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旅立ち

1
風の国の中心部を脱出してから数日。
途中で飛竜を降り、徒歩で移動していた花音と風夜は国境の森へ来ていた。
国境には大きな壁があり、通り抜けられる場所には兵士がいる。
花音はピリピリとした雰囲気に戸惑ったが、風夜は気にすることなく歩いていく。
その風夜の姿を見て、兵士達が驚いているのがわかった。
「ふ、風夜様!?」
声を上げた兵士達に風夜が笑みを見せる。
「火焔達に報告したいことがある。通してもらえるか」
「は、はい。どうぞ、お通りください。おい、城に連絡を……」
「それはいい。森を出たら、飛竜を使うからな。連絡が行く頃には俺達も着く」
風夜はそう言って、兵士達の間を抜け、門を潜る。
それを見て、花音は兵士達に頭を下げると彼の後に続いた。
二人が城に来ると、城の一室に通される。
王は忙しく時間が取れないということで、火焔とだけ会うことになり、今は執務中の彼を待っていた。
数十分後、執務が一段落した火焔が部屋に入ってくる。
「二人共、無事だったのか!他の人達は!?」
「脱出したのは、俺と花音だけだ」
「……そうか」
二人の姿を見て顔を綻ばしかけ、風夜の言葉に火焔は顔を曇らせた。
「ところで、火焔、頼みがある。通行証を発行してもらえないか」
「……わかった。明日以降になるけど、いいか?」
「ああ」
風夜が頷く。
「それと何が起きたか聞いていいか。あと部屋を用意するから、二人共休んだ方がいい」
「ああ」
火焔に言われ、風夜は簡単に話し始めた。

「……そうだったのか。わかった。父上には、俺が話しておく。二人は先に部屋に」
「それなんだが、俺も花音も身一つで出てきたからな。街に下りて、必要なものを買いたい」
「じゃあ、行ってこいよ。部屋の準備はしておく」
そう言った火焔に頷くと、花音は風夜と共に街に下りた。


火焔と別れ、城下町へ来た花音はその賑やかな街並みを見て、風の国の城下町を思い出していた。
花音が見た街の人達は、誰もが幸せそうに笑っている。
「この人達はまだ風の国のことを知らないのかな?」
「火焔達が混乱を避ける為、黙っているんだろ」
花音の呟きに風夜がそう返してくる。
「といっても、時間の問題なんだろうけどな」
それを聞きながら、笑っている人々を見る。
風の国のことを思うと、それを知られていないことが少し哀しかった。


数日後、城で与えられた部屋で荷物を纏め、風夜と飛竜のいる中庭に来ると、そこで火焔が待っていた。
「ほら、持ってきたぞ。通行証」
「ありがとう、火焔君」
火焔から通行証を受け取り、礼を言った花音の横で風夜が顔をしかめる。
「それで、そんな格好でどこ行くんだ?」
シンプルで動きやすそうな服を身に付け、足下に荷物を置いている火焔に聞く。
「ああ。俺もお前らについていくからな」
「えっ?でも、いいの?」
火焔の言葉に花音は不安そうな声を上げた。
隣国である風の国が陰の一族によって制圧されたのに、次に襲われるかもしれない一国の皇子が国を出てしまっていいのだろうか。
「いいんだよ。それに、これは父上の命令でもあるんだ」
火焔はそう返してきたが、何故かその目は花音達から逸らされている。
それに風夜も気がついていたようだったが、彼はその事に何も言わなかった。
「それで、これからどうするんだ?」
話を逸らせるように火焔が聞いてきて、花音は風夜を見る。
「特に決めてないな」
「おい!」
「じゃあさ、夜天君のところに行こう。夜天君の国の何処かに光輝もいるみたいだから」
「てことは、闇の国か」
花音が言うと、風夜が呟いた。
「決まりだな」
火焔が言って、笑みを浮かべる。
「よし、じゃあ奴等にばれないうちに出発しよう」
風夜と火焔がそれぞれ飛竜に飛び乗る。
いつもと同じように風夜に飛竜に乗せてもらって、闇の国に向かう。
その途中、花音は胸を高鳴らせていた。
(もうすぐ、光輝に逢える!)
幼い頃、別れたきり会っていない弟との再会が待ち遠しかった。

火の国から闇の国に到着したのは、飛竜で五日後だった。
通行証を見せ街に入ると、すぐに城から兵士がやってきて王に謁見するよう伝えられる。
風夜と火焔の後ろから謁見の間に入ると、国王らしい男性と王妃らしい女性が正面の玉座に座っていていて、二人の傍に控えるように夜天が立っていた。
王の前で膝をついた風夜と火焔を見て、花音も慌てて同じようにする。
「風の国が陰の一族に襲われたと聞いていたが、よく無事だったな」
「はい。私達は父上に言われ、奴等が城に到達する前に脱出し、その直後城は奴等に制圧されました」
「だが、何故風の国が襲われたのだ?」
「それは……」
王の問いに風夜が視線を移してきて、王と王妃も同じように見てきたのがわかった。
王妃はともかく王の鋭い視線に花音は、思わず身を小さくする。
それがわかったのか、王妃がクスリと笑みをこぼした。
「貴方がそんなに睨むような目で見ているから、彼女が恐がってるわよ」
「父上、あまり花音を恐がらせないでください!後で俺が光輝に睨まれます」
「む」
王妃と夜天に言われ咳払いをした王を見て、花音は笑ってしまい、王と目が合って今度こそ風夜の背に隠れた。
王との謁見も終わり、花音が与えられた部屋でゆっくりしていると、ドアを叩く音がして夜天の声がする。
「花音、入っていいか?」
「うん。どうぞ」
花音が返事を返すと、夜天が部屋へ入ってきた。
「どうしたの?」
「ん?ああ。明日、光輝のところへ行くかどうか聞きに来たんだ。あいつ、襲撃のことを伝えたら落ち込んでいたからな。なるべく早めに行った方がいいと思ったんだ」
「いいよ。元々、そのつもりでこの国に来たんだしね」
「そうか」
花音が笑みを浮かべて答えると、夜天はほっとしたように笑った。

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