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Ex3 少女から見た友3


 暗闇の中、私は目を開ける。

 ユウとサクラがおやすみと言ってから、何時間が経っただろう。
 時計を探す。

 二時と表示されていた。
 朝まであと四時間はかかる。
 私はもう一度目を瞑ろうとした。

 でもユウとサクラが気に掛かった。
 目を閉じる前に、二人に視線を向ける。
 カーテンの隙間から漏れる月明かりで、よく見えた。

「え……?」

 目を丸くした。
 記憶では、サクラがユウの腕に頭を載せて寝ていたはずだ。

 しかし、どうだろうか。
 ユウとサクラが抱き合っていた。

 いや、寝ているサクラを、ユウが抱き締めているのだろう。
 サクラは、寝息を立てていた。
 逆にユウは起きている。

 上に載るサクラの頭を抱き、サクラを見ていた。
 愛おしさと言えば、聞こえが良い。
 しかしユウの瞳の色に、思わず言葉を失う。
 妹に兄が送る視線なのだろうか。

「……ディーネ?」

 呆けて見ていたら、ユウが気付いた。
 瞳を私に向ける。

「……寝れないの?」

「は、はい。あの……」

 ユウの言葉に、私は言い淀む。
 何を口にすれば良いのか、私にはわからなかった。

 ただ視線をユウとサクラに向けて、私は戸惑っていた。
 ユウは私の視線に気付いたのか、苦笑を浮かべた。

「ああ、うん。寝相が悪いんだかね。乗っかってきたから、変わらないなぁって」

 ユウはサクラの頭を撫でながら、静かに口にする。
 どうやらサクラが寝ぼけてユウに被さったらしい。
 それを抱き締めていたようだが、それでも気になる。

「昔からさ、寝相が悪くてね。一緒に寝ると、だいたい抱き枕にされるんだよ」

 ユウは優しい瞳をサクラに向けていた。
 大事に扱っているのは、わかる。
 しかし、それは家族に向ける視線とは到底思えない。

 家族の距離として、どうなのだろう。
 思えば風呂のときもそうだった。

 唯一、妹のサクラに対してのみ、目を向けないようにしていたことを思い出す。
 私やルフィーには、平然と目を向けていた。

 特に思うところがないと言わんばかりに。
 思われても困るが、私に何も抱かないなら、まだわかる。

 でも、ルフィーに対してもそうだった。
 私から見ても美人だ。

 男の人ならば、何らかの反応を見せるのは不思議でもない。
 あのときの会話からすると、ルフィーとユウは古くから共にいるらしい。

 馴れ、なのだろうか。
 ならば、サクラにも馴れてなければならないじゃないか。

 やはり、おかしい。
 どう見ても、この人はサクラに懸想しているようにしか見えない。

 サクラは血縁で、妹なのではないか?
 私はユウを見る。

 この人()、異常な人なのだろうか。
 俄に生まれた怯えを私は隠す。

 だけど、隠しきれなかったらしい。
 ユウは、私を見て笑った。

 苦笑だった。

「……違うさ」

 ユウは否定した。
 私の考えが伝わったのだろうか。
 言葉の続きを、私は待った。

「俺は、血の繋がった妹を好きになったりは、しないよ」

 ユウは言い切った。
 だが、私は驚いている。

 思えばユウが、サクラを妹と口にしたのを聞いたのは初めてだった。

 風呂で、兄妹かと訊ねても、答えなかったのに。
 何を考えているのか、それが気になった。

 そもそも距離の基準がわからない。
 私は勿論、ルフィーとの距離、サクラとの距離だ。
 あまりに違いすぎる。

 あやふやなのではない。
 明確に境界線が作られていると感じた。

 どうやって線を引いているのか。
 他の人とは、どうなんだろうか。
 不意に気になった。

――もう少し、見てみよう。

 何故こうも気になるのかは、わからなかい。
 それでも、もう少しここに居ようと思う。

 私は、ユウをもう一度見た。
 ユウはサクラから目を離し、天井を見上げていた。

「妹を好きになったり、しない」

 ユウはもう一度呟く。
 サクラの頭を抱きながら、口にした言葉はひどく切ない響きだった。

 見ていられなくなり、私は目を閉じる。
 朝まで、四時間。

 黙って過ごすには、長すぎる。
 眠ることが一番の選択だと思った。

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