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悪魔の森からの報告

「……悪魔の森は、未だに蔓延る……」
 ふと、司祭将校の男が言葉を漏らす。
「……私は、この異教徒の森に入るのはこれで二度目でしてね。その時は、恥ずかしながら使命も忘れひたすら逃げ出しました」
「いい判断ですな。こんな場所、暖かい以外に良いところなどない」
「ええ…………この戦いが終わった暁には、焼き払い浄化して、畑にしてやりましょう」
「ええ…………できた麦を収穫して、たらふくパンを作って冬を越したい……」
「そういえば、大尉のご実家は農家でしたな……素晴らしい職業です。食は神の与えた恵みの中でも素晴らしいもの」
「……ある日、農夫コーヴの頭上に現れた光があった。光はこう言った。
『耕し植え増やし収穫しなさい。狩りの時代は終わった』。」
「ヤーシュ第5章64節ですね」
「だが異教徒共は未だに狩りを続けている。
 獲物は同じ人間。
 そう、我々だ」
「嘆かわしいことです。そして、困ったことに我らもまた……」
「我らには神からの使命がある。耕し植え増やし、最後は収穫すると。
 我らは収穫しているだけですよ」
 まるで言い聞かせるように言う大尉に、悲しくもその行動をとらせる立場たる司祭将校は黙って頷く。

「…………え?もう一度報告を」

 と、そこで通信兵がそんな変わったトーンの声を漏らす。
「どうした!?」
「お待ちを。
 そちらは第008特殊工作小隊であっているか?
 落ち着いてもう一度報告を
 ……白い機影……未確認ヘヴィネス級クリスタリオン?確かか?
 エクシアロンではない?細い……魔女のエンブレム?
 まった!?すでに攻撃を!?
 なぜそんな勝手を!!おい、貴様、あっ…………」
 切りやがった……と小さく漏らし、通信兵がこちらを見る。

「森東南側660ヤルド地点、未確認の敵クリスタリオンと、門弟対クリスタリオン部隊が勝手に交戦を始めました!
 最後の言葉は、『異教徒共の腐れ機体のカケラで大隊分のネックレスを作ってやりますとも!』です!!」
「よろしい!!全員サヴェーリア送りだ!!
 状況と馬鹿共の罪状の把握を急げ!!」
 信じられない報告に動揺したまま、声を荒げて指示を飛ばす。

「一体全体何があった!?
 通信機がポンコツでなければ!!」

    ***

 ブゥゥゥゥゥゥゥン!!!


 虫の羽音を何千倍も増幅した音は、飛翔する4つの翼を持つリトリス級クリスタリオン。
 連邦高速移動用『プリンシパライザー』は、脚の遅い事でも有名な連邦兵器の中でも唯一の超高速機だった。
「3時の方向だ!!随分でかいな門弟!」
「ああ門弟。いい『カモ』だ」
 後部座席の一人が、高速ですれ違う最中に手短な木に斧を突き立てる。
 柄から伸びる太いワイヤーを伸ばしながら、見える巨大な影の目の前へ張り巡らせていく。
『追い込むぞ門弟!花火を打ち上げる!』
 ヒュン、と飛翔音と共に、対クリスタリオン無反動砲が飛んで行く。
 頭上で打ち上がる花火を見やり、また別の機体から重機関銃を放ち、追い込んでいく。
「デカ物め!! いつだってお前らを殺すのは俺たち小さな信仰者だ!!」
 やがて、遅くはないが、彼らほど早くもない速度で、ワイヤーの張られた位置へ来る。
「かかった!! デカい脚を呪って転べ!!」
 そこは、60フィロトもある巨体から見れば、足の甲を少し上回る程度の高さ。
 足をかけるには十分な高さであり、そして避けるのも容易な高さ。

 だから、その先の地雷を踏んでくれる高さだ。

 木々の間から見える鋭い視線がワイヤーに気づいたのか止まる。
 そして、ワイヤーのない方向から、また無反動砲がやってくる。
 さぁ、罠にかかれ。
 分かっていても、気づいても逃げられない罠の中、

 その巨大なクリスタリオンは、
 屈んだと思えば信じられない動きをした。

      ***

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