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二十一話

兄上のお陰で、実技は全く苦じゃなかった。筆記も直ぐに追いつけたし。
 それにしても腹が立つのは子供達だ。
 兄上も、やすやすと能力を与えるなんてどうかしている。
 一人だったから良かったものの、脱落者が沢山出ていたらどうするつもりだったのか。
 医仙山は、兄上にプレゼントをするのだという。
 その事で、僕は雷に撃たれたように感じた。僕、兄上に何かをプレゼントした事がない!
 医仙山には絶対に負けたくない。
 何をあげようかと物色していたら、共有している兄上の視界に衝撃的な映像が飛び込んでいて、僕は店の中にかかわらず声を上げてしまった。
 泣きながらすがりつく、弟のように可愛がっていた子供。
 それを、兄上は迷いなく捕獲しようとした。
 信じられない。
 弟のように可愛がっていた子を食べようとした兄上が。
 兄上が医仙山を大切に思っていないと知って、喜んでしまった僕が。
 僕も、きっと幽霊になったら食べられるのだろう。後から後から涙が出てくる。
 兄上が、僕の泣いているのを知ってギョッとした。
 慌てて医仙山にこびを売り始める兄上。
 兄上の優しさの基準がわからなかった。
 医仙山が大切でなかっただけだというのなら、どうして兄上は能力を医仙山に授けたのだろう。
 幽霊は、たとえ誰でも兄上には餌にすぎないのだろうか。
 苦しい。苦しい。苦しい。
 そんな僕の涙に押されるように、兄上は足早に医仙山のバイト先に向かった。
 あまりいい噂を聞かない貴族の屋敷だった。
 そして、兄上に攻撃を仕掛けて返り討ちにされる。
 いくら向こうが悪くとも、これは不味い。しかし、相手も兄上相手に何故攻撃を仕掛けたのかわからなかった。
 兄上は護衛を全て返り討ちにして、幽体を捕獲してから隠し部屋へと入る。
 兄上の視界から送られる映像に、思わず意味もないのに目を覆いかけた。
 嬲られ殺された死体の山。まだ生きている者も死んだ者も、共に山と重ねられていた。兄上は全く動じずに、医仙山を探す。
 そして、治癒を請うた。医仙山はもう死んでいるけど、せめてその体は綺麗なまま返してあげたい。
 僕が癒しの力を送り、兄上が何かした。
 医仙山は戸惑った顔で目を開いた。兄上は何事もないように腕を引いて連れて行く。まだ生きている人も、死んでいる人も全く目をくれず。

「ば、馬鹿な! 伝説の反魂の術だと!? おい、待て!」

 貴族が喚いているが、兄上は全く関係なしに医仙山を家へと送り届けた。

「泣きやむ?」

 医仙山がおどおどしつつもこっくり頷くと、兄上は僕に胸を張った。

『これでノーカンだ!』

 兄上の言葉に、笑ってしまう。
 兄上は、本当にのんきで……恐ろしい方だ。
 僕は、確信していた。
 兄上を巡って、戦が起こるだろうと。
 僕は直ぐに動いて、その貴族の犯罪を立証した。その貴族は、平民や平民上がりの能力者を弄んで殺していた。
 医仙山も、他の人と一緒に閉じ込め傷つけて、自分と他の人、どちらの癒しを優先させるかなど、残虐な遊びをしていたらしい。
 それが今回、侯爵家の息子たる兄上にも手を出した。これは開戦の理由になる。
 もちろん、向こうの国も兄上が今は養子に出されて平民である事を指摘し、突如として貴族の護衛が一方的に虐殺されたのだと主張し、引渡しを求めた。これもまた、開戦の理由になる。
 本来は、この程度のことでは戦争までにはならない。いくつか取引をして、それで終わる。
 問題は、兄上が反魂の術を使ったことだ。
 そして、戦闘力を見せたこと。
 反魂の術を使うだけなら、後日、兄上がさらわれて終わりだったろう。もちろん、それは失敗していただろうが。もしくは、戦闘にならなければ事が公にならず、引渡しがスムーズに行われてしまったかもしれない。
 でも、実際は違う。
 伝説の反魂の術を使う兄上を手に入れるべく、国と国は真っ向からぶつかり、僕は兄上が開戦のきっかけとなった責任を取る形で、戦場へと向かった。
 僕は、使者として大軍の前に、一人進む。
 けれど、僕に使者としての仕事をするつもりはなかった。



「魂ごと葬られたくなければ、去るがいい!!」

 今回の責任。それはきっと、兄上と僕がとらなくてはいけない。だから。

「竜虎呼兄上、召喚!」

 派手に光る召喚陣から、兄上が現れる。
 兄上は。
 つまらなそうに。
 本当にめんどうくさそうに。
 虐殺を開始した。

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