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予兆

1
宝珠があるという谷に着いたのは、刹那の力を使った為、すぐのことだった。
「それで宝珠は何処にあるんだ?」
谷以外何もない場所を見回し、昴が聞く。
「この谷底さ。あそこから下りられる」
そう言って風夜が指した先には、険しい道があった。
「よし、じゃあ妨害が入らないうちに行くか」
「そうだな」
刹那と千歳が歩きだす。花音もそれに続こうとして、王が何やら難しい表情をしているのに気付いた。
「あの、どうかしたんですか?」
「……いや、何でもないよ」
答えて歩き出した王に、残された花音は首を傾げる。
何かが引っ掛かった。
谷底に着くと、そこには小さな祠のようなものがあった。
「あった!」
その中に宝珠があるのだろうと思い、その扉を開ける。
中に宝珠があるのを見つけ、花音は声を上げた。
「っ!」
同じように祠を覗いていた風夜が宝珠を取り出そうと手を伸ばす。
その時、宝珠の周りに電流が走り、風夜を拒絶したように見えた。
何かの間違いなのかとも思ったが、風夜は引っ込めた手を押さえている。
その彼の手には、焼かれたような酷い火傷が出来ていた。
(どういうこと?今までこんなことなかったのに)
思いながら風夜の代わりに宝珠に手を伸ばす。
風夜を拒絶したようにも見えた宝珠は、花音の手を傷つけることなく、あっさりと手に入った。
「……」
「あのさ、風夜、これ……」
「……いや、そのままお前が持ってろ」
自分の手を見つめていた風夜はそう返すと、火傷を負った手を隠すようにした。
「手に入ったみたいだな。よし、なら先に戻ってろ。俺は後の五人に知らせてから戻る」
言って、白夜が姿を消す。
「……じゃあ、先に戻るか。待っている奴等も心配してるしな」
そう言った刹那が力を発動させる。
気が付いた時には、光の街の中にいた。
「花音ちゃん!」
光輝の屋敷へ入ると、声と共にいきなり誰かに抱き付かれた。
「よかったよ、花音ちゃん……、風兄様も……」
「風華ちゃん……」
泣いているようにも聞こえる風華の声に、彼女の頭を撫でる。
「ごめんね、心配かけて」
「本当、捕まったって聞いた時は、気が気じゃなかったわよ」
花音の声に返す声がする。
「あ、琴音ちゃん」
「あ、琴音ちゃん……じゃないわよ、もう」
「本当にごめんね」
呆れたように声を上げた琴音や、その後ろから現れた夜天達に聞こえるようにもう一度言うと、花音は小さく笑った。

神蘭達も戻ってきて、全員で夕食を摂った後、花音は王に呼ばれ部屋を訪れていた。
「あれ?風夜」
王の部屋に入ると、同じように呼ばれていたのか風夜の姿があった。
「ああ、遅くに呼び出して悪かったね。どうしても話しておかなければならないことがあってな。……風夜のことだ」
「俺のこと?」
「正確には、お前に流れている血のことについてだ」
王の言葉に何を話されるのかわからなくて、花音は風夜と顔を見合わせる。
「今日、宝珠を取りにいった時、宝珠に拒絶されただろう?……それは、お前の中に流れている血、……魔族の血が原因なんだ」
「!!」
「俺の中の……魔族の血……」
「どういうことですか!?」
茫然としている風夜の代わりに、花音は聞き返す。
すると、王は一度溜め息をついて、話し始めた。
「話せば少し長くなるかもしれないが、いいか?」
「はい」
「これは、他の国の王族、空夜、風華も知らないことだ。もう何百年も昔の話だが、風の国の王族に魔族がいたことがある」
そこまで言い、王は風夜を見る。
「その時の王は、ある上級魔族の女と恋におちた。その時から、王家の血に魔族の血が混じり始めた。とはいっても、それは極少量のものだ。だが、稀にその血を強く受け継ぐ者が生まれてくるはずだ」
「……それが、俺か」
そう言った風夜に王は頷く。
「そうだ。空夜と風華には、その血が流れていない。だが、風夜にはその血が流れている」
「でも、どうして今になってその話を?」
「風の国を占領しているのが魔族なら今、話しておいたほうがいいと思ってな。今までと違い魔族が関わってくるなら、その影響を受けることもあるだろう。それなら、知らないままでいるより知っていたほうがいい」
「…………」
そこまで聞いたところで、風夜が席を立ち、部屋を出ていこうとする。
「風夜……!」
「…………少し一人にしてくれ」
そう言い、出ていってしまった。

