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哀しき命

1
「こっちだ」
黄牙を先頭に研究所の奥へ進んでいくと、先の方に大きくて頑丈そうな扉が見えてきた。
「この奥に実験で使われていた機械があるんだ。まずはそれを破壊しよう」
言いながら、黄牙が扉の横にある小さなパネルを操作すると、扉が開く。
中に入ると、実験に使っていたのだろう機材や資料が沢山あった。
「色々あるね」
「まぁ、それだけ実験を繰り返してきたってことだろ」
風夜が言いながら、近くにあった紙の束を手にとる。
横から覗きこむと、そこには研究のデータらしいものが書かれていた。
ウイィン
資料を見ていると、何か機械音が聞こえてきて、花音は資料から目を逸らし辺りを見回す。
すると、一つの機械が作動しているのがわかった。
「ねぇ、あの機械動いてるよ!」
「何っ?」
花音が上げた声に、風夜達がその方向を見る。
その先の機械を見て、紅牙と蒼牙、黄牙の顔色が変わった。
「三人共、どうしたの?あの機械って……」
「あの機械だよ!あの機械で、実際に俺達も……」
紅牙がそこまで言った時、その機械の横にあった大きな扉のような物が開き出し、中から出てきた煙が部屋の中に充満していく。
「はは、やったぞ!……遂に、遂に完成だ!」
その煙の中から嬉しそうな男の声がして、花音達は警戒し身構える。
次第に煙が晴れてくると、白と黒二対の翼を生やした研究員の男の姿があった。
異形の姿になった男は、花音達に気付くと、ニヤリと笑った。
「どうだ?これが私の研究の成果だ。龍、鬼、獣、妖、魔、神の力を混ぜて、造り上げた最強の姿……、私の作品の最高傑作だ!……ふははは、これなら上級魔族だろうと、闘神だろうと、私の敵ではない!魔族が手に入れようとしている他の世界も、私の物にできる!」
「まさか……、自分まで実験に使うなんて……」
黄牙が呆然と呟く。
それを聞いて、男は愉しげに口元を歪めた。
「物は試しだ。私が得たこの力、まずはお前達で試すとしよう!」
その言葉と同時に、男の姿が消えた。
「えっ?」
「獣のスピード……」
気がついた時には男の姿が目の前に迫っていて、男が腕を振り上げるのと同時に、風夜に肩を掴まれ、彼と位置を入れ換えられる。
その直後、鈍い衝撃音と共に風夜の身体が吹っ飛ばされ、壁に激突した。
「がっ……!」
「風夜!!」
それらは全て数秒の出来事で、何が起きたのかよくわからずとも彼が自分の代わりに吹き飛ばされ、叩き付けられたというのはわかった。
「鬼のパワー……」
「ちっ、はあぁっ!」
舌打ちした黄牙の背に一対の翼が生え、両手から光弾と魔弾を放つ。
それは男に当たったようにも見えたが、実際には何でもないような顔をしている男に受け止められていた。
「龍の頑丈さ……」
「うわああぁ!」
軽い動作で弾かれた二つの弾は、黄牙へと戻され、反応が遅れた彼に当たる。
「黄兄!くそっ!」
「よくも、黄兄さんを!」
紅牙と蒼牙がそれぞれの腕を鬼、龍のものへ変化させ、男に殴りかかる。
「「うああぁっ!!」」
だが、男は紅牙に魔弾、蒼牙に光弾をぶつけて吹っ飛ばし、彼等の接近を許さなかった。
「魔族と神族の力……、そして」
弓を構えた花音の前で、男の姿がぶれる。かと思うと、分身のように何人もの男の姿が現れた。
「妖の特殊能力……」
「きゃああっ!」
「花音っ……!」
誰が本物か見極められない内に吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる寸前で、誰かに身体を抱え込まれる。
「ぐっ!」
「風夜……!」
聞こえた呻き声に慌てて振り返ると、花音の代わりに再び背中を打ち付けた風夜が膝を付いていた。
「素晴らしい!この力さえあれば、何も恐れるものはない!……まずは、この世界を私の物にしようか、ははは」
そう言って、男は翼を広げると、天井を突き破って飛んでいってしまった。

