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救出そして脱出

1
「この川を越えたら、水の国なんだよね」
雷の国と水の国の境にある川。その川の雷の国側に花音達はいた。
「で、どうやって入り込むんだ?まさか、正面からいくつもりじゃないよな?」
「うん。さすがに、それはね。……どうしようか」
「その方法だけどな」
刹那に聞かれて、花音が呟いた時、紫影が口を開いた。
「俺がお前達を捕まえたってことにして、水の国へ連れていく。一度牢へ入ってもらうことにはなるけど、タイミングを見計らって出してやるから」
「本当?本当は私達を捕まえるつもりで近付いて、牢に入れたらそのままってことない?」
「信用出来ないか?」
琴音の言葉に、紫影がそう返し、それを聞いた美咲も声をあげる。
「だって、貴方も陰の一族でしょ?警戒くらいするよ」
「大丈夫だよ。紫影くんは騙すようなことする人じゃないから」
「他に方法もないしな。任せていいんじゃないか?」
花音が紫影を庇うように言うと、風夜がそう続けた。
「でも、全員が普通に歩いていたら、怪しまれないか?」
「確かに。少しは抵抗したようなあとがないと、おかしいかもね。よし」
星夢がそう言って、風夜、凍矢、刹那を見る。
「貴方達三人、少しくらい怪我してくれない?」
「はっ?何で俺達が?」
「何?それとも、男のあんた達が無傷で、私達に怪我しろと?」
不満そうな声を上げた凍矢に、琴音が声をあげる。
「まぁ、そんな怪我にこだわらなくても。意識を失わせるだけで充分だろ」
「そっか。そうだよね。じゃあ、入る時は男子三人をよろしくね」
「……そこは譲らないんだな」
にっこりと笑った美咲に、刹那が肩を落とした。
「と、とにかく行こう」
「そうだな。飛竜達は、此処においていこう」
「ピィ?ピィー!」
風夜の言葉に、他の飛竜達とじゃれあっていた白亜が慌てて飛んできて、花音の肩に止まる。
「ピィー、ピィー!」
「どうしたの?もしかして、一緒に行きたいの?」
「ピッ!」
肯定するように鳴いた白亜に、思わず苦笑する。
「仕方ないか。その代わり、大人しくしてるんだよ?」
「ピッ!」
離れないというように肩に強くしがみつく白亜に言うと、わかったというように鳴いた。

水の国に入った花音達は、紫影の能力で意識を失わせた風夜達を連れ、水の国の兵士達と歩いていた。
(陰の一族に協力しているのは、本当だったんだ)
ところどころで見る陰の一族と、水の国の人々が普通に話をしているのを見て、花音は俯く。
「花音ちゃん、あれ」
俯いたまま歩いていた花音は、美咲の声に顔を上げ、彼女が見ている方を見る。
すると、此方を見ている聖と火焔、水蓮、大樹の姿があった。
「……さすが紫影ね。ちゃんと、捕まえてきたのね」
「……ああ」
「ふふ、じゃあ、その子達もあの三人と同じ牢へ入れておいて」
聖の声に当たり前のように従った水の国の兵士が、花音達を連れていこうとする。
「花音!」
何か言いたげな火焔達から視線を逸らし、そのままついていこうとした時、紫影の声がして彼を見た。
紫影は名を呼んだ以外、何も言わなかったが、その目で〈後で助けに行く〉と伝えてきていて、花音は一つ頷くと兵士達についていった。
「入れ」
一つの牢の前で立ち止まった兵士が牢を開けて言う。
花音、琴音、美咲、星夢が中に入ったところで、気を失っている風夜、凍矢、刹那が投げ入れられる。
「「「っ!」」」
その衝撃で意識を取り戻したらしい三人を確認したあと、花音が牢の中を見回すと、驚いたように此方を見ている夜天、光輝、雷牙と目が合った。
「花音!?」
「な、何で戻ってきたんだ!?」
