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新たな力

1
研究所から逃げ出し、街にある沙羅の家へ戻ってきた花音達は、意識を失っている風夜、紅牙、蒼牙をベッドへ寝かせ、自分達も身体を休めていた。
「黄兄さん……」
「……ごめん、なさい……」
意識のない紅牙と蒼牙が魘されているのに気付き、花音は表情を歪めた。
(私、今のままじゃ、まだ力不足だ……)
能力が目覚めたばかりの頃に比べたら、だいぶ扱いには慣れてきた。
だが夜天達と離れたことで戦力が大幅に下がっている今、ただ能力を使いこなせるだけでは充分とはいえなかった。
三人の意識が戻り、夕食の時間になって皆が集まっても誰もが口を開かず、無言のまま時間が過ぎていく。
「…………なぁ」
その沈黙を破るように口を開いたのは、風夜だった。彼は、真剣な表情で沙羅を見ている。
「一つ聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「ええ」
「もし俺が、魔族としての力を受け入れたとする。そしたら、昼間のあいつと戦ったとして、勝算はあるか?」
「……ええ。あるというより、ほぼ確実に勝てるでしょうね。魔族の自分と戦うにも、貴方の力を上げる必要があるから。勝てばその力に魔族としての力が加わる訳だしね。力に振り回され、暴走するのと、力を自分のものとして使いこなせるのとでは違うわ」
それを聞いて、風夜は考え込むように黙ってしまった。
「風夜……、よかったの?」
「ん?」
夕食の後、風夜が外へ出ていくのを見た花音は後を追いかけ、すぐ外にいた風夜に問い掛けた。
「だって、本当は……」
「それでも、あの化け物を倒すには、他に方法はないだろ」
「…………」
「本当に、それでいいのね?」
返答に迷っていた花音の後から、沙羅の声がする。
「ああ。……魔族の力を受け入れる。だから、協力してほしい」
「わかったわ。ただし、前にも言った通り、そう簡単なことではないけど?」
「ああ」
「なら、今日は早く休みなさい。明日、朝早くから動くから」
そう言った沙羅に、風夜は頷いた。

「着いたわ。この山よ」
次の日朝早く、花音は風夜、沙羅と共にある山の麓に来ていた。
「何なんだ、この山……」
「ふふ、ここに協力者がいるのよ。さぁ、行きましょう」
沙羅が歩き出す。彼女について登っていくと、中腹の辺りに一軒の家が建っていた。その扉を沙羅が叩くと、一人の女性が出てくる。
「あら、沙羅さん?珍しいわね。貴女が此処に来るなんて」
「神麗、ちょっとこの山を貸してもらえないかしら?実は……」
沙羅が女性に、今までのことを説明する。それを聞いた女性は、ニッコリと笑った。
「そういうことなら、構わないわ。好きに使って」
「ありがとう」
そう返すと、沙羅は風夜を見た。
「さてと、じゃあ始めましょうか。あまり時間は掛けられないから、数日で勝てるくらいにはなってもらわないとね」
そう言い、沙羅が風夜を連れて、何処かへ行こうとする。花音はついていこうとして、神麗と呼ばれていた女性に止められた。
「はい、あなたは此処で待っててね」
「えっ?」
「この山って、結構危ないのよ。沙羅さんって、ああ見えてスパルタでもあるから、時間がないなら無茶なこともするかもしれないしね。だから、此処で待ってましょう」
「……はい」
頷いた花音に、神麗は笑い、風夜と沙羅を見る。
「ってことで、この子は私が責任もって預かるから、いってらっしゃい」
そう言った神麗に手を引かれ、花音は彼女の家の中に入った。
神麗の家に世話になるようになって一夜明け、花音は自分が泊まった部屋の中を見回した。
神麗の家には泊まれるような部屋は一つしかなく、風夜と沙羅も同じ部屋のはずだったが、二人の姿はなかった。
「あら、おはよう」
もう起きているのかと思い、部屋を出ても神麗の姿しかない。
(此処にもいない……)
「二人なら、帰ってきてないわよ」
「えっ?」
「ふふ、探してたんでしょ?」
言いながら、花音の前にお茶を出してくれる。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして。ところで、あなたにも何か悩みがあるんじゃないかしら?」
花音の前に座った神麗に言われ、受け取った茶を置いて、視線を移した。
「どうして……」
「そう思うかって?そうね。何故かと聞かれたら、元気がないように見えるからね。何を悩んでいるか、よかったら聞かせてもらえないかしら?」
優しげな表情を向けてくる神麗に、花音は少し迷ったが、口を開いた。
「つまり、あなたは今の力じゃ、充分じゃないと思ってるのね」
「……はい。それに宝珠は、借り物なんです。本来の持ち主は、私の弟なので……」
神麗に返して、花音は俯く。
力が目覚める前も目覚めた後も、必ず誰かに助けられ、守られている。
今は光輝が貸してくれた宝珠の力がある為、少しは役にたてるかもしれないが、返してしまえば、他の仲間達に比べて経験が浅い分、足を引っ張ることになるかもしれない。
そのようなことには、なりたくなかった。
「私、もっと強くなりたいんです!もっと皆の役にたてるように……、皆を助けられるように……」
「そう、……なら、武器とかどう?」
「えっ?」
「こう見えても私、武器の扱いには詳しいし、作ることも出来るのよ」
「でも、私、武器なんて扱ったことないし、何なら使えるか」
「それなら、心配いらないわ」
そう言って、神麗は片目を瞑ってみせた。
「さぁ、入って」
神麗の部屋にあった隠し扉から入ると、武器が沢山置いてあり、訓練も出来るような広い部屋があった。
「これって、全部、神麗さんが?」
「そうよ。……そうねぇ、とりあえず……」
呟いて、部屋の中を物色し始める。少しして、彼女は花音の前に剣、短剣、槍、投擲用のナイフ、弓、銃を並べた。
「さぁ、とりあえず一通り触って、使ってみましょうか」
言われて、花音は恐る恐る手を伸ばした。
「うーん、一番扱えるとしたら、弓みたいね」
接近用の武器には振り回され、銃やナイフは的に当てるどころか、違う場所に弾やナイフが飛んでいくばかりの花音を見て、神麗が言う。
「まぁ、弓にしても実戦でつかうなら、練習が必要みたいだけど」
「うぅっ・・・」
「とにかく、今のこれではあなたにとって大きいのかもしれないし、どうせならあなた専用に作り直しましょうか」
「えっ?」
「ふふ、とっておきのを作ってあげる。二日後には渡すから、楽しみにしていてね」
そう言うと、神麗は花音に部屋から出ていくように言い、部屋にこもってしまった。

