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始まりの気持ち

が余る大きさ。ほんの少し力を握るだけで、簡単に折れてしまいそうな、小枝よりも細い指。
 桜貝みたいな、小さな爪。人指し指を紅葉みたいな手に持って行くと思いの外、強く握られて驚いた。
 こんなには強く握ってきて、この子の指は折れないのだろうか。私の指を握っている手は、ギリギリ一周できている。
 本能なのか、オッパイを吸うみたいに唇を器用に動かしている。それも寝ながら。
 気配に気付いたのか、薄っすらと目が開いた。でも私を認識する訳でもなく、また安心して目を閉じて唇を動かす。
 じっと観察していると、始めは精子と卵子が受精して、ミクロ単位の卵が数え切れないほど分裂し、約一〇ヶ月後にはお腹の中で人になって産まれてくる。
 人間の脳の仕組みはまだ、隅々まで解明されていないと聞いた記憶がある。その脳をお腹で作り上げている。
 人間の神秘の塊である我が子。人間、誰でも同じに産まれてくるのに、我が子だけが特別に思えてならない。
 我が子の顔に、ポタポタと滴が落ちてきている。雨漏り? と天井から窓の外を見やったが、清々しいほどに晴れている。
 自分の頬に掌を当てて、原因は私の涙だと判明した。
 人は、自分が分からないうちに涙を流せるんだと、初めて知った。
 我が子は、今まで私が感じたことがない感情を教えてくれる。
 私の指を掴んでいた力が緩んだ。そっと自分の指を抜こうとしたら、キュッと強く握って私を再び捕まえる。
 そんな風にされたら、無理に指を離せない。我が子が私の指に飽きるまで、ただされるがままにしている間、頭に顔を近ずけた。
 臭いわけじゃないけど、独特な油っぽい癖になりそうな匂い。私は何度も鼻を近ずけて、匂いを嗅いだ。


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