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第十五話 始まりの夜

「つまり、帝国軍に追われているから目立ちたくなかったと?」
「……そういうこと! 昔、軍が管理してる遺跡に無断で入り込んだことがあってね……だからあんまり大規模な魔法は最後まで使いたくなかったのよ」
「何してんだよ……。まぁ今回は見つかんなかったんだしいいじゃん」
「油断はしないでちょうだい! あいつらの隠密スキルは特殊な魔法も使っててかなりレベル高いんだから」
「はいはい」
「——っもう!」

 そうやって無下に扱ってみたが、今のアミラは目の前の食事に夢中な様子で、ただ不満そうな顔するだけで俺に殴ってきたりはしなかった。
 ……ただ単に、もう呆れ返ってるだけなのかもしれないが。

「おお、これもうまいな! なんて料理?」
「私もこの街に来たばかりだしわかんないわ。まぁ美味しいからいいじゃない」
「そうだな」

 ところ狭しと並ぶ料理に、昨夜牢屋で質素な晩飯を食べてから何も口にしていない俺はアミラに負けずと、とにかく胃袋にかきこんでいた。
 前世ではみたことのない魚や小麦粉か何かでできたような謎の生地、その他謎に満ちたスープなど、海外旅行などしたことがなかった俺は本来なら抵抗のありそうな料理を仕方なしに食っていたが、予想外にめちゃくちゃ美味い。感動で涙がこぼれそうなほどだ。空腹は最高のスパイスというやつだろうか。

(というか、この小さい体にどうやったらこんな量が入るんだ……?)

 俺がそう思ってしまうほどにさっきからアミラは、俺に返事をする時以外、ずっと何かをばくばく食べていた。
 食事を口に運ぶ度、『ほぉ〜〜。おいしぃ〜』と言って満面の笑みを浮かべるもんだから、みてるこっちまでにやけてしまう。

 そうしてしばらくは、ちょいちょい会話を挟みながらも、俺たちは食事を堪能した。
 周りが若干引いたような目で俺たちを見てきていたが、そんなのお構いなしだった。
 宿に付いている大衆食堂のようなレストランの食材を、全部二人で食べきってしまったんじゃないかというくらいにテーブルに空の皿が重なったころ、俺もアミラも満腹感に幸せを感じながら『ふぅ〜』と息を吐いていた。

「いくら俺が奢ると言っても遠慮なく食べすぎじゃない?」
「あんなに大規模で強力な魔法を何度も使ったのよ? そりゃお腹くらい減るわ」

 満足そうに食後のデザートであるショートケーキのようなものをほうばるアミラを見てると、よく人の金でこんなに食べられるなと思い聞いてみたが、その魔法で俺は助かったわけだし、まぁしょうがないのことかと納得した。

 実は、魔道具屋の店主に一文無しだということを伝えると、さすがに店の魔術指輪(マジック・リング)を試用するだけではあの言語理解能力の魔術指輪(マジック・リング)に釣り合わないと言って、10万バルくらい渡してくれてたのだ。なので、とりあえずの資金には困らないだろうとは思っていたが、ここでその資金の半分は溶かすことになるみたいだ……

「ところで、なんで栄一は詠唱も魔法陣も魔術指輪(マジック・リング)もなしで、上級魔法が使えるの?」

 そこで、ふと思い出したかのようにアミラが質問してきた。

 口元についているケーキの欠片のせいで子供っぽく見えてしまうが、俺を見つめるその優しい目つきと凛々しい鼻立ちからはどこか大人の女性らしさを感じさせる。改めて正面から見る目の前の美少女に、一瞬見惚れてしまいそうになり、内心動揺してしまった。即座にその質問に答えることでなんとか意識を保つ。

「あ、あぁ。実は俺も神からこの世界に転生されたんだよ。その時に、触れた魔術指輪(マジック・リング)の効果を能力として体に書き込むっていう能力を手にいれて、ちょうど今日、魔術指輪(マジック・リング)を触りまくってきたってわけ」
「え? じゃあ、あなたも勇者だっていうの?」
「いやいや、俺は手違いで勝手に転生させられただけで、この能力も女神を脅してようやく手にいれたものなんだ」
「そう……なの…………?」

