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第6話

「金之助、お、おい!しっかりしろ!」
(のぼる)切迫(せっぱく)をとおり越し、もはや絶叫と言うべき声を聞き、金之介ははっとして目を見開く。

「ギャャャャャャャ!」
勝ちほこった奇声をあげ、小鬼は金之助の顔めがけて刀を逆手(さかて)に突っ込んで来た。

「ふんぬっ!」
両足をふんばり、上半身を極限まで反って、小鬼の刺突をすんでのところでかわした。
升たちとの毎日の野球で鍛えた背筋力のなせる技である。

「やったぁ!」
死の風をやり過ごした喜びも束の間、
「ギャギャーッ!」
すかされた小鬼は、大地に落ちるのと跳ねるのを同時にやってのけ、再び金之助を襲う。

「なにくそっ!」
逆えび反りにした上半身を素早く戻し、足首をひねって小鬼にあい対し、大小の刀を交差して防ぐ。

––––キィーン!
金属と金属がぶつかり、響音(きょうおん)が夜気を裂き、火花が()ぜる。

「ギャギャギャギャギャギャ!」
弾かれた小鬼は、器用な身さばきてで宙で一回転。地に降り立つや、間髪入れず今度は突進して金之助のすねを狙い、()ぐ。

「うわわわっ!」
右手に持った刀を力いっぱい振るい、防ぐ。その力に押され、小鬼は後へ数歩よろめき、さがる。

「ギギッ⁉︎」
明らかな狼狽の色でその醜怪な顔を歪ませた小鬼であったが、今度は飛び上がって金之助の顔にせまる。

––––が、金之助は無言で左手に握る小さい方の刀––––脇差(わきざし)で払う。

「ギャヒィィィン!」
小鬼は刀を手からはじかれ、ぶざまに地面に頭から落ちた。

「……な、なんなんだ!」
柄を握る両手を引き寄せ見て、金之助はつぶやく。

命が危険にさらされているとはいえ、自分が刀剣をこのようにたくみに扱えることに驚いていた。

子どものころ、棒きれを持って斬り合う遊びぐらいが関の山で、真剣を振ったことも、まして刃を合わせたこともなかった。

たが、いま二本の刀を、(おの)が手のごとく、器用に使いこなしている。

「……重さを感じない
正確には感じなくなっていた。

柄を握り、土から引き抜いた時こそ「ずしり」と鉄の重みを感じたが、振れば振るほどに、それは筆や箸のような軽さになって、いまや羽毛もかくや、であった。

「ギェェェェ!」
思案の沼に沈んで動きが止まった金之助。「スキあり!」と、夜気を引き裂く金切声とともに、小鬼は大上段にかまえ、向ってきた。

––––銀光一線。

神技的速度で金之助の右手の刀が動き––––いや流れ、小鬼の刀をはじき飛ばした。

––––トスッ!

乾いた音をたて、近くの木の幹に突き立つ。

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