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第3話 索敵魔法


冬が終わり春を迎え始めたガルダ王国の南部辺境。

春一番の嵐が近いのか屋敷の窓から今にも降り出しそうな分厚い雲を見える。その曇り空と似た灰色の髪を持つ親子が手を繋ぎ屋敷の廊下を歩いていた。

夏に5歳を迎える少年ノーブルに父グリスは聞いた。

「ノーブルとはまた暫く会えないが、誕生日は必ず一緒に過ごそう。今の内に欲しいプレゼントはないかな?」

父グリスは優しい表情で息子の顔を窺う。

ノーブルは悩んだ。
つい最近、母の宝石類を無くした犯人は自分だと教えられたのが原因である。
キラキラしたものは相変わらず好きだが、そういった高価なものは母親の泣き顔をセットで思い出すため抵抗があった。
それ以外の希望を絞り出そうと必死に自分の深層心理に問いかけた。

浮かんだのは母ノルベが両断した巨大な水蛇…血だらけの湖と蛇はノーブルのトラウマになっていたのだ。
そんなノーブルはトラウマを癒すものが欲しかったのだろう。

「なんかカワイイペットが欲しい!あっ、オトウトとイモウトも欲しい!」
「ん!?…んー?それはノーブルの誕生日までには無理かなー…あはは、それにしてもペットか…」
因みにこのノーブルの発言をグリスが妻であるノルベに笑い話として聞かせたせいで妹が早いうちに出来ることとなるがノーブルは知らない。

「…あっ、そういえば来週だったか、忙しくて頼んでいたの忘れてたな」
「?」
「…いや丁度いいか?」
何かを思い出したかと思えばすぐに考え込む父グリスをノーブルは呼ぶ。

「ちちうえー?」
「ッ…!おっと…すまないノーブル、そうだな…プルー湖東部に【獣人族の村】があってな?面白い動物がいっぱいいるから見て来るといいんじゃないか?」
「どーぶつ!いっぱい!」
ノーブルは二つ返事で了承。【獣人族の村】へのお出掛けが決まった。
後を継がない次男ではあるノーブルだがお出掛けの護衛はキッチリと用意され、ハーディス辺境伯爵家私兵団団長と若い騎兵を連れ馬車で出発することなった。

同行を願った母ノルベだが、流石に貴族としての交流サボり過ぎていたためグリスと同行している。
【ミスリル】と思わしき鉱石が見つかった南部辺境を管理するハーディス辺境伯は国中の注目の的である。
後々の利益の為か、妾の座を狙って突撃してくる御令嬢たちが後を絶たない。盾として土砂を堰き止める妻ノルベは必須でありグリスは無理矢理にでも連れて行く必要があった。

何はともあれ両親から離れて外出するのは初めてのノーブル。
私兵団の騎士と雑談するものの両親と兄がいない馬車は静けさと合わせて寂しさを感じた。

南部辺境は【ミスリル】の噂も徐々に沈静化し、現状目立って大きな問題は無い。
ハーディス辺境伯爵領からプルー湖北部へ、春の嵐に一時足止めをしたもののプルー湖東部【獣人族の村】へと穏やかに馬車が進む。

【ガルダ王国南部・プルー湖東部】

夏でも雪が残る壮大な山脈がそびえ立つ光景が広がる高原地帯。
高原地帯を抜け、山岳地帯と超えた【奥地】では春から秋にかけて運が必要だが【竜】が見られる。冒険者はクエスト抜きで【竜】を見に訪れる。
Bランクに上がったばかり冒険者を先輩冒険者が度胸試しに連れて行き、登山の知識や【竜】と戦う無謀さを後輩に教えドヤ顔するのである。

山脈の麓、小高い野山には原住民が住む村があり多くの冒険者や調査隊はそこを拠点にしている。
行き方もそこまで難しく無く、王都からの場合はハーディス辺境伯が管理する砦からプルー湖北部に入り東部につながる舗装路があり進むだけ。

舗装路自体も500年かけて開拓しただけあり道もしっかりしている。

「道はっ…きいてたっ…よりっ…けっ…こうっ…揺れっ…るんっ…だねっ…ジィっ…」

ガクンガクンと二頭の馬が曳く馬車は何度も大きめの石を踏み越えてるのか揺れに揺れた。揺れるたびに5歳に満たない少年の身体は跳ね上がる。

「そっ…そう…ですなっと…おいっ!一旦っ…馬車を止めろ!」
少年にジィと呼ばれた革鎧に赤いマントを携えた老人は御者に向かって大声を上げる。

「はっ!」
木漏れ日が漏れる林を挟んだ舗装路で馬車は止まった。
馬車を囲む様に馬を駆ける騎兵達が集まってくると馬車の中にいる老兵と少年に声をかける。

「ノーブル様、ストーン団長如何致しましたか?」
「如何もクソもあるかっ!何で舗装路がこんな荒れておるか!ノーブル様のお尻が壊れるだろうがぁあああああ!」

「ぼへぶっ!!」
少年からは「ジィ」若い騎兵からは「ストーン団長」と呼ばれた老人は馬車の窓から顔を出し、寄ってきた騎兵の頭を殴りつける。

「どういうことだ!全く、前はここまで酷くなかったハズだぞ!?このままではノーブル様のお尻が大変な事になるぞ!…先日の嵐の影響か?」
「あー…痛た…そんなハズは…一昨日の嵐と言っても春一番ですよ?それにウチの領地では舗装路を挟んで暴風林も備えてあるんです。風くらいじゃ荒れませんよ」

