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第十四話

「ま、まさかの楡浬ちゃんキス。それもブラックホール以上の深さ。どうにかなってしまいそう、しかし。」
「アタシのファーストキスが・・・。取り返しのつかないことをしたような気がするわ。アタシのファーストキスはもう戻って来ないわ。でも成功したようね。」

 楡浬の現在地。遥か彼方まで続く雲海に浮かぶ円形の城。土星の輪のような城郭に囲まれている。その大きさは東京ドーム数百個分もありそうである。そこにあるドーム球場大のひときわ大きな部屋にいる弁財天、楡浬、そして横たわる大悟。天井からは豪奢なシャンデリア、大きな絵画、壺などの調度品。宝石を鏤めた椅子、机もいかにも高価な作りである。

「あ~。ビックリした。まさか、娘からのキス、それも神痛力付きとは。楡浬ちゃんも考えたね。価値逆転で、時空を戻すとはね。まあキスはおいしかったし、よしじゃあ帰っていいよ。って、そんなにカンタンには行かないよ。楡浬ちゃん。弁ちゃん、とひと勝負していかないと、しかし。」

「お母様。どういうこと?」

「こういうことだよ、価値逆転、しかし。」
明るい大きな部屋は漆黒の闇に包まれた。

楡浬と大悟はからだのバランスを維持できず、倒れた。しかし、前後左右、上下のない場所。倒れたわけではない。それどころか、何も感じない。手を動かしてみる。何も反応がない。足もない。胴体だけではない。頭もなかったのである。

「お母様、価値逆転とか言ってたけど、いったい何をしたの?」

「これが本当の価値逆転だよ。空間、いや時空をひっくり返す神痛力。弁ちゃん、はこれで虚無から存在を創造したんだよ。それがビッグバン。弁ちゃん、が言葉の語尾に付けてるオリジナルワード『、しかし。』、それは価値逆転を意味するんだよ、しかし。」

「ちょっと待ってよ。じゃあ、アタシたちは今、この場で、虚無になったってこと?」

「ピンポン、ピンポン。大正解!楡浬ちゃんたちはただの意識だけの存在。でもそれって、超ラッキーなんだけど。」

「どうしてよ。」

「形のあるものはいつか必ず壊れてしまう。数百億年という時間の中ではっていうことだけど。でも意識だけなら永遠だよ。からだに付随する魂ってものがあるけど、それは有限。からだとのリンクが解ければやがて消滅してしまう。でも価値逆転で、意識を分離すれば、滅することはない。こんなお得な生き方、他にないよ。全知全能の弁ちゃん、が言うんだから間違いないよ、しかし。」

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