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魔石獣クリスタリオン:1

 文明が出来上がり、暦を正確に刻み始めたのは6000年も昔と言うのが今の学説だ。
 そこから魔法技術の発展と共に、800年も前には太陽の周りを我々の住む星が回っていることに気づけた。

 それ以前に星が球体なのにも気づき、それ以降には重力の存在も知るようになった。

 だが、魔力という力がこの星の中心から出ていることを正確に知ることが出来たのは、

 ほんの70年前の事に過ぎず、魔法をつかえない人間の体の中にも魔力が内包されているという事に気づいたのもそこから10年も後の事だ。

 魔力と言う力は、魔術式と呼ばれる回路の上で初めて別の力に変換できる。

 人間も魔族も、実は体の中に持つ魔力の総量はあまり変わらず、どうも血液や神経の流れに沿うように動く特性から、それらが魔術式に近い流れになる生物が魔法を使いやすいという事だけらしい。

 魔法技術、すなわち魔術の発展と普及の歴史は、常に魔力量と効率的な魔法回路の生成との戦いだった。

 生物の総量が変わらない以上、外部から得る方法を模索するのは当たり前であり、

 魔石と呼ばれる高純度にして大容量の魔力を持つ物質が見つかってからは急速に発展していった。

 手のひらでぎれる程度の石ですら、人間の60倍もの保有量を持つ魔石と言う物質、


 それを見つけた我々は、
 クリスタリオンと言う生命体に出会ったのは必然であった。


 魔石獣〈クリスタリオン〉



 それは、なんらかの生物に似た姿や、伝承の怪物の姿を持つ、その体がすべて魔石で出来た生命体。

 魔石の鉱脈のある場所には必ず存在する不可思議な洞窟や大空洞『ダンジョン』は、このクリスタリオンの幼体が成長過程で食い進んで出来たあり、伝承のダンジョンの奥に住む怪物たちはすべてこのクリスタリオンの事だった。

 魔石の体は破壊しても他の魔石を喰う事で回復し、その体から溢れる生命力から人間も異種族も魔族も太刀打ちできない魔力を持つ。

 しかし、その実魔石を喰う事から他のクリスタリオン以外を捕食せず、人間にもあまり警戒心が薄い種が多いために、生態も何も分からない時代から、人間は利用を考えるのも当然だった。
 捕獲や飼い慣らし、研究は歴史の早い段階で起こる。

 クリスタリオンは普通の生物のような内臓を持たない。
 だがその体の中心部に『コア』と呼ばれる何よりも強力な魔石であり、クリスタリオンの頭脳であり心臓、そして次のクリスタリオンを生むための卵たる機関が存在した。

 そこさえ破壊すれば一瞬で体が四散して死ぬその部分は、

 驚くべきことに、魔法回路を書き込んでも拒否反応が起こらず、クリスタリオンを魔術で動かすことが出来た。



 それが分かってすでに何千年、
 クリスタリオンは、戦場に必ずいた。



 魔石の体に鎧を着せ、人を乗せて戦った。

 武器を持たせ、乗った魔術師が攻撃魔法を叩き込む。

 やがて火砲ができ、装甲は薄く強靭な鉄に置き換えられていき、兵器としての進化の道を歩んでいった。

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