 突然明かされた事実にアミラは半信半疑な様子で、その真偽について考えているようだ。
 とりあえず、信じてもらえるかはわからないが根拠となりそうなものを提示してみる。

「ほら。これもその女神からもらった指輪だよ。なんでも、これと(つい)になっている指輪の持ち主と念話ができるらしい」
「うそ!?!?」

 俺が指から外して渡してやった指輪をアミラは一目見て、今までの落ち着きが嘘だったかのように気を動転させている。

(そういえば、神について研究してるとか言ってたし何か知ってるのかもな)
 目をキラキラさせながら指輪を見入るアミラを見て俺はそんなことを思い出していた。

「……試してみないとわからないけど、これ、本当に神代遺物(アーティファクト)みたい」

 すると、指輪を一通り見終わったのか、アミラがこの指輪を女神から受け取ったものだと認めてくれた。
 見て触っただけで、それが神代遺物(アーティファクト)だとわかるなんて、さすがは神を研究しているだけはあるらしい。

「だろう? それに、アミラの暴力に耐えられているのは、幾つもの魔術指輪(マジック・リング)の効果のお陰なんだ」
「でも、神代遺物(アーティファクト)なんて世界中にいくつもあるから、これだけでは信じられないわ」

 まぁ信じてもらう必要もないけど、ここまで言ったなら信じてもらおうと思う。
 それに、もしアミラがこの指輪を分析して神の力なんかが使えるようになったらちょうどいいし。

「もう一つ持ってるぞ」
「えぇ!?」
「今は、そこの魔道具屋に預けてるんだけどな」
「今度見せて!」
「あぁもちろん」

 俺がそんな感じでアミラと話していると、レストランのウェイターがこの店をそろそろ閉店すると伝えてきた。

「じゃあ、俺は帰るよ。明日から自分の能力の整理もしたいし、魔法についても知りたいし、何より、あの勇者をさっさと牢屋にぶちこまないと。オークションが終わったらあいつもこの街から出るんだろう? まぁまた今度、この指輪について聞きたし会いにくるよ」
「待ちなさい!!」

 食事も終えたし、そろそろいい頃合いだと判断して、席を立った瞬間、アミラが俺の裾を掴み、そう強めの声で呼び止めてきた。

「どうした? 代金なら約束通り払うよ」
「責任を取りなさい!!」
「は?」

 いきなりそんなことを言われた俺はもちろん聞き返す。

「だから責任を取りなさい!! あんたのせいで勇者を取り逃がしたんだから、私を手伝いなさい! 8日後のオークション前夜にその神代遺物(アーティファクト)を盗みに行くから栄一も付いてきて。どっちみち勇者を追ってるんでしょ?」

 何かと思えば、アミラは俺に盗みを働けと言っているらしい。アミラは実に悪そうな顔をしている。

(別にその出品者も盗んだり悪い金で手に入れたんだろうから、罪悪感は感じないが、さすがに俺からしたら戦う必要のない人たちと戦うのはめんどくさい。まぁ勇者を打倒する上で、あのアミラの魔法による援護があればありがたいが)
 そう考えて、辞退させてもらおうとしたら、アミラが条件を追加してきた。

「魔法について、この元国定魔術師で世界有数の力を持つと言われている私がみっちり教えてあげるわよ! それにその栄一の持っている魔術指輪(マジック・リング)についても、研究してあげる。この世界に来たばかりなんでしょ? 私といたら色々と学べるだろうし、勇者も倒しやすくなるし、ちょうどいいじゃない?」

 確かに、魔法やこの世界のことは勉強したかったし、何より、アミラは暴力女だけど美少女だし、面白そうな人だとは考えていた。

「まぁそういうことならいいか」

 俺が仕方がないなという顔でそういうと、アミラはニヤリと笑い、俺と同じく席を立つ。

「じゃあ早速当分の計画について話すわよ!」

 俺の返事など聞かないで早々と部屋の方に向かうアミラに、俺は苦笑を浮かべながら追従した。

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