風夜が王の部屋を出ていってしまってからすぐに後を追って出た花音が彼を探していると、ちょうど外へ出ていくのが見えた。
一人にしてほしいと言っていた風夜をこのまま追いかけていいのか、少し迷う。
(……でも、やっぱりほっとけないよね)
そう思い、後を追って外へ出る。
しかし、そこには風夜の姿はなく、花音は歩き出す。
彼がいたのは、街の中央広場だった。
「風夜……」
「……」
戸惑いがちに声を掛けると、無言のまま振り返ってくる。
その表情には何の感情も浮かんではいなかった。
「風……夜……?」
操られていた時のような表情に思わず息をのむ。
すると、突然風夜が笑い始めた。
「ふっ……、はははははっ」
「!?」
いきなりのことに花音が驚いていると、彼は自分の手で目元を押さえた。
「俺が……魔族……?あいつらと同じ……、魔族だって?風の国を占領した陰の一族を裏で操っている奴等と俺が同じ……」
「風夜!」
もうそれ以上は聞いていたくなくて、花音は少し強い口調で彼の名を呼んだ。
「!!」
「確かに風夜の身体には、魔族の血が混じっているのかもしれない。でも、それが何?」
「何って、怖くないのか?」
「怖くないよ。魔族の血が流れていたとしても、風夜は風夜のままだよ。だから、怖がる必要もないよ」
花音がそう返すと、風夜は信じられないというような表情をする。それを見て、花音は続けた。
「大丈夫。もしこの先、風夜がその血に振り回されることがあったとしても、私は信じてるから。風夜なら、大丈夫だって。何があっても戻ってきてくれるって、その血に負けることはないって」
「…………」
「皆だって受け入れてくれるよ。だから、ね?」
言って笑みを見せると、風夜は一つ溜め息をついた。
「全く……、敵わないな」
「じゃあ、この話はおしまい。そろそろ戻らないと、今度こそ皆に怒られちゃう」
「……そうだな」
そんなことを言って、花音と風夜は踵を返した。

バンッ
壁を叩く音が狭い室内に響く。
「くそっ、どいつもこいつにも逃げられ、宝珠まで奪われるなんて……」
「それもあの忌々しい闘神共のせいだ」
「随分、荒れてるわね」
二人の男が苛ついているのを見て、女が言う。
「だが、確かに奴等にはしてやられた。お陰で我等のプライドはズタズタだ」
それまで黙っていた男の言葉に、窮姫が急に笑い始めた。
「何?どうしたの?」
「いや、ちょっと面白そうなことを思い付いてね」
窮姫はそう言うと、妖しい笑みを浮かべた。

「……覚悟が決まるまで、前に現れるな……か」
窮姫達がいるのとは別室。一人でいた火焔は、風夜に言われたことを思い出していた。
(俺は、国を、民を選んで、あいつらを裏切った。……だが、完全にあいつらを捨てることも出来なかった)
「それがあいつには中途半端な位置に見えたってことか」
そう火焔が呟いた時、扉が開いて、水蓮と大樹が顔を覗かせる。
「……何だ?」
「何があったか知らないけど、今すぐ兵を大広間に集めろって言われたんだ。火焔がいなかったから、火の国の兵士にもそうするよう伝えてしまったけど」
「ああ。それで、俺らにも来いってか?」
「そう。まあ、風夜達に逃げられ、宝珠まで持っていかれて苛ついていたみたいだから、何か仕掛けるつもりなのかもね」
「……」
水蓮のその言葉に、火焔は何も返さなかった。

火焔達が大広間に来ると、そこには大勢の兵士が集まっていた。
「あの、一体何をするんですか?」
「ふふ、見てればわかるわ」
火焔達と同じように呼ばれたらしい聖が聞くと、窮姫が返す。
「さあ、始めましょう」
その言葉で兵士達がいる部屋に、何かがばらまかれたように彼等の姿が見えなくなる。
次にその姿が見えた時には、異形の者へと変わっていた。
「なっ?一体何を!?」
「何って、魔族の力を彼等に移してあげたのよ」
「どうして、そんなこと……」
水蓮が聞いた時、窮姫は目を冷たく細めた。
「それは向こうが宝珠を随分手に入れてしまったから、此方も戦力をあげないといけないでしょう?」
「だからといって、これは!」
「……彼等を助ける方法もないわけじゃないのよ。ただ、宝珠の力が必要なのだけど、それも向こうにある宝珠すべての力がね」
「っ……、それはあいつらが集めた分も取ってこいってことか?」
「ふふ、どうするかは任せるわ。ただ、助けたいのなら、ね」
そう言うと窮姫は立ち去っていく。
残された火焔達は、変わり果てた兵士達を前に暫く立っているだけだった。

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