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御子柴からユイへの想い⑰




結人の言葉を最後に、みんなはしばらく日向が不良たちにボコられているのを遠くから見ていた。 だが見ているだけでも心苦しく、流石に飽きてきて――――
「・・・まぁ、そろそろ止めにいこうか」
「え?」
リーダーの言葉に未来がポカンとした表情で聞き返してきた。
「何だよ、まだ日向を痛め付けたいのか?」
「いや、助けにいく!」
未来に向かって言ったはずなのだが、何故か優が返事をする。

―――やっぱり優は、そうでなくちゃな。

優の一言で意を決した結人たちは、ゆっくりと不良らに近付いた。 彼らはその気配に瞬時に気付きすぐさま振り返る。
「・・・ちッ。 だからよぉー、ここは俺たちの溜まり場だって何度言ったら・・・」
力強く言葉を発するも、不良の声が徐々に小さくなっていった。 その理由は結人だけが分かっている。 そう――――結人の顔を見たからだ。 

この不良たちは、先日藍梨と一緒にここのゲームセンターへ来た時に見かけた奴らと、全く同じ人物だった。

この時点で勝ちだと思った結人はつい表情を緩ませてしまう。
「ちょっと今、いじめられているソイツを助けにきたんですけどー・・・。 いいっすか?」
「・・・ちッ」
不良たちはもう一度舌打ちをして、何も言わずにこの場から去っていった。 そんな光景を後ろで見ていた北野が小さな声で尋ねる。
「え・・・。 ユイ、あの人たちとは知り合い?」
「まぁ、ちょっとな」
その問いには適当に返事をし日向のもとまで足を進めた。 見上げながら鋭い目付きを向ける彼に結人は笑顔を返す。
「お前、無様な姿だな」
「・・・何だよ。 お前らがどうしてここに・・・ッ! もしや御子紫、お前チクったな!」
「え・・・」
突然名を呼ばれた御子紫は困った表情をして慌てて視線をそらした。 そんな彼をフォローするよう言葉を挟む。
「ちげぇよ。 御子紫は俺らにチクってなんかねぇ」
日向はそれを聞いてギロリと視線を結人に戻した。
「・・・じゃあ、どうしてここが分かった?」

「お前さぁ。 今日はここに御子紫を呼んで、御子紫のバッグでも燃やそうとしたのか?」

「なッ・・・!」

驚いた表情を見せる日向に確信しをした結人は自分のバッグからあるモノを取り出した。 
「ッ・・・! その本がないと思っていたら、お前が盗んでいたのかよ! これは窃盗罪に値するぞ!」
取り出したものが自分の持っていた小説だと把握すると日向は再び声を荒げ反抗する。 結人も負けじと冷たい視線を送り返した。
「そういうお前は器物損壊罪、窃盗罪、侮辱罪。 この全てに当て嵌まるけどな」
「なッ・・・」
悔しそうな表情を浮かべる日向を見て後ろにいる真宮が小さな声で尋ねかける。
「・・・ユイ、どういうことだよ?」
ここにいる仲間に説明をしてあげた。 この――――小説の内容のことを。 

主人公はとても弱くみんなからはよくいじめられていた。 何年間もいじめられ苦しかった時、ふと思った。 彼らにいつか絶対に仕返しをしてやる、と。
そして努力し、最終的には自分をいじめていた奴らに仕返しをすることができた。 それ以降、主人公はいじめられなくなり幸せな人生を送ることになる。 そのような物語。
“主人公はみんなからよくいじめられていた”と言った。 そのいじめの内容が、今回日向が御子紫に対してしていたいじめと全く同じものだったのだ。
一番最初に起きたいじめは机の中にゴミを入れ、机の上には落書き。 次は教科書に落書き。 筆記用具を壊す。 悪口を言う。 体操服を隠す。
そして、今日起きるはずだった――――ゲームセンターの裏に呼び出され、自分のバッグを燃やされる。 結人はこの小説を読んでふと思い出した。 沙楽学園の近くにある、ゲームセンターの裏のことを。
その裏には、不良の溜まり場で厳つい男がたくさんいる。 このまま日向が小説通りに実行すると、彼は不良に出会いきっとやられてしまうと予測した。 
これをいい機会に、それを利用してやろうと思ったのだ。 自分たちは何も手を出さずに日向を懲らしめることができると思い、この日まで結人は苦しい気持ちを持ち合わせながらも待つことにした。 

