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チート転生者があふれて異世界が大変なことになってます

 はあ……。まだ年が明けて間もないというのに、今年に入ってもう何度目になるか分からない深いため息をつく。私は、魂の安息の世界『フー=イー=ナム』で、神のために働く『天界第一補佐官』。

 神でも逆らえない掟の一つに「異世界(・・・)で運命を外れて死なせてしまった者は、極めて強い力を与えてフー=イー=ナムで転生させなければならない」というのがあるのだが、とうとう転生者が一万人を超えた。なぜ、神でも運命を読めない死者がここまで多いのかについては、どうやら異世界で運命を狂わせる存在が暗躍しているらしいが、何しろ神でも把握できないので定かではない。

 しかし、この転生者というのが実に(たち)が悪い。生前、勉学や労働を放棄していた引きこもりだったり、最下層の労働者だったりすることが非常に多いが、劣悪な環境がそうさせるのか、性格の歪んだ者が大部分である。運命を外れて死なせてしまった以上、例え神でも誠実に腰を低くして対応しなければいけないので、横で見ているこちらが切ない気分になる。

 まあ、ここはまだいい。問題なのは強すぎる力だ。転生者の治める二つの大国が戦争状態に陥り、超破壊魔法によって数十万を超える死者の魂が一度に天界に送られてきたことがある。天界補佐官総出でパニック状態になりながら処理したのだが、戦争の原因を調べると、美少女の奪い合いという極めてしょうもないものだった。

 別件では、冒険者となった転生者が東の大陸のドラゴンを狩り尽くして絶滅させてしまい、深刻な生態系の危機を招いている。

 また、生前の知識を活かして『原子力発電所』なる代物を造った者がいたが、制御しきれず大爆発させ、土壌汚染でかなりの広範囲が生き物の棲めない土地になってしまった。
 この他にも異世界の科学知識を持ち込む転生者が後を絶たず、保守派の天界補佐官から強い反発が多数私に寄せられる。中間管理職に過ぎない私に言われても困るのだが、こう言った声を受け止め、はけ口になるのも仕事の内なので仕方ない。

 即死魔法使いとなった転生者が、面白半分に人を殺しまくるので説得に赴いたことがあるが、話を聞き入れるどころか問答無用で殺された。まあ、私は天界の住人であるから天界(ここ)に戻ってくるだけなのだが、即死魔法使いの居城と天界を何十往復したか数え切れない。結局、会議で「説得は不可能」という結論に至り、放置することとなった。

 神でも逆らえない掟のもう一つに、「現世(うつしよ)の事象に極力干渉してはならない」というものがあるので、神にこれら転生者をどうにかして頂く訳にもいかない。だのに、こんなとんでもない存在が一万人もいるのだ。

 今しがた、一度に四十人の転生者が現れた。学校の一クラス丸ごと死ぬ羽目になったらしい。私の憂鬱は続く――。

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