声を上げた夜天と雷牙の隣にいた光輝が立ち上がり、風夜に近付いて掴みかかる。
「お前!何で姉上を、また連れてきた!?向こうに居れば……」
「安全?残念だけど、向こうにいても陰の一族は襲ってきたわよ」
「それに、花音ちゃんを止めなかったのは私達も同罪。ちなみに、最終的に此方へ連れてきたのは、そこにいる刹那くんでーす」
「姉上、こいつらは?」
口を挟んだ星夢と美咲に、風夜から手を離した光輝が聞いてきた。
「本当に信用していいのか?その紫影って奴」
それぞれの紹介と花音達の世界であったこと、戻ってきてからのこと、脱出時のことを話したあと、腕を組んだ夜天が言う。
「そうだな。今までそいつの言ったことで、上手くいってたとしても、それが信頼を得るために仕組んでいたことだったらどうするんだ?」
「……大丈夫だよ」
続けていった雷牙に、花音はそう返す。
根拠がある訳ではないが、紫影が花音達に協力する理由は、もっと違うところにある気がした。
牢へ入れられてから、どのくらい時間が経ったのか。
牢番が食事といって持ってきた人数分には足りないパンと冷たいスープをわけあって食べ、身体を休めていた花音は、何かに服を引っ張られて目を開けた。
「ピィ、ピィ!」
おはようというように鳴く白亜を撫でて、身体を起こすと、牢に近付く足音が聞こえてきた。
「……起きてたか?」
近付いてきていたのは紫影で、彼は持ってきていた鍵で牢を開けた。
「紫影くん?今、何時?」
「朝の四時だ。まだ早いが、今しかない」
その言葉にはっきりと目が覚める。
「今しかって」
「お前達を捕まえたってことで、上層部が此方へ一度来ることになった。夜中にはほとんどの陰の一族が迎えにいったが、昼には戻ってくる。だから」
「今しかないか」
紫影と花音の会話に風夜の声が入ってくる。
視線を動かすと、花音と紫影が話していたからか、それともただ気配で起きたのか、全員が目を覚ましていた。

牢を抜け、まだ朝早く人の気配のない街中を抜けると、雷の国との境である川が見えてきた。
(あの川を越えたら、取り敢えずは……)
「!皆、止まって!」
国境の川が見え、安堵した花音は聞こえてきた星夢の声に慌てて足を止める。
その花音達の前の地面が、先へ行かせないというように割れる。
「……悪いけど、逃がすわけにはいかないんだ。戻ってもらおうか」
「火焔くん!?」
聞こえてきた声に振り返ると、火焔、水蓮、大樹とそれぞれの国の兵士達が数人いた。
「違う、俺は……」
夜天達の視線が向けられ、紫影がそう声を上げる。
「そう。彼のせいではないわ。ただ朝早くからこそこそと牢へ行く姿を見て、不思議に思った兵士が教えてくれたの」
「悪いことはいわないよ。もう一度、牢へこのまま入ってくれれば、俺達もこのことはなかったことにする」
大樹の言葉に、雷牙が鼻を鳴らした。
「それで戻ってどうしろって?俺達をどうするか決めるのは、どうせ陰の一族の上層部。ろくでもない目に合うに決まってる。なのに、じっとしていろって?」
「それにお前達は陰の一族についた。俺達と道を違えた今、俺達が大人しくいうことを聞くと思うか?」
雷牙と夜天の言葉に、その場の空気が張り詰める。
「いいのか?抵抗するなら、此方もそれなりの対応をすることになるぞ」
火焔の言葉で、兵士達が身構える。
「ねぇ、刹那くんの力じゃどうにかならないの?」
「無理だ。動きを止めるにも、何処かに飛ぶにも、人数が多い分時間が掛かる。こんな急には……」
「強行突破しかないか」
美咲に聞かれ、刹那が首を横に振ったのを見て、凍矢が呟く。
その時、それまでずっと黙っていた風夜が、花音達の前に出て口を開いた。
「火焔」
「?」
「賭けをしないか?」
「おい!こんな時に何言って……」
