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姿を現した悪魔

『おぉぉぉぁぁあああああああああああっっっ!?!?!?!』

 戦闘指揮所に響く悲鳴は、受話器の向こうの部隊からだった。
「どうした!?」
「確認中です!」
 と、そんな通信兵の声に遅れて、急にずん、と大きな音が聞こえる。
「今の音はなんだ!?」
 慌ててテントを出る。

 森を見下ろす丘陵、その場所は指揮にうってつけだった。
 そして南東660ヤルド付近はここからよく見えた。
 煙の上がる場所はどうなっているのか……?
 双眼鏡を覗くが、よくは分からない……
「門弟大尉、左700ヤルドを!!」
 と、司祭将校の指示に従うと、もう一か所煙のようなものが上がる場所があった。
 今、慌てて飛び立った鳥の近くで、何か鋭い顔のようなものが見える。
「あれが新型か……木の大きさからみるに、ヘヴィネスか…!?」
「門弟達が言っていた機体でしょうか……1機だけではなかったのですね…」
 ここからは大体900ヤルドぐらいの距離にいる機体は、土煙をかき分けて出てくる。
 白い機体だった。
 60フィロトもの巨体であるにもかかわらず、その体は重厚さという印象を一切感じない。
 足が長く、全体的に流線型で細いシルエット、鋭角な顔の横には二つの剣のようなアンテナが伸びる。
 美しい。
 思わず、そんな感想を漏らす程、その機体は美しかった。
「……いや、一機だけ……なのか?」
 ふと、最初の煙の場所を見る。
 そこにいたはずの機影は見えない。
「おかしいぞ、ヘヴィネスがこんな短時間に消えるか…?」
「まさか、あちらの機体が先ほどの位置にいたと?」
 まさか、と吐き捨てる。

 ヘヴィネス級は、強力だが、足が遅い。
 だから進軍には必ず遅れるし、小回りが利かないがゆえに歩兵で殺す方法が使える。

 基本中の基本の事だ。
 飛び跳ねられない事もないが、推進剤を大きく無駄にするが故にそう簡単にはしない。脚の基礎フレームも磨耗する。
 やったとしても推力的に木を1つ飛び越えるのが精一杯だ。

「バカな……ヘヴィネス級の脚で飛べるわけが、」

 その瞬間、白い機体が走り出す。
 一歩、二歩、三歩で大きく跳躍し、

「な……なぁ!?」

 ━━━ズゥゥゥン!!

 一瞬で距離を詰め、目の前に着地する。

 着地の衝撃で、大きく吹き飛ばされ、テントもなにもが木々にぶつかるまで止まらない。
 ヘヴィネス級の質量そのままの衝撃なのだ。

 そんなありえない風圧を受け、バカな、と背中と肺に感じる痛みと共に心で唱える。
「~、かはっ!? げほ、げほっ……!!」
 ぶつかって、地面に倒れこむ。
 痛みに耐えてすぐに息を整え、そびえる機体を見やる。

 60フィロトの真上から鋭い視線が、こちらを向いていた。
 ヘヴィネスの体躯と思えぬ細さ、鋭角な装甲の端々から威圧感を感じる。

「悪魔め……!」

 それをそう表現せず、どう言えばいいのか?
 吐き捨てた言葉と共にそ、の巨大な白い悪魔は両肩の装甲の下から機関砲を覗かせ、こちらに掃射してきた。

      ***

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