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藍梨との初めての休日③



土曜日 日中 路上


高校生になって二度目の休みがきた。 他に言い換えるならば、藍梨とは初めての休日。 今日は結黄賊のみんなと、一緒に遊ぶことになっていた。 
昨日どこへ遊びに行こうかと考えた結果、御子紫が『じゃあ、ボウリングへ行こう!』と最終決定したのだ。

―――ボウリングとか、嫌な予感しかしねぇ・・・。

そう思いながら、結人は藍梨の家まで足を進める。 ボウリングの予約は未来がしてくれたようだ。 
藍梨を家まで迎えに行き、彼女が出てきたところで一緒に集合場所へと赴いた。 そんな時、藍梨が隣で不安そうな表情を浮かべながらこう呟く。
「ねぇ結人ー。 私、ボウリングってあまりしたことがないんだけど・・・」
か弱そうなその発言に対し、結人も苦笑しながら言葉を返した。
「あー、大丈夫大丈夫。 俺も別に、得意っていうわけじゃねぇしー・・・」

―――・・・くそッ。 
―――後で御子紫を恨んでやる。 

「お、ユイと藍梨さんおはよー!」
みんなは既に集合場所へ到着していたようで、ボウリング場の前で結人たちを待っていた。 彼らの中へ交ざりながら、結人はみんなに向かって口を開く。
「みんな来るの早いな」
「将軍を待たせるなんてことはしないっての」
すると椎野が、笑いながらそう返してきた。 その流れで北野が、結人たちの会話に入ってくる。
「グループを決めてきたよ。 平等に、あみだくじで」
どうやら北野がグループを決めてきてくれたようで、早速グループ分けの発表をすることにした。 人数が多いとボウリングどころではないため、二つのグループに分かれることにしたのだ。

彼に発表された結果――――Aグループは結人、藍梨、優、御子紫、椎野、北野。 Bグループは未来、コウ、悠斗、夜月、真宮に決定した。

―――よりによって、御子紫と一緒かよ・・・。 

そう発表されるのと同時に、御子紫が結人の方を見てニヤリと笑う。 そんな彼から、ふてくされたようにわざと視線をそらした。
藍梨と結人は、予め一緒になるよう考えてくれたようだ。 そしてグループ分けされたメンバーを見ながら、もう一つの思いが心の中を過る。

―――それと・・・コウと夜月が同じチームか。 
―――何か大変なことになりそうだな。

「それじゃあ、そろそろ予約した時間だから入るぞー」
未来のその言葉を合図に、彼を先頭にして結人たちはボウリング場へと入った。 シューズに履き替え、ボウリングの玉を取りに行く。
自分のものを取りに行こうとすると藍梨が困っているのを発見したため、彼女に合う玉を一緒に選んであげた。

「よし! 普通にやってもつまんねぇから、何か勝負でもしようぜ!」
みんなが準備し終え集まったところで、未来が笑顔でそう提案をしてくる。
「勝負?」
「そう! グループ内でな。 負けた人がチームのみんなに、飲み物を奢るっていうのはどう?」
「その勝負、乗った!」
その言葉に椎野がいち早く賛成したことにより、彼の案は採用された。 





「それじゃあ、ユイからどーぞ」
順番はじゃんけんで決め、最初は結人からになってしまった。 御子紫はそう言いながら、笑顔で手を差し出し誘導してくる。
明らかにこの場を楽しんでいる彼のことを軽く睨み付けながら、隣にいる椎野に向かって小声で尋ねた。
「何でボウリングにしたんだよ」
その問いに、椎野も小声で苦笑しながら返してくる。
「ユイは確かに完璧な奴だけど、一つくらい苦手なものを藍梨さんには見せておかないと、だって」
「・・・」
その答えに何も言い返す言葉が見つからず、結人は反抗するのを諦め渋々投球を開始した。

そして、一投目――――ガター。

「ああぁ、くそッ!」
そう――――結人はボウリングが苦手だ。 何度もボウリングへ行って練習したりはするものの、一向に上手くならない。 
「御子紫って、尊敬する程にユイのことがすげぇ好きなのに、結構厳しいんだな」
結人の様子を見ていた椎野は、椅子に座りながら御子柴に向かって言葉を投げかける。 
だが結人はそんな発言には気にも留めず、二投目を投球――――結果、何とか2本倒すことができた。

「どうして俺が投げた玉は真っすぐに進まないんだ! 真っすぐ投げているのにコノヤロー!」





隣のレーンで大きな声で叫んでいる結人を見ながら、苦笑して真宮は呟く。
「相変わらず、ユイはボウリングが苦手なんだな」
その小さな呟きを聞き取ったコウは、彼の発言に自分も苦笑した。
「一応、横浜にいた時はユイに教えたりして練習とかしていたんだけどな」
そして結人たちに遅れ、真宮たちグループも投球を開始する。
「よし! んじゃ、俺から投げるぞー」
一人目は未来。 投球の結果――――9本からのスペアだった。 そして次はコウの番。 結果は――――初っ端からストライク。 
コウは何でもできるため、こういう遊びでも完璧なのだろうか。 そして悠斗も『ボウリングは苦手だ』と言っていたのにもかかわらず――――合計、8本も倒していた。





「結人ってボウリングが苦手だったんだね。 何か可愛いー」
結人が待機する椅子に座ろうとすると、藍梨が微笑みながらそう言ってくる。 そんな彼女に、思わずムキになってしまった。
「最初っから得意じゃないって言っただろ! これ以上言うと、藍梨でも怒るぞッ」
藍梨の発言に恥ずかしくなってしまった結人は、少し赤くなった顔が見られないよう身体ごと彼女から背ける。
「それじゃ、俺投げるねー」
優が投球している間、結人は近くにいた北野に話しかけられた。
「大丈夫だって、ちゃんと倒れているんだし」
そう言って、彼はさり気なくフォローしてくれる。 
―――でも、そう言われてもなぁ・・・。
「藍梨さん投げられるー?」
次は藍梨の番だということで、椎野が彼女のもとへ駆け寄りながらそう尋ねていた。 
―――そういや、藍梨もボウリングはあまりできないんだっけ。
―――つか椎野! 
―――俺にはサポートなしで、藍梨にだけしてあげるなんて・・・!

藍梨の投球は――――椎野のサポートのおかげで、7本倒しでのガターだった。


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