声を上げた光輝を風夜は手を上げて黙らせる。
「賭け?」
「そうだ。俺が勝ったら、お前達は俺達を見逃す。お前が勝ったら、俺達は大人しく牢へ戻る」
風夜の言葉に、その場にいた全員が目を見開いた。
「ちなみに、俺達にはあまり時間がないから、一時間の一本勝負。時間内に決着がつかなかった場合はお前の勝ち。どうだ?」
「……いいぜ。ただ、そっちが言い出したんだ。その通りにしてもらうからな」
「っておい!そんなこと言って、大丈夫なのか?」
「貴方の方がだいぶ不利みたいだけど」
火焔が承諾したのを聞いて、紫影と琴音が言う。
「それでも、勝算はあるんだよね」
「ああ」
花音がそう聞くと、風夜は頷いた。

先手をうつように、火焔が幾つもの火球を放つ。
それを避けた風夜に、続けざまに火球が放たれるが、それも避けるだけの風夜を見て、美咲が声を掛けてくる。
「ねぇ、本当に大丈夫なの?さっきから、避けているだけじゃん」
「そもそも敵対した場合、火と風はあまり相性がよくない。……あいつが下手に力を使えば、向こうの力を強めてしまうからな」
「ってますます、不利じゃないか。あいつ、どうするつもりなんだ?」
夜天の言葉に光輝がそう言って、風夜の方を見る。
「どうした?避けているだけじゃ、時間だけが過ぎていくぞ。いいのか?」
「…………」
「……来ないなら、此方からいくぞ」
何も仕掛けてこない風夜に痺れを切らしたらしい火焔の手に力が集まる。
次の瞬間、風夜の周りを炎が壁のように囲み、少しずつ狭まり始めた。
「姉上……!」
「……駄目だよ。手を出したら」
見かねたらしい光輝が動こうとするのを、花音は止める。
「いいの?このままだと、風夜、ただじゃ済まないと思うけど」
花音達から少し離れたところにいる水蓮がそう言ってくる間にも、炎の壁はその範囲を狭くしていったが、あと少しで風夜の身体に達するというところで、それは止まった。
「……やっと動いたか」
火焔が呟き、その言葉で彼が止めた訳ではないのだとわかった。
「だが、ずっとそうやって防いでいるつもりか?……避けてばかりでようやく動いたかと思えば、今度は守りに入って、俺を馬鹿にしてるのか!?やる気がないなら、次で決めてやる!」
そう言った火焔が炎の壁はそのままに、再び力を集中させる。
そして放たれた炎の渦は、炎の壁と混じりあい大きな火柱となって、空へと激しく燃え上がった。
「……はぁ……はぁ……」
「……残り20分か。勝負ありだろ」
「そうね。花音、信じてもらえないかもしれないけど、私達は命まで奪うつもりはないの。だから」
「……まだだよ。まだ手を出しちゃ駄目……」
「花音!?」
「まだって、お前……」
再度止めた花音に、雷牙と刹那が視線を向けてくる。
「花音ちゃん、何を言ってるの?あの火の中だよ、早く何とかしないと!」
「花音、まさか見捨て……」
「違うよ!だって、まだ終わってない!」
琴音の言葉を遮るように花音が叫ぶと、同時にふと川の方へ視線をやった星夢が花音の肩を優しく叩いた。
「そうね、花音の言う通り。まだ終わってないみたいよ」
その言葉と同時に、川の水が渦のようになって、上空へと巻き上がる。
そうかと思うと、燃え上がっている火柱に激突し、辺り一面が水蒸気のようなものに覆われ、視界が悪くなった。
「火焔」
段々と水蒸気が収まり視界がよくなる中、風夜の声が聞こえ、その姿が見えてくる。
所々に火傷は負ってはいるものの、しっかりと立っている風夜に、火焔が目を見開く。
「お前!?」
「何故相性がよくないお前を指名したか、まだ誰もわかってないみたいだな。……まぁ、俺も此処が水の国で、追い付かれた場所が此処でなければ、賭けを持ち出すこともなかっただろうけど」
「!……そういうことか!」
