バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

序 ディアブリーノ

 大泥棒のデイビッドは物陰でほくそ笑んでいた。追跡をまいた直後なので気分がいい。

 今日のターゲットであるルビーのブローチを確認する。今日もいいものを手に入れた。あの家の者達の慌てふためく様も見ていてとても楽しかった。

「あの泥棒めが!」
「どこ行った? あっちか?」
「こっちの方に行ったんじゃないのか?」
「探せ! 探せ!」

「まったく。馬鹿じゃねえのか、あいつら」
 まるで見当違いの場所を探している警備や血気盛んな若者達の声を嘲け笑う。

 いいものを手に入れたし、さっさとアジトに戻って祝杯をあげようと腰を浮かせた瞬間、彼の横を黒い何かがすり抜けていった。
 あっという間に手から宝石がもぎ取られる。

「誰だ!?」

 厳しい声で問いかける。目の前にいたのは小さな黒い鳥だった。
 呆然としているとその鳥はデイビッドの目の前で女性の姿に変わる。

「残念だったわね。このブローチは私がもらうわ」
「お前は誰だ?」

 もう一度、ゆっくりと問いかける。

 ヴェールをつけているので顔は分からない。堂々としているが、明らかに十四か十五歳くらいの少女だ。こんな小娘に自分の取った物を横取りされるなんてとデイビッドは歯ぎしりした。

「私はディアブリーノよ。これからよろしくね、大泥棒のデイビッドさん」
「……『ディアブリーノ』だと?」

 その名前は前に聞いた事がある。彼がまだ幼かった頃に。

 彼が動揺したのを面白がっているのか少女はくすりと笑う。

「じゃ、またね」
「待て! お前は……」

 我に返って問いかけるがもう彼女はいなくなっていた。

「ディアブリーノ、か」

 デイビッドは呆然とその名前を繰り返した。

 先ほどまでの高揚した気分はもうなかった。

しおり