花びらが舞う公園で。
私はいま、神様たちがお花見をしている近所の公園に、お弁当を届けている最中です。
ルンルン気分で!!
「お待たせー。出来ましたー!!」
「おぉ、待って居ったぞ。ほれ、ちこうよれ、ちこう」
公園の中に居たのは、ぬいぐるみにしか見えない神様たち。
みんな帰らずに、私の料理を待っていてくれたみたい。
「はーい」
大きな桜の木を横目に見ながら花びらが舞う中を進み、公園の真ん中にお弁当を置く。
「開けるねー。……じゃじゃーん!!」
集まってくれたぬいぐるみたちとあいつの前で、お弁当箱の蓋をカパっと開いた。
中に入ってるのは、ついさっき手に入れた銀色の玉をお刺身にしたもの。
桜のじゅうたんを背景に見ると、光り輝くような銀色が、神秘的なまでに美しかった。
これぞ、神に献上するにふさわしい食べ物!! って感じ。
味付けのしょうゆはお好みで!!
包丁で切るだけだから、真っ黒になる心配もなし!!
失敗する要素なんてないもん。
……ちょっとだけ厚みがふぞろいかなー、なんて思うけど、許容範囲!! うん、大丈夫!!
周囲に居るぬいぐるみのような神様たちも、「おぉー」なんてうれしそうな声をあげてくれた。
「……まぁ、これなら、食えねぇなんてことはなさそうだな」
「えへへーー」
彼にもほめてもらっちゃった。
一応は手伝ってくれたんだし、まずは彼に食べてもらおうかな。
「はい、どうぞ。心を込めて作りましたー」
「……とりあず、毒見くらいはしてやるよ」
彼が銀色のお刺身を箸先でつまんで、おしょうゆにちょんちょんって優しくつける。
大きな口を開けて、ぱくん、とひとくちで食べちゃった。
もぐもぐとかんで、こっくん、と飲み込む。
そして、出てきたのが、
「……まっ、食えるレベルにはなったか」
そんな言葉だった。
……ん? …………あれ??
「ちょ、ちょっとまってよ!! おいしいじゃない!!
ってか、お世辞でもおいしいっていうべき場面でしょ!!」
「あん?? なんだよ、場面って。
こんなんでうまいって言えるわけねぇだろ。まぁまぁだ、まぁまぁ」
むきーーーーー!!
あれだけ頑張ったんだから、「うまいよ」って、ほほえんでくれてもいいじゃない!!
ってか、普通、おいしいって言うでしょ!! 最終話なのよ!?
指先を2回も切りながら頑張ったのに……。
「なによ、むかつくわねぇ!!
…………厄払い、出来なかった??」
「だから、まぁまぁだよ。まぁまぁ。
これなら、死人レベルにはならねぇよ」
「そっか……。よかった」
ほっ、とあんどの息をついた私の髪に、桜の花びらが舞い降りてきた。
その花びらを彼の大きな手が抑えつけてくる。
「お疲れ。まぁ、なんだ。
いろいろと振り回して悪かったな」
初めて聞いた彼からのねぎらいの言葉。
わしゃわしゃと私の髪をなでる彼の笑顔を見てたら、なぜか、胸が締め付けられるように痛かった。
「……あーーー、もぉーーーーー!!
次回も呼びなさいよ!! 次は、ぜーったい、おいしいって言わせてやるんだから!!」
そして気が付いたら、そんな言葉が口から出ちゃってた。
「あん? 次回って、お前、次も来るつもりか!?」
「あたりまえじゃない!! 次はおいしいって言わせてやるんだから!!」
次回もまた子守りかよ、なんて言って、彼が溜め息を吐き出す。
そんな彼の顔も、ちょっとだけ、かっこよかった。
春風に舞う花びらが、空高く舞い上がるり、私が作ったお弁当に彩を添える。
誰からとなく口ずさみ始めた神々の歌声が、花びらと一緒に町全体を包んでいった。
こうして、私が神様たちと初めて出会った日が終わりを告げる。
そのあとも、自由奔放な神様に振り回されたり、むかつくあいつと一緒に色々と頑張ったりするんだけど、それはまた、別のお話。