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003

「……う……」

 なんだか頭が痛んで思わず眉を顰めた。
 ……もしかしたら一瞬意識が飛んでいたかもしれない。

 何故か身体を動かすことが億劫だ。
 顔に痛くて熱い程の日差しが射し、目を閉じていても眩しくて腕を動かそうとしているんだけど、その動きも緩慢で、けれどどうにかしてこの眩しさを緩和させたいと頑張って腕で日除けを作った。

「……眩しい?」

 自分が居た(・・)場所を思い返してカッと目を見開く。
 腕で日避けを作った割には眩しくて、目が痛くなってしまった。
 反射で目を閉じて、もう1度ゆっくり目を開く。

 薄目で見たものは真っ青な空だった。
 ぱちぱちと瞬きをして、漸く目をちゃんと開くことが出来た。
 見えるのはやっぱり空だった。

「ん……?」

 何故空が見えているのかと顔を動かして横を見てみたら……どうやらあたしは寝転がっているみたいだった。
 右見て草、左見て草。
 あ、岩があった。
 草の隙間から地面も見えてる。
 あ、ちょっと離れた所に……なんていうんだろう、あれ。
 壊れた建物?らしきものも見えた。

 ぼんやりとするあたしの頬を風が優しく撫でていく。
 ついでにふわふわと髪が揺れてくすぐったい。
 だけど大の字で寝転がるあたしの背中には土と草の湿った感触がして、あまり良い居心地ではない。
 しかも暑いから汗がじわりと滲んできた。
 まったくもって心地よくはない。
 そうしてただ寝転がっていると、土と草の匂いらしきものがして、『ああ、自然の中に居るんだ』とぼけーっと思った。
 ぼーっとしていて……はっと気づく。

 あたし今どこにいんの!?

 ガバッと音がしそうな勢いで上半身を起こし、周囲を見回す。
 上には青空と雲、そして太陽。
 右にも左にも草、土、岩、そして壊れた建物らしきものしかない。
 ちょっと遠くに木っぽいものが見えるが、今の状況を説明してくれるものが何一つとしてない。

「……なんっじゃこりゃあああ!?」

 一体何が起きたのかと記憶を漁れば、『リベラール・オンライン』のログイン画面を思い出す。
 そう、あたしの愛しいマイキャラと、真っ黒くろすけのアバターが居た、あの場面だ。
 そうしてアンケートまで思い出した。

「……え、てことはこれ、ゲームの中なの?」

 忙しなく周囲に顔を向けるあたしは、他に人が居れば不審者扱いされること請け合いだ!
 だが、今は誰もいないし、『リベラール・オンライン』はここまでリアルなゲームではなかった。
 そう、あまりにもリアル過ぎて混乱する。
 地面に生えている草を引っこ抜いてみるが、そのブチブチと千切れる感覚も、根っこに絡みつく土も本物にしか見えない。
 見えないというか、触った感じが本物そっくりだ。

 とってもリアルぅ……。

 手についた草の汁をスウェットで拭い、土を叩き落とす。
 そうして自分の頬をぐいっと抓ってみれば……痛い。

「……痛い……! なにこれゲームにしては細かすぎない!?」

 人間の五感の中で後試していないのは……いや無理。
 土とか草とか食べられません!
 現実だと錯覚しそうな程のリアリティに胸が嫌に鳴る。
 今までやってた『リベラール・オンライン』は、もっとゲームっぽかった。
 土を触ってもこんな感触はしなかったし、採取できない草は掴めなかった。
 日差しが射してもこんな焼けるような感覚はしなかったし、匂いだって感じなかった。

 ……でもあたしが『リベラール・オンライン』に籠っている内に、ゲームは日々進化しているはず。
 そう、ニュースとかPVとかで色々見かけたことがあるもん。
 現実世界と大差ないものも作られているのだろう。
 きっとこれはそういうゲームの中なのだ。

「……はぁ……、これがゲームならホント凄いわ……」

 最近のゲームの出来に感心を覚えつつ、たかがゲームに焦るなんて、とちょっと恥ずかしさが込み上げてくるけど……今は誰も見てないし、うん、いいよね!
 とりあえず……チュートリアルが始まらないけど、状況確認といきますか。

「……服は、スウェット? って、これ、着てたやつじゃん! え、いまどきのゲームって服まで読み込むの?」

 足をお尻の左右に折り畳み――所謂お姉さん座りってやつね――自分の服装を確認して、また驚いた。
 こういう時って、布の服だとか旅人の服だとか、ゲーム内の服に切り替わるものじゃないの?
 どうみてもあたしの私物のスウェットにしか見えないんだけど?
 新品でもない、ちょっとよれたスウェットですが……。

「これ防御力に期待できんの!? ていうか初期装備がスウェットって! せめてもっとゲームっぽいものが良かった……!」

 いや、ゲームでもこういう装備があるのかもしれない。
 いやでもだからってスウェット……。
 まあいいや、スウェットが初期装備だとしても、これから先どうとでも変更出来るだろうし!
 そうしてふと気づいたが、左手の中指に指輪が嵌っていた。
 小さな石がついた、シンプルな指輪だ。
 けれど、これはあたしのものじゃない。
 じゃあこれがゲームのアイテムなのだろうか、と指輪に触れてみる。
 何の変哲もないただの指輪だが……何故かぴたりと吸い付いたように動かない。
 まるで指の一部分になってしまったかのように、うんともすんともいわないのだ。

「……は、外れない!?」

 回してみようにも、引っ張ってみてもうんともすんともなんともかんとも!
 指輪は抜けないが指が抜けそうになって、渋々諦めることにした。
 装備品に縁がないのだろうか……。

「……じゃあ、あれだ、ステータス見よう」

 ため息を零してから、いつもの癖で視界の右上を確認してみる。
 『リベラール・オンライン』は右上にタブが隠されていて、それを視線(ポインター)で開くことが出来たのだけれど……。

「……ない……!」

 目ん玉をぐりぐりと痛くなる程上下左右に動かしてタブを探すが何もない。

「なんて不親切なゲームなの!」

 未だにチュートリアルも始まらないし何の説明も起きないことに、今までの混乱や疑問、恐怖がごちゃまぜになって一気に押し寄せてきてじわりと涙が浮かび、それを振り払うように湧き上がる感情のまま地面を叩いた。

 ――ズドォォォン!――

「……」

 何が起きたって?
 凹んだ。

 何がって?
 地面が。

 湧き上がった感情とやらも一気に霧散しました。
 だって、確かに力いっぱい地面を叩いたけれど、まさか地面が凹むとは思いもしなかったのだ!

「……なんっじゃこりゃああああああああ!!」

 爆心地あたし、である。
 あたしを中心に数cmは凹んでしまった。
 叫んでも仕方ないだろう。
 だってあたしはただの引きこもりである。
 筋肉なんてどこにあるの?な、なよっちいただの女子である。

 驚きすぎて目ん玉が飛び出しそうです。
 涙も止まった。
 むしろ引っ込んだよ!
 なにこれこわい!!

「誰か説明しろぉおおおおお!!」

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