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告白③


特にその後は藍梨と何も話すことなく、時間だけが過ぎていった。 そして授業が全て終わり、帰りのホームルームの時間となる。
「それじゃあ、早速今日から委員会の集まりがあるから忘れずに行くように!」
先生が教卓の前で大きな声でそう言うと、5組は解散した。 一部の生徒が友達と楽しそうに帰っていく中、結人は一人嫌な顔を浮かべる。
―――委員会か・・・。 
―――藍梨さんと一緒とは言え、やっぱり委員会はだりぃな・・・。
「ユイ!」
ホームルームが終わると、すぐに真宮が結人のもとへやってきた。 なおも集まりへ行く気にはなれずずっと座ったままでいる結人に、彼は口を開いてくる。
「俺、先に帰っているな」
―――え? 
―――あぁ、俺は委員会があるし別に先に帰っていてもいいけど・・・。 
―――待っていては、くれないのか。
先に帰られて少し寂しいという気持ちをどう表現しようかと迷いながらも、一応返事をしようとした。
「んー、いいけど、でも」

「帰り、藍梨さんと一緒に帰れるチャンスだろ!」

結人の発言を遮るように、わざと小声にして耳元でそう囁く真宮。
―――・・・あぁ、そうか。 
―――藍梨さんと一緒に帰れるチャンスなんだ、今日。
あまりの委員会の嫌さに下校のことをすっかり忘れていたため、気付かせてくれた彼に感謝をした。
「おう。 頑張るわ」
その期待に応えるよう、笑顔を作って言葉を返す。 
「そんじゃ、夜月たちには俺から言っておくから! また明日な!」
その表情を見て安心したのか、真宮は笑顔で教室から出て行った。 一人取り残された結人は、隣にいる藍梨のことを横目で見る。

―――・・・誘う、か。

一緒のクラスにいるのに別々で同じ集合場所へ向かうのも不自然だと思ったため、勇気を出して声をかけることにした。
「藍梨さん」
隣で荷物の整理をしている彼女の名を呼ぶと、今回は流石に驚かなかったのかすぐに結人の方へ顔を向けてくる。
「委員会、行こうか」
藍梨はその発言に小さく頷き、荷物の整理をし終え二人揃って教室を後にした。 
だけど折角二人きりになれたというのに、結人たちは委員会の行われる教室へ行く間、何も話さず向かうことになる。
他愛のない話を持ちかけてもいいのだが、結人はまだ気になっていた。 懸念を抱いているため真相を確かめたいのだが、真実を知るのが怖くて、尋ねる勇気が出なかったのだ。

藍梨の――――あの、引きつった笑顔に。





委員会はつまらなかった。 とても時間が長く感じた。 いつもは藍梨が隣にいてくれるだけで、時間はあっという間だったというのに。 
今も彼女は結人の隣にいるのだが、時間はあっという間に過ぎてはくれない。

―――・・・どうしてだろう。

そう思いながら、結人はつまらなさそうに頬杖をついて窓際の方へ目をやった。 
隣では藍梨が委員会の内容をノートにメモを取っており、教卓の前では先生が委員会の説明をしている。
今行っているものは、みんなの自己紹介を簡単にし、風紀委員のする内容の説明、先生からの話程度。 

そして――――約一時間程経って、ようやく委員会が終わった。 みんなが各自解散していく中、彼らにつられて席を離れようとした藍梨を結人は呼び止める。
「藍梨さん、今日一緒に帰らない?」
その発言に彼女は少し戸惑いながらも、小さく頷いてくれた。 





下校時 路上


藍梨と初めての帰り道。 夕日がとても綺麗だった。 結人たちを見守るよう優しく照らしてくれて、綺麗な藍梨をより映えさせている。 
温かく包み込んでくれるオレンジ色の中、藍梨ともう少し一緒にいたくて、結人は彼女に向かって口を開いた。
「寄り道、してもいいかな」
「・・・」
なおも彼女は何も言わずに、ただ頷くだけ。 藍梨は先程から何も言葉を発しないため、この状況が物凄く気まずく感じる。 
この空気に耐えるのは難しく話しかけたい気持ちはあるのだが、結人の心にはまだ迷いがあった。 そのせいで、声をかけられずにいる。 
その前に、迷いというものは一体何なのだろうか。 結人は何を迷っているのだろう。 

何を――――恐れているのだろうか。 

そこで結人は、おもむろに空を見上げた。
―――・・・そうか。
―――・・・俺はこれ以上、藍梨さんに嫌われたくないって、思っているのか。
―――藍梨さんは俺から話しかけられること、迷惑だと思ってんのかな・・・。
彼女の引きつったあの笑顔が、脳裏に浮かんでは消えていく。 その繰り返しだった。 結人は今、緊張している。 
それは藍梨が隣にいるからという意味ではなく、違う意味での緊張をしていた。 

