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第十四話 ふざけないでください

「なら俺の助けなんていらなかっただろ!」
「ええ、全くもっていらなかったわ! なんで邪魔して来たのよ!」
「だから俺はあいつをぶん殴るために探してたんだって! それにあの状況は明らかにナンパに困ってただろう!」

 現在俺とナンパ被害者ことアミラ・パルーテナは、アミラが宿泊中の宿に来ている。
 一つ何トンもあるであろう岩を、シャワーの様に浴びながらもまた起き上がって来た勇者を必死の思いで撒いて、ようやくここまで逃げて来たのだ。

「ばっかみたい。なんでそこまであいつに恨みがあるわけ?」
「あいつに似ているからって理由で昨日一晩中、牢屋に監禁されてたんだよ! しかも、まだ俺が例の勇者じゃないって確証はないから、それが白黒はっきりするまではあらゆる公的機関でブラックリスト入りなんだと」
「あの自称勇者はこの街に来てからずっと騒ぎを起こしてるものね。それに勘違いされるとは……。ま、まぁ確かにあんたの気持ちはわからなくもないわ」
「だろ!? だから俺があいつを見つけた瞬間に殴りかかってしまったのもしょうがない! っというかそんなことより、あれがナンパじゃなかったら、なんのためにアミラは勇者と話してたんだ?」
「——はぁ!?!? いきなり呼び捨て!? 私はあなたの命の恩人なんだから”(さま)”くらいつけなさいよ!」
「それでアミはなんで——」「——無視すんじゃないわよ!」「ぐはっ!!」

 宿に着くなり、ロビーには他の客もちらほらというのに、こんな調子で言い合いをしていた二人は案の定、宿の支配人に注意を受けて、今はアミラの泊まってる部屋に移動していた。俺の泊まっている木目むき出しの部屋よりは幾分か豪華な作りだったが、それでも前世でいうところのビジネスホテル以下のクオリティの部屋だった。

 部屋に入ってからも論争は続き、こんな感じでアミラに何度も叩かれている。
 魔道具屋の魔術指輪(マジック・リング)で手にいれた身体強化と反射能力を持ってしても避けきることのできない、アミラの小規模だが強力な攻撃魔法にだんだん怒りを覚えてきたところだ。

「……私があいつと話していたのは、あいつが”神によって転生された”って言ってることと、私が今追ってる裏組織と繋がっていることから関係を持ちたかったのが目的だからよ」
「どういうことだ?」

 ただただナンパされていたと思っていた俺はその答えによってさらに謎が増えた。
 何か訳ありの様だ。

「私は神について研究してるって言ったでしょ? だからもし本当にあいつが神と関係を持っているというのならあいつと友好的になる他ないでしょ。裏組織については、とある神代遺物(アーティファクト)を追っているんだけど、今それを持ってるのがその組織なの。それで今度その神代遺物(アーティファクト)が出品されるオークションが裏で催されるんだけど、それに向けてあの自称勇者が用心棒として雇われてるらしいから、今のうちにあいつから情報を奪うなり協力してもらうなりしようと計画してたわけ」

「ほぉ〜。なるほど」

 意外にちゃんとした理由があったのだなと感嘆する。だがそんな俺の反応が気に食わなかったのか、アミラは例のごとく魔法を打ち込んで来た。完全な不意打ちに思わず怯んでしまう。
 今度は”空気の圧力で腹部が殴る”という攻撃だ。

「なるほどじゃないわよ! その計画もあんたが急に殴り込んで来たせいで台無しじゃない! なんてことしてくれたのよ!」
「……べ、別にあのまま俺を攻撃して勇者側についてもよかったんじゃないか? なぜ俺を助けた?」
「——なっ?!」

 さっきの魔法で鳩尾(みぞおち)をやられて呼吸が整ってないながらも純粋に知りたかったことを聞いてみた。だがそれに対するアミラの反応は、『絶句したのちに赤面して腕をバタバタ振る』というなんとも意味のわからないものだった。

「ん? どうかしたのか?」
「……たからよっ…………」

「え?」

 ごにょごにょと口ごもったアミラに再度問いかける。

「だ、だから、あんたが私を庇おうとしたからよっ!! 私を後ろに追いやってあいつから守ろうとしてくれたでしょ! 私はそんな人を見殺しにするほど落ちぶれてないの!! わかった?!?!」

「……お、おう」

 まるで一世一代の告白でもして来たかの様にアミラは疲れているみたいだ。

 どうやらアミラは正義感の強い人間らしい。
 俺としては、アミラはナンパされてると思ったからついでに助けようとした程度なのだが……


「べ、別にあんたのためってわけじゃないんだからね!? 私が私であるためにしたまでよ!」

 しばらく『ゼェゼェ』と息を切らしていたアミラだったが、突然、何を思い立った様にして必死に弁解をし始めた。
 まぁ俺は鈍感系主人公でも勘違い野郎でもないので、ここで何て返せばいいかなんてことはよくわかってはいるが、そろそろめんどくさくなって来たので適当にあしらうことにする。

「はいはい。そうですか」
「——全然わかってないじゃない!! もう、なんなのよあんた!」

 アミラはそう言ってまた赤面し始めた。

(あんなに走ったのにまだこんなに元気なのか……)
 体力があるということもそうだが、怒ったり慌てたり恥ずかしがったり、忙しいやつだなぁと考えていると、突然、その部屋に聞いたこともないくらいの爆音が鳴り響いた。

 グウウウウウ!!!!

「なんだ!? 勇者どもか!?」

 とっさに疲れ切った身を奮い起こして敵襲に備える。しばらくたっても何も動きがなかったのであたりを見渡してみると、そこには目と口を大きく開いて、お腹を押さえているアミラがいた。

 まさか、あの爆音がアミラの腹から鳴ったというのか……?

「……そ、そろそろいい時間だし飯でも行かないか? 俺も今日は走り回ってお腹ペコペコだよ。あぁ! 助けてくれたお礼に今日は俺が奢るからさ!」

 誤魔化しようがないってことはわかってるが、まるでさっきの夕日みたいに顔を赤くしているアミラをみたら、無意識にこんな言葉が出てきた。でも我ながらまぁまぁ大人な対応なんじゃないか?

「……殺す」

「え?」

 ガクガクさせていた口を突然食いしばったと思ったら、アミラはそんなことを言ってきた。
 今度はちゃんと聞き取れたが、その言葉がどう考えても理不尽なものすぎて思わず聞き返す。

「殺す!!!!」
「ちょっと待っ——」

 聞き間違いであることを願ったが現実はそう甘くないらしい。
 自称勇者なんかよりも100倍は迫力のある鬼面でアミラは俺を殴ってきた。

「ぐわああああああああああ」

 そうして俺はしばらく、アミラのサンドバックになっていた——。

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