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大陸戦史:1

 この大陸の北方に位置する大国「神聖キリエイ連邦」は、『聖教』という宗教の名の元に複数の国が一つの国歌となった国であり、今は『誓約派』と呼ばれる派閥を中心に、旧約聖典に記されし物語に存在する生物以外を『神敵』と定め、迫害と排除を聖なる行為と推進して来た歴史を持つ。

 北方は寒さと日照時間の少ない場所も多く、太陽の元活動できないヴァンパイアや、寒い月の下では最強ともいわれるライカンスロープが跋扈する過酷な土地ゆえに、ある種当然な話だった。

 そしてこの大国の南に隣接する国家は、自然の多さに正比例しそれら神敵認定生物が数多く存在していた。
 だが、そういった生物の中には知能が高いために、場所によっては人間と共存し、彼らを人と変わらない扱いをする者たちもいる。
 そもそも、これらの場所は気候の都合上肥沃な大地と食べられる生物が多く、北方のような過酷さのせいで無理に人間を襲う必要がないという理由もあるが。

 時代の流れの結果、聖教にも上記の誓約派のように神敵認定を行わず、信仰により神に誰しもが寵愛されるという考えの『祝福派』が生まれ、
 ある種必然的に連邦以外の国々はこれらの派閥を国教としたり、そうでなくともその派閥なら布教を容認している国が多かった。

 連邦内に存在する『教皇』の権威の失墜である。

 当然、連邦は武力による脅しや、場合によってはその土地を武力で手に入れる。
 ある程度の飢えと過酷さを侵攻で耐え忍んでいた人間の力はすごい物であり、400年前に一部のそんな暖かい土地は連邦の物になってしまっていた。

 だが、南に位置する様々な国々は、連邦に拮抗する強さがあった。
 彼らが神敵認定した亜人達の兵がいた。亜人、魔族と呼ばれるもの達だけの国があった。
 彼らもまた、土地を守るためにその力を振るい、やはり北方に食い込むように領土を広げた国があった。
 驚いたことに、過酷な大地には彼らの求める物があった。
 魔力と呼ばれる力を使う技法『魔法』の触媒の中でも最も使われる物、『魔石』の豊富な鉱脈。

 絶え間ない戦乱の歴史は必然であり、少なくとも近代の戦争の理由は、お互い単純なものになった。

 一方は、「異教徒と神敵は滅ぼすべきである」と常に謳い、過酷な環境と飢えをしのぐために肥沃な大地を求め、

 一方は、「異種族も人も魔族も何も変わらない」「狂った狂信者は倒すべき」と正義を掲げ、どの宝石より輝く魔導石の取れる土地に手を伸ばす。


 どちらが正義だとか悪だとか、もはやそういうことではない。


 ただ必然の流れがあった。
 戦い、休戦し、戦い、休戦し…………
 期間の長さの違いだけで、必ずこの場所は争いあっていた。
 魔法も科学も発展していっても、結局お互い必要な物が増えて奪い合うだけ。
 東方の蛮族が攻めて来た事もあったが、手を取り合う事もなくただただ敵が増えただけ。

 ━━━此度、大陸でも最も森が多く、連邦の次の魔導石の鉱脈量とクリスタリオンの種類の多い『ルーン魔導共和国』に連邦が攻め入ったのも、

 ただ、山脈を挟んでいるものの、一番近く連邦と隣接していたからに過ぎない。

 誰が呼んだか、ここは『大陸の道路』『戦火の防風林』と呼ばれた国。

 そして、今日また戦争が始まった。

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