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異世界

1
「ただいまー」
陽が落ち、薄暗くなりつつある中、制服姿の少女が家へと帰ってくる。
家の中は人気はなく、明かりもない。
「お父さんもお母さんも仕事だったっけ」
少女、桐生花音は溜息をついた。
幼い頃から一人で留守番することはあり、帰ってきた時に誰も居ないのに慣れてはいたが、寂しいという気持ちもあった。
廊下の電気を付け、階段を上がって自分の部屋へ向かう。
その途中で両親の部屋のドアが開いていて、中で何かが光っているのが見えた。
「何だろ?」
光っているものが気になって、両親の部屋へ入る。
光を放っていたのは、シンプルなペンダントだった。
「こんなの、お母さん持ってたっけ?」
どうにも気になってしまい、ペンダントを手に取ってよく見てみたが、やはり母親が付けているのを見たことはない。
「まぁ、何処にも付けていってないし、家に保管してあるってことは、それだけ大切なものなんだよね」
そう呟き、納得したように頷くと、ペンダントを戻そうとする。
しかし、その前にペンダントの光が強まり、花音を包み込んだ。
「えっ?きゃあああ!」
その直後、花音の足場がなくなり、何かの空間に投げ出されたように感じた。
一瞬後、光がおさまった時には花音の姿は消え、鞄だけが残されていた。

2
「いったあ……」
身体を包んでいた光がなくなり、花音は地面に腰を打ち付ける。
「何なの、もう……」
立ち上がり、服についた土を払いながら、辺りを見回す。
今いるのは、森の中のようだった。
「ここ、何処なんだろ?とにかくこんな所じゃ人はいないだろうしまずは出ないと……」
そう呟くと、花音は少し辺りを警戒しながらも歩き出した。


(もう駄目……)
森の中を暫く歩き、歩き通しだった花音は近くにあった岩に座り込む。
どの位の時間が経ったのかはわからないが、なかなか出口が見付からない。
体力的にもう限界だった。
(お父さん達、心配してるかな?)
そんなことを思いながら空を見上げた時、背後で地を踏む音がした。
誰かが来たのかと振り向こうとして、それより前に首にヒヤリとする何かを突き付けられる。
視線で確認すると、細身の剣が見え、息をのんだ。
「なっ!?」
「動くな!」
鋭い声と共に殺気を向けられ、花音は肩を震わせる。
「見たことない奴だな。こんなところで何をしている?」
言いながら、剣の持ち主が背後から正面へ来る。
殺気を放っていたのは、そう歳も変わらないだろう少年だったが、銀髪金眼という少年の容姿のせいか、少し冷たい印象を受けた。
「ここは風の国と火の国の国境にある森だ。国境を越えたなら、通行証があるはず。見せてもらおうか」
(そんなの持ってないよ)
そう思ったが、口には出せなかった。
だが、黙っていても状況が悪化する気がする。かといって、正直に話しても信じてもらえる可能性は低い。
(ど、どうしよう?)
花音が困った時、この世界に来た時から首に下げられていたペンダントが僅かな光を放った。
「!?」
それに気づいた少年が目を見開く。そして、今まで花音に突き付けていた剣を引き、鞘に納めた。
「お前、それを何処で手に入れた?」
「えっ?これはお母さんが持ってたんだけど……」
花音が答えると、少年は何かを考えていたが、ふと花音の腕を掴んだ。
「お前に聞きたいことがある。城まで来てもらおうか」
「えっ?ちょ、ちょっと……」
腕を掴んだまま歩き出した少年に花音は声を上げたが、少年は構わず歩き出す。
そのまま少年の後を歩いていくと、幾らか広くなっている場所で彼は立ち止まった。
少年が空に向かって、指笛を吹く。
すると、少しして現れたのは、白銀の竜だった。
地に降りた竜に飛び乗り、少年が手を差し出してくる。
「ほら、掴まれ」
「乗るの?この子に」
「ああ。歩いてたら、時間が掛かるからな」
そう言った少年の手を花音が戸惑いながら掴むと、竜の上に引き上げてくれた。
「よし、じゃあ行くぞ。恐かったら、あまり下は見るなよ」
少年が言って、地を蹴る。それが合図だったのか、竜は上昇し、あっという間に森は小さくなっていった。
「このまま城まで飛ぶからな。しっかり掴まってろ」
「う、うん」
前に乗っている少年の腰に戸惑いがちに手を回していた花音は、その言葉にしがみつくようにしっかりと掴まる。
それを見て、少年は小さく笑うと、竜に何か話し掛ける。すると、少しだけスピードが落ちた気がした。
「なあ!」
スピードが落とされ、少し余裕が出来た花音に前を見たまま、少年が声を掛けてくる。
「何?」
「まだお互いに自己紹介してなかっただろ」
「あ……」
その言葉に花音も忘れていたと声を上げた。
「そうだったね。私は、花音。桐生花音。貴方は?」
「俺は風夜。風の国の第二皇子だ」
「皇子!?」
身分を聞いて、思わず驚く。同時に何故皇子である風夜が供もつけずにあんな森にいたのか気にはなったが、それを聞こうとした時、彼が前方を指した。
「あれが風の国の城だ」
そこには白い城壁に囲まれた大きな城があった。
「城に着いたら、父上に会ってもらうけど、いいか?」
「う、うん」
皇子である風夜の父ということは、一国の王ということになる。
緊張しながらも頷くと、風夜はそれが可笑しかったのか、声を出して笑った。
「はは、……大丈夫だよ。そんなに緊張するほど、恐い人じゃない」
そんなことを話している内に、竜が降下し始める。
「よっと……」
城の前で地上に降りた竜から、風夜が飛び下りる。
乗る時と同じように差し出された風夜の手を借りて花音も下りると、風夜に気付いた兵士達が彼に頭を下げるのが見えた。
それに軽く手を上げて返し、風夜が花音を促す。
「謁見の間は此方だ」
風夜に頭を下げながらも花音を気にしているらしい兵士達に居心地悪く感じながらも、花音は歩き出した風夜の後を追った。

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