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新人上級少尉

「ミュ!」
 かちゃり、とベルトを締め、モクモク何かを咀嚼している小さなかわいらしい生物がそこに固定される。
「よっし!
 こちらレッド4、『少佐』がようやく落ち着きを取り戻しました!
 始動準備、できます!」
 狭い座席の中で、その少女は手元の魔導石パネルに魔力を込め、浮かんだ文字列をいくつか打ち込む。
 キィィ、と狭いこの場所に響く音、副式魔術電磁回転発電装置つまりはサブジェネレーターの始動音。
『ようやっとか、最年長! 1000年以上生きているわりに少し手間取りすぎだぞ?』
「ふぇ!?」
『言わんといてくださいですじゃ隊長! 56にもなってくれば大抵の物は覚える先から忘れてしまうわいっ!』
「えぇ!?」
『おぉ! それもそうだ!』
「納得しないでくださいよぉ!
 私確かに1600歳ですけど、体も心も人間換算で16ぐらいなんですからぁ!」
『それもそれでこの1600年一体何をしてたのかしらね~?』
「ウッ!? ……うぅぅぅ…!」
「ミュゥ!」
『ほら、今少佐にも馬鹿にされた!』
「そんなことないです!! そんなこと……ないですよね?」
「ミュ」
 周りから盛大に虐められ、涙目になるその少女……いや正確にはそんな年齢ではないが。

 彼女は、アニエス・マリナー。1600歳、種族は不明だが容姿はほぼ人間の女性。
 おそらく、この大陸では最高齢かもしれないが、それでもまだ軍属になり2年にも満たない新兵である。
 一応、40年前に魔術・魔導の大学校を卒業していることと、士官学校でも優秀だったために『上級少尉』と通常の少尉より上の扱いではあるが、まだまだ青い人間なのは確実だった。

「うぅ……少佐もひどいですよぉ……」
「ミュー」

 ちなみに、同じ場にいる『少佐』と呼ばれている生物は、彼女たちのいた基地に勤続50年、『妖精っぽい狼』という意味の『エルフェンリア』という生物の軍属マスコット、基地ネズミ捕り特務少佐の『メディ』。メスで大好きなのは、戦闘過食4号(ピーナッツバター味)である。

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