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連邦兵の受難

 ズゥン、と滑空砲が至近距離で放たれる。

 そして、コアを打ち抜かれ盛大に四散する半人半蛇のクリスタリオンが断末魔を戦場に残す。
 飛び散った魔石の破片を踏みつけるは、左腰に実弾滑空砲を付けた2足歩行のトカゲに似た姿の機体。
 大きさにして役33フィロト(10メートル)、いわゆる大陸規格で言う『ミドリュア級』の大きさに匹敵する機体だ。
 連邦ミドリュア級機甲部隊主力機、『アークアンゲロイ』。
 共和国呼称(ルーンコード)は『スプラッター(猟奇殺人犯)』である。

『門弟(ブラザー)第378ミドリュア級戦闘中隊全機、被害報告!』

 右肩が赤く、他の機体より電信が多いアークアンゲロイのコックピットが周りを見渡し、皆へ通信を繋ぐ。
『門弟隊長!ここは片付いたようです!』
『457ヤルド(500メートル)後方、そちらは?』
『ピィー……――――こえますか!?  キュゥゥン……ん了、掃討完了です!は━━━』
『クッ…………魔力場通信機はダメか…………!』
 魔力は、未だに分からないことも多いが、樹木と樹木と変わらないような似たクリスタリオンが何食わぬ顔で混在していたり、リトリス級━━歩兵随伴のために生まれた小型兵器クリスタリオン━━に使われるような人間ほどもないようなクリスタリオン原種が山ほど混在しているせいで、驚くほど魔力の流れが阻害される。
 通信機などの技術に劣る連邦機は、これが原因で幾度となく肥沃な大地に必ずある鬱蒼とした森に阻まれている。
『森の魔女の呪いですね…………』
 かつてまだ剣と魔法だけが支配していた時代、この森を利用して連邦の前身たる国々を恐怖に貶めた魔女の伝説があった。
 この慣用句に込めた忌々しさは、時代が変わろうとこうやって残り続ける。
『残敵は少ないはずだ。視界に頼るしかない以上、致し方ない。
 門弟各機、照明弾を使う』
 ボシュウ、と僚機側の肩にあった筒から照明弾が上がり、パァと昼の光に負けない光を放つ。
『天使様が登ったみたいで縁起がいいとは言え…………早い所『枢機卿の方々』が電子線通信機を広めてくれればいいのに……』
『宗教裁判中の敵の技術をたよるんじゃあない。司祭将校様に聞かれればサヴェーリア送り25タラントだ、門弟』
『失礼しました、門弟隊長。どうやら悪魔に惑わされたようです』
『エイメン!我ら門弟に主の加護があらん事を』
『エイメン』
 ふとそこで、二機に近づく巨大な影を見る。
『ミドリュア級部隊の門弟達!すまない、遅れてしまった!』

 見上げる高さは、33フィロトはあるはずのアークアンゲロイでも小さな子供に見える巨体。

 竜のような身体と白く屈強な装甲、翼は無いが、代わりに巨大な固形燃料推進器(ロケットブースター)を持つそれは、最大級にして戦線を突破する花形『ヘヴィネス級』クリスタリオン。
 大陸全土のヘヴィネス級の代名詞であり、最も古くから存在するにも関わらず、未だ『大陸最強』の名を欲しいままにするクリスタリオン、

 名を、エクシアロン。

 連邦決戦型重突撃クリスタリオンにして、敵国では『処刑人(エグゼキューター)』や『白死竜(ホワイトデスドラゴン)』と評され、同格クリスタリオンでも5対1で始めて交戦が許可されたと言う時期もある屈指の名機だ。

『ヘヴィネス級が遅れるのは当たり前だ、門弟!
 それより、なぜこちらへ来た?』
『先程、通信で異教徒の残党がいると聞いた!クリスタリオンが残っていると、急いで照明弾を見て駆けつけたのだが』
『なんだって!?
 すまない、先程からこちらは魔道通信機が不調だ!
 500ヤルドも離れればもう周りが分からない!』
『ではアレはその為の照明弾か!
 くっ…………森の魔女め、忌々しい呪いを残す!』
『待った、門弟全員、10時方向!!』
 と、丸いキャノピーと竜の顔がその方角の空に浮かぶ光を反射する。
『照明弾確認、何発だ!?』
『エクシアロンからは良く見える、三発!緊急事態、だ!』
 そして直後、ノイズだらけの通信が繋がり、途切れ途切れの声が聞こえ始める。
『…………そういえばデサンド部隊の歩兵をさっきから見ないが、まさか…………』
 嫌な予感は当たる物であり、照明弾の放たれたらしき位置から、突然花火のような音が響き、黒煙が上がった。

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