「何、何?凍矢くん、わかったの?」
何かに気付いたらしい凍矢に、美咲が声を上げた。
「ああ。これも相性の問題だ。火は氷と草に強いが、水に弱いからな」
「でも、水を使えるのは水蓮だけだし、火焔とは味方だろ」
「そう。だから、条件をつけた。一対一だってな」
夜天に答えるように言いながら、風夜が川の方へ手を向ける。
「風には、こういう使い方も出来る」
言葉と共に、再び水が上空へと巻きあげられる。
「さっきまでは、防戦ばかり立ったからな。……望み通り、攻めに転じてやるよ!」
「……ぅぐ……」
言葉通りに風を使って巻き上げた水を火焔に向け、その渦に火焔を閉じ込める。
「そのまま沈め!」
そう言い、渦を川へ叩き付けると、中に閉じ込められた火焔も川へとのまれていった。

「さてと、約束は守ってもらうぞ」
水蓮と大樹に助けられ、息を整えている火焔に風夜は言う。
「……わかってる。約束は約束だからな。……行けよ」
「えっ?でも、本当にいいの?」
賭け事態、風夜と火焔で勝手に決めてしまったことだ。
自分達を逃がして、三人が大丈夫なのか、花音は気になって聞くと、水蓮が複雑そうに笑った。
「……今でも、そうやって私達のこと、気に掛けてくれるのね」
「えっ?」
「ほら、もう皆、行ってしまうよ。……こっちのことは、気にしなくていいから行くんだ」
「……うん」
大樹に言われ、花音は風夜達の後を追おうとして、もう一度三人を見た。
「……あのね、今度いつ会うかわからないから、聞かせてほしいの。三人が国を守る為に、陰の一族に従っているのは知ってる。でも、本当のところ、どう思ってるの?」
「……本当はやりたくないさ。今まで築いてきた国と国の関係を壊したくはない。でも」
「私達は国を、民を守りたいの。貴女達を裏切ることになっても……」
「俺は、俺達は、風夜みたいに強くない。国を、民を捨てて、陰の一族と敵対することは出来ないんだよ」
「……違うよ。風夜は、本当は残りたかったと思う。でも、私が弱いからついてきてくれてるの。空夜さんや王様も、私を心配して風夜が一緒に来ることを許してくれた。……だから、私は強くならないと。強くなって、風の国を助けたいの。……だから、待ってて」
「えっ?」
「三人のことも、必ず助けるから!」
「花音、何してるんだ?行くぞ」
ついてこない花音に戻ってきたらしい風夜の声がして、花音は彼の所へ走り出した。
「はい。これでもう大丈夫」
「すごい。美咲ちゃん、そういうことも出来るんだね」
雷の国の森で休憩している最中、風夜の火傷を治した美咲に花音は声を上げた。
「うん。皆も怪我したら、言ってね」
「それにしても、本当に火焔とお前、親友なのか?なんか、さっきのお互いに殺す気満々だったように見えたけど?」
「ああ。まぁ、昔からだよな。風夜と火焔がお互いに容赦ないのは」
光輝が言ったことに、風夜ではなく夜天が答える。
「確かに。いつだったか、能力ありの斬りあいありの喧嘩があったよな。何が原因だったかは忘れたけど、空夜さんに二人して怒られて……、それから何があったかわからないけど、お互いに親友だっていうようになってたんだよな」
それに思い出したように雷牙がくくっと笑った。
「お、男ってそういうものなのかな」
「それよりどうするんだ?とりあえず、目的は果たしたんだろ?」
「うん。そうだね」
紫影に聞かれ、花音はそう返す。
「姉上、光の街に行かないか。休息が必要な奴もいるし、今一番安全なのはそこだろうからな」
「そうだね。そうしようか。皆もそれでいいかな?」
花音がそう言うと、全員が頷いた。

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