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005

 どうにかこうにか意識を切り替えて、メールの続きに目を通す。
 読み取れたのは、この世界ではレベルやスキルがあること。
 うん、ゲームみたい。
 スキルはレベルを上げることと、そのスキルを識ることが必須らしい。
 勉強したりすればいいのかな?
 となると、どこかの街とかで図書館とか?
 先生を見つけるのもいいかもしれない。
 レベルを上げるのは、魔物でも倒せってことでいいんだろうか。
 ……魔物いるの?
 幾つか疑問は浮かぶが、目先の目標は1つだな。

「うん、よし。じゃあ街を目指すのがいいってことね。……いや、目指さないとあたしが餓死するか」

 現在地、爆心地。
 周辺には壊れた建物と原っぱ。
 食べ物、なし!
 寝る場所、なし!

「うん、即移動しないとヤバいな」

 自分の状況を確認して、頷くと残りの文章に目を通す。

『そこはむかーし街があったんだけどねぇ? 戦争で滅びちゃったんだよね!』

「そんなとこに降ろすなよ!?」

 物騒な単語に目が飛び出した。
 何もわからない不安な状況から脱したせいか、怒りはそこまで沸かなかったけれど、やっぱりこの『創造主』は腹が立つ!
 普通な街に降ろせ!と。

『そこから西の方に行けば街があるからね。あ、西ってわかるかなぁ? 太陽が沈む方角だからね? 昇る方じゃないよ! わかるかな?』

 ……これはあれか?
 バカにされてるのか?
 バカにしてるのか?
 西も東もわからないバカ扱いされてるのか?
 いやいや、落ち着け。
 これはきっと前の世界との違いがあるかもしれないとかそういうあれできっと言ってきてるだけのあれだろう。
 ホントこれが紙だったらビリッビリのグッシャグシャにして燃やしてやるのに……!

『じゃあ新しい人生をめいっぱい楽しんでねっ☆あっ、僕が見守ってるから、大船に乗ったつもりで安心してくれちゃっていいよ!』

 大船どころか泥船に乗った心境です、ほんと。
 めっちゃ不安。
 でも、まあ……いいや。
 新しい人生をくれたんだ、ほんの少しは感謝しとこう。
 ほんのすこぉぉおおおおおしだけね!
 実際イラつかされることの方が多かったからね!

「……ま、アリガトウゴザイマス。創造主サマとやら」

 創造主とやらに届くとは思えないけれど、メール画面に向かって苦笑いのままそう言葉を紡ぐ。
 さて、これから街に向かう……前に早めに自分の確認をしておかないとね。

「えーっと……『メール』」

 シーン……。
 えっ、何故?

「メールじゃダメなの? どうすんの? あ、オープン? クローズ?」

 閉じないメール画面に慌てる。
 こういう時どうするんだ?

「あっ、『メールクローズ』」

 そう言うとメール画面が閉じた。
 『メールオープン』と言葉にするとメール画面が開いたから、メールに関してはこれで問題ないだろう。
 簡単で良かった。
 一瞬焦ったけどね。

 次はステータスだ。
 ステータスはあたしの癖がヒントらしいのだけれど……なんだろう?
 腕を組んで首を傾げるけれど、浮かんでこない。
 胡坐をかいて、膝を指で叩く。
 うーん……。

「仕方ない、とりあえず方角の確認を先にしとくか」

 そうして周囲を確認して頬が引き攣った。
 めっちゃ凹んでる。
 地面が見上げないと見えない。
 いや、見上げても見えない。

「……の、登るか」

 えっさほいさとなんとか爆心地から脱出し、腕を日除けにして空を見上げる。
 太陽はまだ空の高い位置にあって、じりじりと肌を焼いてくる。
 暑くて眩しいけれど、ここは我慢しなくちゃ。
 太陽がどう動くか……待つ。
 待つ……。
 待つ。
 そうして微かに動いたのを確認して、方角に見当をつける。

「ズレがあるかもしんないけど……とりあえずあっちに向かえば街があるってことよね」

 太陽が僅かに動いた方向に顔を向ければ、どうやら森らしきものが広がっているのが見えた。
 それなりに大きそうだし、避けるのはどうだろうか。
 いやでも、避けて方角がズレるのも困るし……。
 角度とかわからないのに向きを大幅に変えると迷子になる可能性が高い。
 それに日差しが痛いから、日除けに森で少し涼むのもありかもしれない。
 森があるってことは川とか湖とか、水場があるかもしれないし。
 うんうん唸り…そうして目的を定めて指をパチリ、と鳴らした。

「……よし、とりあえず森を目指すか」

 そうしてあたしは森に向かって足を踏み出……そうとして気付いた。
 視界にメールじゃないウィンドウが開いていた。

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 NAME:ユウナ
 AGE:19
 RACE:人間
 FITMENT:頭 《なし》
  :体 《スウェット(上)》
  :脚 《スウェット(下)》
  :アクセサリー 《創造主の指輪》
             《なし》
             《なし》
 SKILL:《自動識字》《身体強化》
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「……ステータス」

 指パッチンがコマンドだったのか。
 ざっと目を通せば、大した情報もなくちょっと肩を落とした。

「ま、まあこれでステータス確認出来ることもわかったし、よしとしよう、うん」

 無理やり納得し、装備品の確認をする。
 スウェットは今着ているものに違いないはず。
 そうして気になるのは『創造主の指輪』だ。
 ちらりと左手中指に気付いたら嵌っていた指輪に視線を落とす。
 これが『創造主の指輪』で間違いないだろう。
 外すことが出来ない、呪われた装備品だ。
 じっとりとした視線を向けた指輪は、光を反射して石がキラッと光った。

「これに何の意味があるのかわかんないけど……外せるようになったら速攻外そう」

 これ以上見るものはないな、と指をパチリと鳴らせばステータスウィンドウは一瞬で消えた。
 試しにもう一度パチリ。
 ウィンドウは問題なくあたしの目の前に現れた。
 その腕をすっと上に向かって伸ばし指をパチリ。

「俺様の美技nってダメだこれ。あかんやつ」

 ついつい思考が違う方向に進んだが、ウィンドウは問題なく消えた。

 地面を見ながら土を踏みしめ、時折方角を確認する為に顔を上げる。
 何故かといえば、素足だからだ。
 さっき石を踏んでしまって、めっちゃ痛かった。
 尖った石でなかったのは幸いだったが、素足で歩くのはとても危ない。

「ああー……靴欲しい……。あ、でもお金ないじゃん。え、お金なかったら何も買えないじゃん」

 噴き出す汗をスウェットで拭いつつ、歩き続ける。
 靴ぐらい用意してくれればいいのに、なんて悪態を心の中で吐きつつ足は止めない。
 ああ、向こうで稼いだお金があったら街着いた瞬間色々買い揃えるのに!
 貨幣価値がどれぐらい違うかとかわかんないけど、身の回りのものぐらい買えたはず!
 そうだ、お金稼がなきゃ。
 どうやって稼ぐんだろう?
 ……そもそも、この世界ってどういう世界なんだ?

「基本的な情報が足りてない!」

 世界のことは後回しでもいいとは思ったけど、どう生きていくかの指針となるべき情報も足りないことに今気付いた。

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