?』
「・・・今じゃなきゃ駄目か? 今日はこれから予定があるんだけど」
申し訳なさそうにそう尋ねると、彼女は少し考えてから言葉を放った。

『うーん・・・。 結人次第、かな。 別に今じゃなくてもいいよ? でも、これは藍梨ちゃんにも関わることかもしれないよ』

―――え・・・藍梨に?
「それどういう意味だよ」
『藍梨ちゃんについては、また会った時に話すよ』
そう言って柚乃は、電話越しで微笑んだ。





数分後


「・・・久しぶり。 結人」
―――来て・・・しまった。
今結人の目の前には、柚乃がいる。 彼女と久しぶりに再会した。 何も――――変わっていなかった。 

髪型も、背丈も、容姿も――――いつものように微笑んでくる、その笑顔も。

本当は藍梨との予定を優先させたかったのだが、赤眼虎と藍梨に何か関係があると聞いた瞬間居ても立っても居られなくなった。 だから――――来てしまったのだ。
藍梨にはここへ着く前に連絡しておいた。 “急用ができたから少し遅れる。 ごめんな”と。
立ち話にしても軽く済む話ではなさそうだったため、結人たちは近くのカフェに入ることにした。 そして、柚乃と向き合う形になって椅子に腰を下ろす。
だけど結人には時間もなかったため、前置きをせず早速話を切り出した。
「どういう意味なんだよ。 ・・・藍梨にも、関わるって」





同時刻 路上


「それでさ! 俺は思ったんだよ! ここは主人公から彼女に告白をしたら、絶対二人は付き合って・・・って、あれ? 藍梨さん?」
藍梨はただ一人、結人との待ち合わせ場所で待っていた。 結人のことを信じて、待っててくれていた。
そんな時――――藍梨が一人で待っている間、偶然未来と悠斗がその道を通りかかり彼女の存在に気が付いたのだ。
「こんなところでどうしたの? 10時からユイと一緒に、遊びに行くんじゃなかったっけ・・・?」
未来たちは藍梨の方へ足を進めながら、悠斗は彼女にそう尋ねる。 その問いに対し、彼女は気まずそうに答えていった。
「うん、そうだったんだけど・・・。 結人、急用が入ったみたいで」
「ユイが急用?」
この時、未来は思った。 藍梨よりも優先させる用事とは一体何なのだろうか、と。 この疑問は、この場にいた悠斗も思い浮かんだことだろう。
未来たちは結人が来るまで、彼女と一緒に待つことにした。 

しかし――――待ち始めてから約一時間程経つが、結人の姿が現れる気配はない。
「・・・俺、ユイに電話するわ」
ついに今の状況に我慢ができなくなった未来は、携帯を取り出し結人に電話する。 だが――――通じなかった。
「くそッ!」
一向に繋がらない携帯を片手に、舌打ちをしながら小さな声で呟いた。

「・・・何をやってんだよ。 ユイ」


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