今もなおその場に座り込んで抵抗できない日向に笑みを浮かべる。
「まぁ少なくとも、この本は俺の手に渡るべきではなかったよなーぁ?」
「ッ・・・」
「つか、この小説の最後っていじめっ子がやられるんだろ? つーことは、お前はマゾか? ははッ。 ・・・まぁ実際、お前は今やられているしな。 この小説の通りになったわけだ」
「・・・」
今度は笑った表情から冷たい表情へと切り替えた。

「お前の負けだよ、日向」

「ちッ・・・」

結人は御子紫へと視線を移動させた。
「御子紫。 今まで苦しい思いをさせちまって本当に悪い。 ・・・自分に自信が持てなくて、行動を積極的に移すことができなかった。 ・・・真宮にも、迷惑をかけちまった」
「・・・」
「日向に言われた通り、俺は偽善者でもいい。 だけど御子紫のことは本当に大切な仲間だと思っている。 ・・・大事な、かけがえのないダチだって。 
 もし御子柴がそう思ってくれなかったとしても、俺はそう思い続ける」
そう言うと御子柴は顔を上げ結人と目を合わせた。
「俺は御子紫のことが好きだよ。 大事な仲間だからこそ、そう思えるんだ。 御子紫は俺たちにとって大切なチームの一人。 だからこれからも絶対に、俺は御子紫のことを守ってみせるよ。 
 これからもずっとな。 リーダーとしてではなく、俺の大事な、ダチとして」
全ての想いを伝え終わると御子紫は小さな声で尋ねかける。
「・・・ユイ、どうしてそこまで?」
「俺はこういう奴だからよ」
苦笑しながらそう言うと彼も少し笑い返してくれた。
「・・・ありがとう、ユイ。 俺もユイのことが大好きだ。 ・・・つか、この気持ちは他の奴らよりも負けねぇ自信があるよ」
「はぁ? 何だよそれ」
「だってユイは、俺にとって神様だから」
その言葉を聞いて結人は何も言えなくなり苦笑だけを返す。

―――そんなことを言ってくれるのは、御子柴だけだよ。

「・・・ユイが元に戻ってくれてよかった。 今まで元気がなくて少し様子がおかしかったからさ。 ・・・とにかくよかった。 おかえり、ユイ」
「御子紫・・・。 ありがとな」
突然『おかえり』と言われ言葉に詰まってしまったが、何とか感謝の気持ちを伝えることができた。 御子紫は日向へと視線を移し冷めたように言い放つ。
「・・・ユイに、謝ってくれるよな?」
「・・・」
「俺はお前に何を言われようとも、ユイの味方につくよ。 俺はユイのことを信じてる。 ・・・だってユイも俺のことを信じてくれているから」
「・・・」

「さっきも言ったけど、ここにいる中では俺が一番ユイのことが好きだと思っている。 その自信はある。 ・・・そのくらい俺は、ユイに依存しているから」

そして御子柴はふっと表情を消した。
「・・・早く、謝れよ」
「・・・悪かったな」
あまりの迫力に気圧され日向が諦めるように呟くと、結人は思わず笑ってしまった。
「ははッ、日向が謝るとかマジで似合わねー!」
彼は反論しようと口を開くが、返される前にもう一度言葉を放つ。

「北野、日向に手当てをしてやってくれ。 あぁ、あとこの本はもういらねぇから返すわ」

そう言って日向の足元にトスッ、と小説を落とした。


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