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御子柴からユイへの想い⑨





帰り道、藍梨に改めて謝罪をし仲直りすることができた。 藍梨と喧嘩をするということは、彼女は結人に心を許しているということだ。 そうプラス思考に考えていく。
「あ、そうだ。 ゲーセンへ行こう」
どこかで聞いたことのあるフレーズかもしれないが、気にしないでほしい。 突然目の前にある一つの建物に目が留まったため、思ったことをそのまま口にしただけだった。
「プリでも一緒に撮ろうぜ!」
続けて誘うと、彼女は笑顔で頷いてくれた。 結人たちが通う学校から一番近いゲームセンターは、徒歩10分以内にあるここ。 だから沙楽の生徒は、放課後ここへ立ち寄ることが多い。
“今日はどのくらいの沙楽の連中がいるのかな”なんてどうでもいいことを考えながら、中へ入ろうとした――――その時。

「何でガキがこんなところにいんのかなぁー」

突然、ゲームセンターの裏から男の低い声が結人の耳に届いてきた。 店の裏なんて興味もなく、当然一度も足を運んだことがない。
そんな場所で何事かと思い、藍梨を背で隠しながら声のする方へと近付いていった。
「ここは俺たちの溜まり場なんよぉー。 ガキは来ちゃいけないところだぜー?」
―――ッ、何だよアイツら!
裏へ行くと、5人の大人の集団が男の子二人を囲って暴言を吐いている光景が目に入る。 男の子二人は見る限り、小学校低学年くらいだろう。
―――あんな子供を、追い出そうだなんて・・・。
「・・・結人?」
突然後ろから声をかけられ、彼女の方へと振り向いた。
「行ってくる?」
「・・・待ってて、くれるか?」
本当は彼女を一人にさせたくはないのだが、このままだと男の子たちが危ない。 迷いながらもそう聞くと、藍梨は小さく頷いてくれた。
流石に外にいては危険なため、彼女にゲームセンターの中へ入っているよう促す。 同時に、自分のバッグを藍梨に預けた。

―――よし、行くか。

彼女が走って館内へ入っていくのを確認すると、早速裏へと足を進めていく。 不良たちは結人の存在に、すぐ気が付いた。
「・・・子供相手に、酷いんじゃないっすか?」
鋭い目付きで睨んでくる不良らには一切動揺を見せず、そのまま男の子たちのいる方へと向かう。
「ここは俺たちの溜まり場なんだよー。 だから部外者は来んな! 引っ込んでろ!」
不良の一人が言い返すように、突然大声を出してきた。 あまりの声の大きさに、男の子たちは震え怯え出す。 
結人はそんな彼らを見て、不良らの輪の中へと堂々と入っていき、男の子たちの前でしゃがみ込んだ。 確かに今、結人は不良らに背を向けている。 
いつ暴力を振るわれてもおかしくはないため、常に周囲にアンテナを張りながら彼らに向かって優しく微笑んだ。
「大丈夫か? 怖かったよな。 君たちは早く逃げな。 もうこんなところに、来ちゃ駄目だぞ」
男の子たちの頭に両手を乗せながら柔らかく注意をすると、彼らは潤んだ目で結人のことを見つめその言葉に大きく頷く。 理解したことを確認し、二人をこの場から逃がしてやった。 
彼らの安全を見届けた結人はその場にゆっくりと立ち上がり、振り返りながらおもむろに口を開く。

「さて・・・。 これからどうしますかね」

それを聞いた男は、突然暴言を吐きながら結人に向かって押し寄せてきた。 だが目の前にいる男たちが何を言ってきても、関係ない。 
目の前にいる男たちが襲いかかってきたとしても、関係ない。 結人は不良らに一切手を出さず、相手の攻撃をただただ避けていく。 
そして数分後――――相手が疲れて無力化したところで、結人は何も言わずにその場を去った。 こういう悪さをする不良は横浜だけでなく、他の場所にもたくさんいる。 
改めてそう感じた。 そんな彼らを見下しながら、結人は心の中で思う。

―――こんな最低な奴ら、この世からいなくなればいいのにな。

そのまま、藍梨が待っているゲームセンターの中へ入っていく。 同時に彼女は結人の存在にいち早く気付くと、結人に向かっていきなり抱き着いてきた。
藍梨は目の前で『無事でよかった』と、何度もその言葉を繰り返す。 そんな藍梨に礼を言いながら、彼女の頭を優しく撫でてあげた。

その後結人たちは、先程起きた事件のことなんて忘れゲームセンターで楽しい時間を過ごす。 そしていつの間にか外が暗くなったところで、結人はさり気なく藍梨に声をかけた。
「藍梨。 今日さ、俺ん家に泊まんね?」
「え? でも・・・」
唐突な発言に困惑するそんな彼女に、苦笑しながら言葉を付け足していく。
「別に俺は何もしねーよ。 ただ、藍梨ともっと一緒にいたくてさ」
そう言うと、藍梨は笑顔を浮かべあっさりとOKしてくれた。





彼女と初めて過ごす夜。 だが緊張するだけで、他は何も変わらない。 それは藍梨も同じのようで、互いに口数が少なくなっていた。 
だから時間を見つけては、日向の机の上にあった小さな本を手に取り、中身を読んでいる。 途中で会話を挟みながらだったため、内容はしっかりと頭に入っていなかった。

だが――――しばらくページを読み進めていると、結人はあることに気が付く。

―――あれ・・・?
―――もしかして、これって・・・。


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