「皆、大丈夫?」
男がいなくなり、花音はそう声を掛ける。
「うん、ちょっと痛いけど」
「まだ、我慢できるから大丈夫だ」
「それより、あいつを追いかけないと」
黄牙に頷いて、風夜が目を閉じる。
次に開いた時には、左右で目の色が異なっていて、背に翼が生えていた。
「俺が先に行って、奴を足止めしておく」
「……うん、わかった。気を付けてね、すぐ行くから」
「ああ」
飛び上がって、先に行く風夜を見送る。
先程二回背中を強打していたこともあり、心配ではあったが、男に追い付けるとしたら彼しかいなかった。
「いた……!」
街の方まで来て、漸く風夜と男の姿を見つける。
そこには風夜と男だけでなく、異変に気が付いて駆けつけてきたらしい沙羅、神麗、朔耶の姿もあった。
「一体、あいつは?」
「研究所にいた男だよ!」
「でも、どうしてあんな姿に?」
朔耶の問いに、紅牙が答え、沙羅が首を傾げる。
「あいつの研究成果らしい。様々な種族を組み合わせたそうだ」
「その種族というのは?」
「えっと、龍、鬼、神、魔、妖、獣だっていってたけど……」
花音が答えると、神麗は少し考えるような素振りをみせた。
「うーん、何だか相性があまりよくない種族があるのだけど、大丈夫かしらね」
「えっ?」
「んー、彼がどのくらい理性を保てるのかと思ってね」
神麗の言葉を聞いて、花音は風夜と男の方を見た。
「っ……」
男の重い一撃をかわし、風夜が男の腹に蹴りをいれる。
蹴り飛ばされた男は、少しの間動きを止めていたが、急に笑い始めた。
「何だ?どうしたんだ?」
「くく、ははは、あーはははっ」
ひとしきり笑った後、顔を上げた男の目からは光はなくなり、狂ったような笑みが浮かんだ。そして、速いスピードで風夜に接近し、そのまま彼を地面に叩きつける。
「ぐっ……がぁっ……」
「風夜!」
「やっぱり暴走してる……」
「暴走って、さっきまでは普通だったじゃんか」
「ええ、でも」
「神と魔、龍と鬼、獣と妖がそれぞれ反発しあい、彼の意識を喪失させたってところかしら?」
「って、冷静に分析してる場合かよ!」
「そうね」
紅牙に突っ込まれた神麗が手を男の方に向けた。
「はっ……!」
いつものおっとりした雰囲気は何処にいったのか、短く鋭い声を上げて、神麗が光弾を放つ。
「!!」
それに気付いた男が、それまでのし掛かっていた風夜の上から退く。
「はぁっ!!」
追い打ちを掛けるように沙羅が、いつの間にか手にしていた槍を振る。
男が更に風夜から距離をおいたのを見て、花音は弓を構える。
(いくら姿を変えても、弱点は同じ筈……!)
そう思って光の矢を作り、そこに更に力をこめる。
それに気づいて、花音の方へと向かってこようとした男を拘束するように、何かが巻き付いたのがわかった。
「っ……!まさか、いきなりこんなっ、変則的な使い方をすることになるとは、なっ!」
神麗から折れた剣の代わりに渡された柄を握り締め、そこから魔力で作ったのだろう鎖を伸ばして、地面を踏みしめている風夜が言う。
花音の方に向かってこようとする男とそうはさせまいとする風夜、どちらもがかなりの力で引っ張りあっているのか、鎖が時折嫌な音を立てた。
「ハナセェェ……!」
「くっ……!」
風夜が僅かに引き摺られるが、横から四本の腕が伸びて、風夜が持つ柄を掴んだ。
「僕達も手伝うよ!」
「こう見えても、力はあるんだからな!」
蒼牙と紅牙が言った時、今度は男に光弾と魔弾が続けて当たり、バランスを崩した。
「今だ!」
二つの弾を放ったらしい黄牙の横から朔耶が叫び、花音は弓を引き絞る。
放たれた矢は、男に向かって飛んでいく。
それに気付いた男が避けようとしたが、更に拘束が強まり、矢は男の胸へと突き刺さった。
「ソンナ、コノワタシガ……、サイキョウノチカラヲテニイレタハズノ、ワタシガ……」
そう呟いて、男は動かなくなる。
それを見て、花音達はお互いに顔を見合わせると、ほっとしたように笑った。
花音達がいなくなった後、倒れていた男の前に一つの影が現れる。
「……ダレダ……」
「ふふ、まだ生きているかしら?私達がいない間に随分と面白そうなことをしていたみたいだけど、私達にその研究成果を提供し、協力する気はない?」
「ナニ?」
「勿論、只でとは言わないわ。貴方の命を助け、更なる力をあげる。どう?」
その言葉に男は少し考えた後、頷いた。
「決まりね。では、行きましょう」
その言葉と共に、女は男を連れて、姿を消した。

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