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老人の名前は、アザゼル。
アンゲロスの総隊長を務めている。
覆面の男は、モスマン王。
妖精王とも呼ばれイリアの兄でもある。
「そうか……
ボクよ、ひどい目にあったんじゃな。
じゃが、安心せい、ここにいるモノは君の味方じゃ」
アザゼルが、そういって小さく笑った。
「そうだな。
我もこうして迎え入れられている。
許せないのはテオスだ。
白銀が事件の直前まで主のそばにいたのなら……
白銀が犯人ではないのかもしれぬ」
モスマン王が、そういって顎に手を当てる。
「そうだよ!ボクは、私の命の恩人なんだから!
なんでも相談してね!」
イリアも笑う。
「うん。
ありがとう」
「とりあえず、そろそろ晩飯の時間じゃからな。
兵舎に部屋が余っておる。
主は、そこで暫く泊まるといい」
「はい」
「じゃ、行こう!
私が案内する!」
イリアが嬉しそうにボクの手を握りしめる。
「あ……」
ボクは思わず声を出す。
なにもためらわずにボクの手に触れる。
この世界に来て奴隷時代には考えれない行為。
孤児院にいたときは、なにも意識しないで触ったり触られたり平気だった。
でも、なぜか前世の記憶がよみがえる。
ばい菌と言われ自分がいじめられていた時の記憶が……
イジメのきっかけは些細なものだった。
醜い自分が、女の子が落としたシャープペンを拾ってしまったことだ。
拾って渡したら女の子は泣き出した。
自分のお気に入りのシャープペンにボクが触れてしまい、もう使えないと……
それまで、自分は避けられていた。
無視されていたのは自覚していた。
殴られるわけでもなく暴言を投げつけられるわけじゃなく。
ただ避けられていた。
最初から避けられるのが当たり前だった。
でも、こんなに嫌われているとは思わなかった。
ボクがいじめられたのは、その日からだ……
その日から学校という場所が地獄になった。
そして、気づけば。
ジルやベラ、ジャキに目をつけられ。
イジメの主導権を握られた。
殴られたり物を隠したり。
会話を知らないボクは、無視は我慢できた。
でも、殴られたり物を隠したり。
そして、お金を要求されるのはつらかった。
ボクの忘れていたはずの記憶が甦る。
ボクの目から涙があふれた。
「え?ボクどうしたの?」
イリアが驚く。
「うんん。
なんでもない。
なんでもないんだ……」
するとイリアがボクの体を抱きしめた。
「ごめんね、私の方こそごめん。
ずっと謝りたかった」
「え?」
ボクは驚く。
「なんでもない。
落ち着くまで抱きしめる。
暖かい?」
「うん。
暖かい」
ボクは小さくうなずく。
「よいのか?」
アザゼルがモスマン王に尋ねる。
「うむ?なにがだ?」
「妹、取られるかもしれぬぞ?」
「その時はその時だ」
モスマンが優しく笑った。