胸が――――苦しい。 

なら早めに解決して楽になりたい。 こんな気まずい状態がこれから先も続くと思うと、とても耐え難かった。

―――だったら・・・聞くしか、ないだろ。

迷っている自分を打ち消すように、意を決して藍梨に向かって口を開く。
「・・・俺と、風紀委員をやるのが嫌だった?」
この瞬間周りの音が、少しの間何も聞こえなくなった。 周囲の雑音が、脳へ辿り着く前にすぐ消去される。 だけど藍梨の言葉だけには、集中していた。 聞き逃さない、ために。
「・・・え?」
すると彼女は急に声をかけられ驚いたのか、その場に立ち止まり結人のことを見つめてくる。 そして発言の意味を時間置いてようやく理解したのか、すぐさま否定の言葉を紡ぎ出した。
「あ、いや、違・・・」
「本当のこと、言っていいよ」
今度はハッキリとした口調で、再び言葉を放つ。 別に彼女を怖がらそうとしているわけではなかった。 ただ、藍梨の本心が知りたいだけ。 
しばらく藍梨に真剣な眼差しを向けていると、彼女は俯きながらも頑張って声を出し、自分の意見を主張してきた。

「・・・違う、逆なの」
「逆?」
「・・・うん。 結人くんが私なんかと一緒の委員会になっちゃって、迷惑だったんじゃないかなって・・・」
「・・・」

その答えを聞いて、結人の思考は停止する。
―――それが、藍梨さんの本心なのか?
「だから、その・・・」
藍梨は困った表情をしながら、続ける言葉を探していた。 ここで完全に振られると思っていた結人だが、彼女のその発言を聞いて少し希望が見え心が軽くなる。
―――・・・藍梨さんを、追い詰めちまったかな。
目の前で困惑している藍梨に、安心させるよう優しく言葉を綴り出した。
「俺こそ、その逆だよ」
「え?」

「俺は、藍梨さんと一緒の委員会になれて嬉しいよ」

そう――――これが結人の本心だ。 そう言うと彼女は安堵したのか、いつも通りの優しい表情へ戻り小さく頷いてくれた。
―――よかった。 
―――俺は別に、嫌われていたわけじゃなかったんだ。
―――それじゃ、こんな気まずい雰囲気を打ち消すためにこの後はお茶でも誘って・・・。

~♪

そんなことを考えていると、突如鳴り出す結人の携帯電話。 空気を読まず、変なタイミングで鳴り出したため少し嫌な顔をするも、ポケットから携帯を取り出す。 
結黄賊は、もし仲間が襲われた時やピンチに遭った時は必ず連絡するよう約束しているため、連絡が来たら相手が結黄賊問わず確認しなければならない。
その約束を自然と守るように、結人は電話の相手を確認した。 
「ッ・・・」

その瞬間――――結人の顔は、少し歪む。

「結人くん、出て・・・いいよ?」
携帯を見つめたまま電話に出ようとしない結人を見て不思議に思ったのか、藍梨が近くへ来てそう言ってきた。
「いや、いいよ」
その言葉を聞いて、慌てて携帯をポケットの中にしまい込む。 だがこの時になって、ようやく気付いた。 

携帯を見た瞬間、自分が一瞬苦しそうな顔をしてしまったのを、彼女に見られてしまったのではないか、と―――― 

そしてまた、結人たちの間には気まずい空気が流れ込む。
―――あぁ・・・くそ。 
―――あの電話一本で・・・。 
本当はこの後お茶でも誘い更に関係を深めようと思っていたのだが、これ以上気まずい雰囲気を貫きたくはないため、今日はもう諦めて帰ることにした。 
「もう帰るか。 俺が家まで送っていくよ」
「え、でも・・・」
近くにある時計台へ視線を移す。 時刻はもうすぐ、18時になろうとしていた。 
流石に外がまだ明るくても、女子一人で家に帰らせるのは男として駄目だと思ったため、続けて結人は口にする。
「もう遅いだろ? 帰っている間に暗くなっちゃうかもだしさ」
藍梨を不安にさせないよう心配してそう声をかけるが、彼女は何かを考えているのか俯いたまま何も返事をしてこない。 そんな藍梨を見て、ようやく彼女の気持ちを察する。
―――あぁ・・・そうか。 
―――まだ出会って一週間くらいしか経っていないし、何も知らない男が家まで付いてきたらそりゃ怖いか。
彼女が黙り込む事情を把握した結人は、苦笑しながら言葉を紡ぎ出した。
「そうだよな。 俺が藍梨さんの家の前まで付いていったら、怖いよな」
「・・・」
「じゃあ、俺はもう帰るわ。 藍梨さんも、気を付けてな」
ここにいることが耐えられなくなり、そう言うと逃げるようにしてその場から姿を消した。 だけど結人が家へ向かって歩いている間、再びポケットから携帯が鳴り出す。 

相手は――――先刻かかってきた人と、同じだった。

少しの間放っておくがそれでも鳴り止む気配がないため、仕方なくその電話に出ることにした。
「・・・もしもし」


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