「だとしたらノーブル様のお尻を痛める原因は何なのだ?ミスリルで南部辺境の人入りが激しかったのは認めるが、この舗装路はプルー湖と反対方向だしな…」
「だとすると…【海神】の魔物か魔獣でしょうね…ギルドに依頼出しておくとしても、ここまで来るなんて珍しいですね」

「【山神】に【水神】の精霊、奥地となれば【竜神の恩恵】を持つ【竜】もいるしな…」
「となると無理して魔物が潜んでいるかも知れぬ道を無理に進むのは危険ですね…」

「どっちみちこの状態の舗装路では行きと帰りでノーブル様のお尻も大変だ!」
「ストーン団長…真面目に心配しています?お尻どんだけ好きなんですか…」

「真面目に心配?当たり前だ!ぬん!」
「ぶぼほぉっっ!!」
若い兵士に老兵ストーンは革鎧上から容赦無く腹にこぶしを突き入れる。

そんな私兵団のやりとりの横でノーブルは痛めたお尻を摩りながら馬車を降り、嵐が過ぎ去った後の気持ち良い晴天を見上げる。

(今日のオデカケはこれで中止かなぁ…)
舗装路の状況と私兵団の危機管理からして、今日の予定は中止確定だろうと少年はぼんやり想像し、そしてホッとした。

獣人族の村や使役している動物たちは見れないのを残念に思うノーブル。ただ2歳の頃、両親に連れて行ってもらったプルー湖北部で見た大蛇と切り倒された後の大蛇の首から湧き出る大量の血の色。あの大蛇ですら【魔物】【魔獣】の枠には入らないと聞いた時は驚いた。

両親のいない遠出に外泊、家に帰りたい気持ちの方が強くなって行く。度重なる強打によって痺れてる尻も実はヤバくて油断したら泣きそうになるのを必死で我慢していた。

老兵と若い兵士は漫才を終えてノーブルに近づき片膝をついた。
「ノーブル様。今日のご予定ですが、舗装路が不安定ですが、このまま【獣人族の村】にまで行こうと思います…!」

「!?……ええっ…なんで?…さっきジィは魔物が出るからって…」
慌てるノーブルに苦笑して老兵ストーンは解答する。

「はっ!ノーブル様の仰る通りで御座います!【山神】の【精霊】から助けを得られ、索敵魔法を使用しました」
ストーンがそう説明すると淡い光がチカチカと周囲を取り囲む。【精霊】が持つ魔力の光である。

【神】から与えられた【加護】や【恩恵】を持たない者は地・木・水などに語りかけ【神】の眷属である【精霊】を介して魔力を貰い感謝する事で【魔法】【反応強化】【結界】といった超常現象を起こすのだ。
ストーンが行ったのは【火系の索敵魔法・レッドシーカー】。発動すると一時的に魔眼を手に入れ【熱】を【色】に変えたのみの世界になる。【熱】が高い程に【赤く】、低い程【黒く】なる。

これは夏場には意味が無い、元々は冬や高山で獲物を探す狩人に与えられた魔法である。
「広範囲で索敵魔法を使用した結果。舗装路に点々とした反応があり、こちらは商人や冒険者かと…」

「うん、それが?」
「村に行く途中で私たちと同じように休憩しているのでしょう。問題なのが舗装路の外、しかもプルー湖から人と思われる集団が北部に向かっているのです」

ストーンはため息を吐きながらプルー湖を顔を向ける。眼には魔力の光が漏れている。
「恐らくですがミスリル騒動で一攫千金を狙った冒険者か、先日ハーディス家に挨拶に来た王都から来たの調査隊でしょうな。」

「オウト?」
「むむ?…これは失礼、王都とは我が国の王が御座す都であります!春になれば国会の時期ですな!」

「ふーん」
「ノーブル様も今年で5歳!王都の社交会でノーブル様のご尊顔を見せつけてやらぬばなりません!はっはっはっ!…はぁ…しかし…うう…子供の成長は本当に早いですなぁ…爺は感激です!」
大声で笑ったりと泣いたりと忙しい老兵にノーブルと若い騎兵は冷たい目線を投げる。

老兵が話した通り、ガルダ王国の世襲貴族は貴族院議員でもあるため、国会の時期(春の始め〜夏の終わりの時期)領地から王都に移動する。

この時期の貴族は大移動も含め大変忙しく。夏が終わる頃までガルダ王国のみならず各国の中央は大変賑やかになる。
当代領主は勿論、その家族一人一人も毎日、舞踏会に遊園会や晩餐会やお茶会などなどなど…イベントが分刻みで行われる。

現在王都で老若男女問わず盛り上がる話題は【ミスリル】であり、情報源であるハーディス辺境伯の忙しさ半端なものでは無い。

「ええ…と…キケンだから家に帰るって話だったよね?…その【チョーサタイ?】か【ボーケンシャ?】がプルー湖の北に行くからって何で帰るの止めるの?」
老兵は目の前の幼子が辿々しいながら懸命に言葉を継いでいくのを味わうように耳にした後ストーンは返答する。

「ええ、プルー湖に向かう調査隊・冒険者と思われる反応が徐々に消えているからです。まるで何かに飲み込まれる様に」
「えッ…?」
ノーブルは背後にゾワリとした寒気を感じ、振り向くが木漏れ日の漏れる林と土があるだけで其処には【まだ】何もなかった。

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