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 女性がお茶を渋り、莉奈たちがいたのが数百メートル先の病院、そこまで聞いて、マスターは何故莉奈が「ママも飲めるお茶」と言ったのか、大体想像がついてしまった。
 数百メートル先にある個人病院は、近所どころか全国的にも有名な産婦人科病院である。銘家御用達でもある。そして、マスターも茶を卸している。
「食事制限は?」
「特には」
「では、現在食べにくいものなどは?」
「……ほとんど、です」
 |悪阻《つわり》が酷く、食べられないのだろう。さすがにそうなってしまえば、マスターとて手の打ちようがない。
「元々朝はお茶とご飯だったのですが……」
 カフェイン接種を控えるように、そういわれて止めているという。
「多少なら問題ないと言われておりますが」
「私の場合、二リットル近いお茶を消費するので」
 それはやめておいた方がいい。それ以前にお茶も飲みにくいときた。

「……ふむ。ただお茶を飲むだけなら、水出し茶は如何ですか?」
 そう言いながらも、マスターは水出し緑茶を女性の前に置いた。
「え?」
「お茶全般に言えることですが、水出しや氷を使って出したお茶というのはカフェインが少ないのです。それから、苦味も。お子様でも気軽に飲みやすくなります」
 その代り、緑茶であればカテキンが少なくなる。そういったメリット、デメリットも教えていく。
「てっきり、ルイボスティなどを勧められるかと思いました」
「あちらもお勧めですよ。ただ、あれだけを飲んでいると飽きる方もいらっしゃるので」
「私、味が苦手で」
「そういう方もいらっしゃいますね。糖類やミルクを入れることによって味が大分……」
「ママね、ぎゅうにゅうだめなの。のむとぶつぶつなの」
 とどのつまり、アレルギーである。
「気分転換に飲むのに、蜂蜜や砂糖を入れて飲んでみるのもいいかもしれませんね。それでだめなら、寒くとも水出しお茶になります」
「……努力してみます」
 ルイボスティの栄養価などは、産婦人科でも聞いてきただろうから、マスターはあえて言わなかった。

 ちなみに、白岡家は「白岡流」と呼ばれる茶の家元である。そこに茶を売ろうなど、マスターはみじんも思っていない。緑茶であれ、紅茶であれ、家元となれば相当な付き合いがあるはずだ。
「水出しに向かないお茶、というのはありますか?」
 上手くいけばお茶が飲めるかも、それゆえほっとしたのだろう、白岡家の若奥様が尋ねてきた。
「向かないというか、コクが強いお茶、セイロンやアッサムなどミルクティ向きのお茶はどうしても味気がなくなってしまいますね。あとはハーブティでしょうか。緑茶であれば、玉露などはもう、水出し、氷出しと相性がいいですから」
「紅茶で水出しお勧めなのは?」
 さすが朔である。さりげなく必要な知識を聞いてくる。
「バランスのいいスリランカのキャンディやインドのニルギリでしょうか。最近話題の和紅茶も合いますよ」
 なるほどね、そう周囲に聞こえないよう呟く朔に、マスターは苦笑した。
「こちらが、ルイボスティです。お好みで蜂蜜やジャムを入れてお召し上がりください」
 こればかりは飲んでみないと分からないものなのだ。

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