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第3話  ワルモノは 許さない!前編

あっはっはっはっはー、誰なんでしょうね宵闇の美魔女って。
街の人がですねー、私を見るとそう呼ぶんですよねー、ハッハッハァ!

……はぁ、今回の噂は手強いですよ。
静まる気配が見えないんですから。
子供の命を助けたからか、噂の広がるスピードもイジられる回数も前回の比じゃないです。


ちなみに私に魔法の知識なんか欠片もありはしません。
魔法を扱うどころか、魔法の予備知識も医療知識もなーんもなし。
極々平凡な受付嬢なんですから。
あの子が助かったのも偶然が重なっただけだと思いますよ、ほんと。


でも最近ちょっと嬉しいことができました!
跳ねウサギちゃんたちと仲良くなれたんですよー。
めちゃんこ可愛いですよ、毛並みなんかモッコモコ!
ちなみにあれから毎日、律儀に魔術媒体を持ってきてくれてます。
そんなもの要らないから断りたいんですけど、意思疎通ができないんですよね。


なので貰いっぱなしにならないように、ご飯をあげるようにしました。
最初は驚いてたみたいですけど、今はもう慣れたもんです。
頭や背中を触れるくらいになりました。
モコモコスベスベのたまんねぇ身体してやがりますよ!

貰ったマジックアイテムですけど、それは今もポッケにギッチリ詰まってます。
家に置いてくりゃいいんですが、毎回忘れちゃうんですよねぇ。
超不審者ですけど、カウンター越しだったら見えませんし。
今日の夜には忘れずに置いてきますとも。


「おぅい、アリシア」
「あ、マスター。なにかお仕事ですか?」
「領主様からご指名だ。これから館に行ってきてくれるか?」
「え、私がですか? マスターじゃなくて」
「どうやら依頼のようだが、詳細はまだ聞けてない。とりあえずお前を寄越すように頼まれた。すぐ終わるだろうから、宜しく頼むわ」
「イエス、マスター!」


領主様に直に会うなんておっかねえですが、上司の命令にノーはないのです!
せっかく手に入れたこの仕事を無くすわけにはいきませんからね。


領主様の館は街をまるで見下すように、丘の上にデェンと建ってます。
ポツンじゃなくて、デェンって感じの。
遠目から見てもその尊大さは伝わってきます。
良い噂を聞かない事も無関係じゃないでしょうね。

それにしても、もっと街中に建ててくれりゃ楽なんですがね。
あそこまで小一時間くらい歩かなきゃいけないんですよ、クッソゥ。


館に着くと、すぐに奥に通されました。
窓が多くて明るく輝く廊下を通りましたが、心は不思議と和らぎませんでした。
緊張しているせいでしょうかね。

さて、案内されたここは応接室でしょうか? 何やら悪シュミな調度品がゴロゴロしてますが。
毒々しい柄の皮が張られた椅子やら、不揃いでバランス感が気持ち悪い彫刻やら、何が良いんだか理解できない程歪んだツボとか。
それらが無造作に置かれているから、自然と不安定な気分になってきます。


それらに気を取られてしまって、しばらく気づきませんでした。
椅子には既に領主様らしき人が座っていたんですね。
毎日旨いもん食ってそうな見た目の。


「お呼びとの事で参上いたしました。冒険者ギルドのアリシアです」
「……ん」
「ご用命はご依頼と伺っておりますが、詳細の程をお聞かせいただけますでしょうか」
「……うむ」
「ご領主様?」
「街に不思議な娘がいると聞いていたが、見た目も悪くない。連れていけ」
「ハッ!」


ガシリッ


え、ちょっと!
いきなり捕縛ってなんですか。
私罪人かなにかですか、何か失礼な事やらかしました?!

あ、痛い痛い!
兵士さん、私の腕肉を挟んじゃってますって!
痛い痛い!
逃げないから離してぇー!


_______________
________



「ここで大人しく待て!」


バタン。


なぁーんか、とんでもないことになっちゃいましたね。
連れてこられたのはどこかの一室で、奥には女性の人形が3体置かれていますね。
こんな部屋を作るなんて、とことん悪趣味ですな。
この人形の精巧さと言ったら! なんてもん作らせてんですか。
お金持ちの考えることはわかんないですねー。


「あら、新しい子が来たのね」
「ハゥァアッ!」


し、心臓止まるかと思いましたよ。
人形かと思ったら生きてる人でしたか、そうですか。
無表情な上に身じろぎすらしないってだけで、みなさん人間だったんですね。


「あなたもアイツに目をつけられてしまったのね、可哀想に。もうここから出られないわよ」
「え、出られないって……どういうことですか?」
「あなたはこれから、領主に飽きられるまでお相手して、捨てられたらこんな風に監禁されるの」
「え、お相手? 監禁?」
「私たちはあの男のコレクションとしてここに飾られるの。外を出歩くことも、家族に会うことも、死ぬことすらも許されず、ただのインテリアとして」


え、酷い!
酷くない!?
酷いっすよねこれ!


「ささやかな抵抗として、みんな感情を殺しているのよ。こうでもしないと気が狂うだけだから」
「こんな、こんな事が許されるなんて!」
「馬鹿げた話だとは思うけど、現実なのよ。権力には誰も勝てないのね」


この人、凄くきれいで、そして悲しそう。
これまでにどれだけ酷い目に合わされたのか、聞かなくても察しがつきます。
あまり良い噂のない領主様でしたけど、陰でこんな事していただなんて!


そんな会話をしていると、背後のドアがガチャりと開きました。


「アリシア、領主様が御呼びだ。出ろ!」


そして私にも死刑宣告がやってきました。
これからどうなっちゃうのか、分かりきってますが考えたくありません。


私は抵抗することもなく兵士さんの後ろに続いていきます。
廊下の窓から注ぐお日様の光は、私の足元までは照らしてくれませんでした。

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