二日後、神麗は最初に見た時よりも、だいぶ小さくなった弓を手に出てきた。
「はい。出来たわ」
「ありがとうございます。それで、えっと……」
渡されたのが弓だけだったことに花音は首を傾げた。
「矢は?」
「矢は、あなたが自分で作るのよ。あなたの力でね」
「私の力?」
「そう、つまり光の矢ね。あなたの力が続く限り、連射可能よ。それから」
言いながら、神麗が弓についている三つの水晶を指す。
「この中に他の属性を一時的に入れておくことが出来るの。あなたのお友達に力を分けてもらえば、その力の効果がある間はその属性の矢が打てるってわけ……」
「す、すごい……」
なんてことなさそうに神麗は言ったが、そのような細工までしてもらえるとは思ってなくて、花音はそう呟いた。
「とは言っても、その弓を使いこなせなければ意味がないわ。まずは、基本的なことから始めましょうか」
「はい!」
神麗の言葉に、花音は大きく頷いた。
神麗に基本的な動作を教えてもらい、数時間。
「や、やっと当たるようになってきた……」
連続で何回か的に矢が当たり、花音は息を弾ませながら呟く。
光の矢が上手く作れるようになるまで数十分。
弓の扱いに慣れるのに数十分。
的に上手く当たるようになるまでに一時間以上。
大変だったが、少しでも上達してきたことは嬉しかった。
(もう少し)
コツを掴んできたところでもう少しやっておきたいと、疲れた身体を奮い立たせて、矢を作り、的へ放つ。
だが、その矢がどうなるか、見届ける前に、花音の意識は消えていた。

倒れてからどの位の時間が経ったのか、花音の意識が戻ったのはベッドの上で、傍には風夜の姿があった。
「帰ってきてたんだね」
「ああ。まさか、帰ってきてすぐに倒れてるところに出くわすとは、思ってなかったけどな」
「……ごめん」
呆れたように言う風夜に苦笑して返すと、彼はふと傍らの弓を見た。
「その弓は?」
「これ?私も今のままじゃ駄目だと思って、それを話したら神麗さんが作ってくれたの」
「それで、練習してたのか」
「うん。でも、最初からちょっと頑張りすぎたみたい」
「まあ、倒れるくらいだからそうなんだろうな」
「そう言う風夜こそどうなったの?」
そう問い掛けると、風夜は表情を固くした。
「……取り合えず、沙羅が出してきた課題はすべてクリアした。明日一日休んだら、明後日俺の中の魔力を実体化させるそうだ」
「……そう。じゃあ、明日の内に私はもう少し慣れておかないとね」
風夜の話を聞いて、花音は呟く。
明後日というのは、沙羅が風夜の今の実力を見て、大丈夫だと判断したのだろう。
そして、風夜がもう一人の自分に勝てば、再び研究所に行くことになる。
それを考えれば、花音にはあと一日しか残されていなかった。
次の日、花音は朝早くから弓の練習をしていた。
コツが掴めたからか矢を作るのは簡単で、的に当てることだけに集中する。
何本かの矢が連続で当たった時、拍手が聞こえ、ニコニコと笑った神麗が近付いてきた。
「昨日の今日で此処まで上達するなんて、凄いわ」
「そ、そうですか?」
「ええ。そうだわ。彼も帰ってきたことだし、一度くらい試してみる?」
「えっ?」
「試すって何をだ?」
神麗の言葉になんのことかわからずにいると、それまで見学していた風夜が聞き返した。
「いいから、貴方、この部分に力を送ってみて」
「?」
首を傾げたまま、言われたように風夜が弓の水晶の部分へ手を翳す。
すると、水晶は淡い白い光を放ち始めた。
「さあ、構えてみて。力は使わなくていいから」
「こうですか?」
言われた通り、光の矢を作らずに構えると、風だからか目には見えないが、矢が出来ているような感触がある。
それを射ってみると、弓から矢が放たれたような感覚の後、数メートル先にあった的が粉々に砕けるのが見えた。
「わわっ!?」
「さすが風属性、スピードと切れの良さは一番ね」
「だが、これって効率悪くないか?」
すぐに何を試したのかわかったらしい風夜が言う。
「そうね。その点では改良が必要かしら?まぁ、でもそれは後にしましょう。今はそれで我慢してもらえる?」
「はい。今はこれで十分ですから」
力を借りるにも、今は風夜しかいない。
だから、このままでもよかった。

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