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十六話

 召喚術を通して、治癒の力を送る。そうする事で、兄上が治癒の術を使えるように見せ掛けることが出来る。
 それだけでなく、なんとなく意思の疎通や一部体の操作権の奪還も出来るようになっていた。
 訓練の賜である。
 兄上の頭の中で、頭上から野営地を見た様子が展開される。
 そして、それぞれの人間の所に、四角や矢印が出る。それが使って欲しい技や行動だとだとすぐに分かった。

「そこの! 一旦左の方に移動しろ! 紅剣達! まずアイツをねらえ、時間稼ぎ出来ればいい! 紅弓蝶! 君は弓で援護を。目標はあの手負いの剣砲狼! 剣鬼は……」

 兄上の頭の地図通りに、口の操作権だけ取り戻して指示を出す。絵ならば僕も兄上も理解できる。そして、戦闘面での兄上は全面的に信頼している。
 兄上が、僕の体を使って手加減した雷撃と本気の斬撃で舞うように戦う。
 特異な鎧も相まって、それは正に武神の目を楽しませし愛し子。もしくは、血を好みし戦いの悪魔。
 僕の方も、召喚術を使って、兄上の指示通りに兄上の体に治癒や支援の術を送り込む。
 兄上の体を通った術は、兄上が触れた人達に伝わっていく。
 僕は戦いの悪魔。兄上は癒しの天使。
 本当は逆なのに。
 笑いがこみ上げてくる。
 ああ、僕は暴れたかったんだ。思いっきり、暴れたかったんだ。
 今だけは、今後の事も勉強の事も全部忘れて、魔物と踊ろう。虐殺の輪舞曲を。











 兄上が憑依をとくと、僕は兄上に飛びついた。この興奮を、どうしたら良いかわからなかった。
 兄上は僕を落ち着かせると、癒しの術を求める。
 思ったのだが、兄上との会話は絵の方が成り立つのではないだろうか。
 兄上に抜けているのは、語学関連全てなだけな気がする。
 治療を終わらせ、竜虎呼兄上を紹介すると、教師は言った。

「素晴らしい! なんという指揮力、戦闘力! 君は執政応用課程に行きたいと言っていたが、あまりにももったいない。軍人応用課程に行きなさい!」

「しかし、僕には領地に対する責任があります」

「お兄さんが生きていて、しかもこれほどの神官の才。神官の能力は、通常頭脳とセットです。全てお兄さんにお任せしなさい」

 その言葉に、紅剣達達は驚愕の表情で兄上を見た。
 兄上は一生懸命、重蹄鹿のお肉を焼いているところだった。
 僕は、遠い目をするしかなかった。

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