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ロヴェル道中④

あの旅人……あの僕と会った後にすぐ殺されたであろう旅人が言うには、ロヴェルは陽の街らしい。

今のところ、陽の街を連想させるようなことは何もない。
さっきの集落も、確かにロヴェルの領域ではあるが、陽という感じはしなかった。

「さて、通行証を用意しないと……」

内ポケットをゴソゴソと漁り、金属で出来た一枚のカードを取り出す。
通行証と呼ばれるコレは、名前や戸籍を置いている街の名、そして有効期限が書いてある。
どんな仕組みかは分からないが、本人以外が持つと、有効期限の数字が変わり、失効するようになっている。
不思議ではあるが、恐らく仕組みを知っているのは上層部の中でも選ばれた者だけだろう。つまり、一般人からすれば雲の上に等しい存在だけ、というわけだ。

正直、僕自身としては通行証があるという事実だけで構わない。
仕組みを知っていようと、僕にとってこの通行証には通行証としての価値しかないのだから。

□■□■□■□

「……長い」

「……バフッ」

見えない。
とにかく先が見えない。

ロヴェルの関門前は、街へ入ろうとする者で大混雑していた。当然だろう。
ロヴェルへ入る関門は、この目の前にあるものと、その真反対……港町ヨナへと抜ける関門の2つしかない。

その上、ロヴェルは商業の街。周りから物資が集まる流通拠点でもある。
それに伴って、人も多く訪れる。

本来なら、犯罪率を増加しそうだが、街の管理人がガードを固くしているのだろう。だから、関門でのチェックに時間がかかり、そしてたった2つしか関門を設けなかったのだろう。

「全然、進まないね」

「……バフッ」

馬もつまらなそうな表情で、僕を見つめていた。
背中に荷物を載せたまま、何刻かかるか分からない関門チェックを待たせるのはあまりにも酷だと思い、馬を座らせる。

「君、また会ったね!もう着いていたのか」

頭上から声がするが、気のせいだ。
あの時、殺されたはずの旅人の声が聞こえるなんて、おそらく幻聴だ。それほど僕は疲れ切っていたのだろう。

「ハハハ、死んでるのかい?」

軽い冗談も聞こえてくる。
それだけ疲れていたんだろう。関門を抜けたら、すぐに宿をとって寝よう。

「……で、殺されたんじゃなかったんですか?」

「ひどいことを言うなぁ、君は」

頭上を覗き込むのは、間違いなくあの時殺されたはずの旅人だ。
もちろん、死の瞬間など目撃していなかったから、推測ではあったが……。

「だって、悲鳴を」

「そりゃ、誰だって、マジギレ寸前のオーナーを見かけたら悲鳴あげるだろうよ」

「オーナー……?旅人じゃないのか?」

興味はないが、この長い列をただ待つだけじゃつまらない。
少しでも会話の相手にでもなってもらって、時間を潰そうと思い、切り口を探っていく。

「イーアンは死の街。馬鹿正直に職業柄なんて言えば、場合によっちゃ剥ぎ取られる。ああいう所は、相手がコドモだろうと旅人って言っておくのがいいのさ」

「……で、商人か?」

「もうちょっと、俺に興味を持ってくれても良くないか?確かに商人だがさ」

「そうか、じゃあこの列も慣れたのか」

「慣れたどころか、正味、こんな列はまだええ方だがな。ヨナとか行ってみろ。1日経っても入れない時だってある」

「……次の目的地はヨナなんだが」

「ハハハ!残念だったな。ところで、君も商人なのかい?見た所、その馬に乗っけた荷物が商品と思えるが」

「言ったはずだよ、僕は旅人」

「そんな嘘はイーアン周りだけにしようぜ?旅人が物資搬入専用関門に並ぶわけないだろ」

「……物資専用?じゃあ、旅人は?」

「この列の隣だろ。ほら、この列の先頭の隣。誰も並んでいない門があるだろ?」

目を凝らすと、確かに関門人がいるのに、誰も並んでいない入口があった。

「助かった。それじゃあ」

馬を引き連れ、その入口へと向かっていく。カラン、カランと心地の良い音を鳴らしながら、列の横を悠然と歩いていく。

「って、おぉーい!君は本当に旅人だったのか!!」

後ろから声が聞こえるが、生憎喧騒で聞こえなかった、という事にしておこう。
何もなかったかのように、僕は陽の街、ロヴェルへと入っていった。

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