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第八話 ふざけんなクソ女神 (4)

 
「手荒な真似はしたくなかったけどまぁ言うことを聞いてくれるまではしょうがないわよね」

 なんとも理不尽な状況に心底ぐったりしていたが、この空間にいるせいからなのか、さっき傷ついた体がみるみるうちに癒えていく。出血はそこまでなかったが骨折やら打撲やらで立ち上がれない状況だった。だがそれも、今ではなんとか上体だけでも起こせるようになっていた。

「それが本性というやつかクソったれの女神様よ」
「あら、もう起きたのね」

 まるでさっき殺されかけたのが夢のように思えてくるような会話を交わしながら、俺は横目で手のひらに掴んだあるものを確認した。そして、おそらくこれ以外に自分が有利になる道はないと考え、行動に出る。

「ところで女神様。これがなんだかわかるかい?」

 そう言って俺は左手の人差し指に嵌めた指輪を女神に見せびらかすようにして向けた。そう、これはさっき魔法で飛ばされる直前にやつの指から盗んで来たものだ。これの重要性はわからないがおそらく少しくらいは交渉材料になるだろう……。

「——なんでそれを!?!?」

 歩みを止め、デジャブを感じさせるセリフを吐くと女神はまじまじと俺の左手を見始めた。
 意外に結構重要なのか? これ

「俺をボコボコにしてもいいけど、その時はこの指輪はどうなっても知らないぞ?」

 指輪を指に嵌めたまま、軽く噛んでやると、女神が真っ青な顔をして
「きゃあああああああああああああ!!!!!!!!!」
 と叫びだしたので驚いて俺も噛むのをやめた。


「お願いします!! それだけはどうにか勘弁してください!! なんでもしますから! 栄一様!!」

 おっと。これは思わぬ収穫だったらしい。ほほう、こいつはそんなにも価値があるものなのか

「まぁ返してやらんこともないがその場合、いくつか条件がある」
「——何なりとお申し付けください!!」

 どうやら本当に運が良かったみたいだ。それにしても指輪一つで人、いや女神がこうも変わるとは実に愉快だな。

「まぁ俺の目的は最初から唯一つ、俺にチート能力をよこせ」
「だからそれはシステム的に不可能なんですって!」

 もちろん、女神の言うことなんか間に受けるつもりはなかった俺は揺さぶりをかけるために、今度は指輪を外して踏んづけてみる。

「いやああああああああああああ。本当なんですってええええええええ」

 まるで我が子が踏みにじられたようなリアクションをしたのでさすがにこれは嘘ではないだろう。
 能力がもらえないとしたら、こいつの利用価値はなんだろうか。
 せめてこいつが犯した失敗を天界に報告させて、上の人に元いた世界に帰らせてもらおうかな。
 いやでもせっかく異世界に来たんだし、やっぱりチート能力じゃなくてもいいから魔法くらい習得したいね。

 そんな感じでこの女神の利用方法を考えていると、ふと思い出したかのように女神が俺に提案をしてきた。

「の、能力はあげられないけど、この指輪ならあげるわ! これには言語理解の能力が付与されているの! あの世界でなら小さい国が買えるんじゃないかってくらいには高価なはずよ!」

 必死に俺を説得しながら懐から小型のケースのようなものを取り出し、その中に入っていた指輪の一つを俺に投げ渡した。

「ほぉ。まぁ確かに言語には困っていたところだしありがたくいただくよ。それで、他のは?」
「他のって?」

 本当に思い当たる節がないみたいなので、女神が手に持っていたケースを指差す。まだケースの中に一つ指輪が入っていることは見えていたのだ。

「これまで取るの!?!? ……じゃあ約束して! これをあげたらその指輪を返してくれるって!」

 未だに俺がジリジリと踏んでいた指輪の方を見て、懇願してくる女神に対し俺からも再度要求をする。

「その前に指輪の効果を教えてもらおう。話はそれからだ」
「これは今、栄一が踏んづけてる指輪とリンクしていて、指輪の所有者同士で念話をしたりできるのよ!」

(念話か……。まぁこいつが本当の情報を寄こすかはわからないが、確かにこの世界をよく知るものからの情報はでかいな)
 そう考えていると、俺の思考を読んだのか、はたまた偶然か、女神が「もちろん、異世界のことならなんでもアドバイスするし、いつでも連絡して来ていいわよ!」と言ってきた。

 意外とこいつ良いアイテム持ってんじゃねーか。天界への報告は後日にして、今はこの女神から絞れるだけ絞っていこう。

「そ、それでどうなのよ!? これをあげたら指輪を返してくれるの?」
「そうだなぁ……。でももしお前にこの指輪を返したもんなら、そのまま俺にくれた指輪を取り返すために殺されかけるかもしれないし、何か安心できる確証が欲しいな」
「もう! まだ返してくれないの!?」

 そう悪態をつきながら涙目で地面をバタバタと蹴りつけながも、女神は必死に俺の要望に応えようと頭をひねっている。
 しばらく考え込んだ後、恐る恐るといった様子で俺を見つめた。

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