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第13話

白と桃色のドレスを着た、十歳ほどの少女、ショウちゃん––––(ほう)ショウは、スカートをふくらませ、空を舞っていた。

マムシの頭を蹴りとばして、飛びあがった彼女は、抱えていたぬいぐるみを投げ、身を軽くし、巨人の前の木の枝に飛び移る。

––––シャーン!
腰間(ようかん)ではなく、背中にひもでくくった自分の身長と同じくらいの鞘から刀を抜き放つ。

「フンガァァァァァァァ!」
大きな鼻腔(はな)から突風のような息を吐き出し、雷鳴のような叫びを上げながら巨人はショウに(いわお)ほどある拳を突き出す。

––––バキバキバキバキッ!
大木は一瞬で木くずと化す。
 
その中を、仙人の浮遊の術でも会得しているかのように、
「ららららららぁ〜」
鼻歌まじりに、かろやかにすみやかに、ショウはとなりの木へと飛び移る。

「フンゴォォォォォォォ!」
ショウを仕とめ損なった巨人は、今度こそ逃さじと、さらに力と速さを加えた次撃を繰り出す。

豪快な炸裂音とともに木の葉、枝、幹、そして根までも天に昇ったが、打ち砕かれたショウの姿は無かった。

「らんらんらん〜」
なんと彼女は軽業師よろしく、巨人が突き入れた腕に、ちょこんと乗っていた。

「フンガァ! フンゴォ!」
当惑した巨人は、ショウをふるい落とそうと勢いよく腕を払う––––が、少女は瞬時に反対の腕に飛び移る。そして、筋肉の隆起したその腕を駆けた。

「しゃららららら〜ん」
うた声をさらに大きくしながら、腕から肩へと走りぬけ、肩から頭頂へと飛び打つる。

「ふんふんふん〜」
「グガァァァァァァァ!」
己の頭の上で、ごきげんに歌を唄う小娘を握りつぶさんと、両掌ふりあげ、頭頂で柏手(かしわで)を打つ。

––––バァァーン!
爆音に夜空がビリビリと震えた。
 
巨大な二枚の壁が両脇からはさみつぶさんとせまり、衝突する直前に、
「たぁらぁぁぁぁぁ!」
後ろ向きに、虚空へと身を躍らせた。

––––タン、と巨人の頭を蹴って後ろに飛んだショウ。手にしていた刀を、(みね)が背に触れんばかりにおもいきり後ろに振り上げ––––

「せぇのぉぉぉぉぉぉ!」
落下と同時に巨人の前額部(おでこ)に打ち込む。

その細く小さい腕のどこにそんな膂力(りょりき)があるのか、と見た者を驚愕(きょうがく)させるほどの勢いで、巨人の額を、眉間を、鼻梁(はな)を、唇を、あごを、喉を切り下げていく。

胸まで割り裂いた時、ショウは刀から手を離した。

刹那(せつな)、彼女の全身から、力という力が抜けたように、ぐったりと四肢(からだ)を投げ出し、仰向けに落下する。

「ホガァァァァァァァ!」
巨人は深々切り下げられた激痛に(もだ)える。

斬り口が石へと変わり、砂が漏れ出す。それを片手で必死に押さえながら、もう一方の手を伸ばし、ショウをつかみ、にぎりつぶさんとする。

––––そして、五指が少女のからだを捕らえた。
 
一瞬にして圧し潰され、ドレスは血と肉の袋と化す––––はずが、その前に巨人の手は石へと変わり、ボロボロと崩れ出した。指と指の間が割れ、抜け落ち、ショウの小さな身体がこぼれ出る。

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