バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

十一話

 卒業試験に、軍事演習の項目がある。
 その事を兄上に告げたら、かなり派手な鎧と剣、短剣をくれた。
 魔物の鱗や牙、特殊な鉱物から兄上自ら作ったものだ。
 他にも、色々と薬を持たされる。
 兄上はかなりのドヤ顔をしており、断られるなど考えてもいない。
 ……まあ、軍事演習はこれが最初で最後だし。
 僕は兄上のくれた装備を着ていくこととした。
 ちなみに兄のゴーストもついてきてくれる事となった。過保護な事この上ないが、正直かなり嬉しかった。

「雷竜扇、なんだよその鎧!?」

 よく突っかかってくる男児、剣鬼が、案の定話しかけてくる。

「兄上が用意して下さったものだ」

「お前の兄上って知恵遅れの奴か」

 僕はにこりと笑う。

「いつも言っているけど、僕にとっては大切な兄上だから、そういう事は言わないでほしいな」

「侯爵家の面汚しに変わりはないだろ。追い出されたくせに、よくのこのこと学校に来れたよな」

「おい……止めた方がいいぞ」

 取り巻きが止めるが、もう、遅い。
 僕が剣鬼を許すことはないだろう。
 




 馬車で何日か旅をして演習場につくと、何やら騒がしい。
「ば、馬鹿な。剣砲狼(けんほうろう)が何故このような場所に……!」

 ああ、兄上が乱獲した。こんな所まで逃げていたのか。
 僕は馬車から出る。
 すると、彼らが僕を見た途端、すごい勢いで剣砲狼が引いていった。
 
「馬鹿な、森の王者剣砲狼が引いていく……!?」
 
 ……この鎧を着ている限り、僕が大物に襲われる可能性はなさそうである。
 剣砲狼がいた事で、中止にするかどうか会議が行われたものの、結局そのまま行われた。
 ただ、予定と違ってチームを組む事となった。
 僕は僕の派閥を守れればそれでいいので、都合はいい。
 
「では皆さん、適当に小物を倒して帰りましょうか」

「う、うん。でも、剣砲狼とか、大丈夫かな?」

 紅弓蝶(こうきゅうちょう)が、心配そうにつぶやいた。

「おそらく他にも沢山来ているかと思われますが、この鎧がある限り大丈夫です。僕から離れないようにしてくださいね」

「その鎧、なんなの?」

 紅弓蝶が問うのに、笑顔で答える。

「自慢の兄上が用意して下さった鎧ですよ」

 カラフルな鎧、突き出た牙の装飾、その様はこの上なく派手。まるで、身を隠す必要など存在しないとでも言うように。
 美しく派手な生物に、弱い物は存在しない。
 目立つ物は、目立っても生き残れる物を持っているのだ。
 その兄上の鎧を継いだのだから、あまり恥ずかしい真似はできない。
 僕は気合を入れなおし、重蹄鹿(じゅうていか)の捜索を始めた。これが平均的な獲物といえよう。そこそこ強いが、倒せないほどではない。
 僕達のチームは、堅実に獲物を追い詰めていった。


「ぎゃあああああああああああ!!」

「ね、今の声、剣鬼じゃない!?」

「そうだね」

 僕が代表して、狩った重蹄鹿を解体している時だった。兄上のやり方はずっと見ていたが、実際にするのは初めてなので結構いっぱいいっぱいなのだが、なおも紅弓蝶は話しかけてくる。

「見に行きましょう!」

「今離れたら、十分後にはこれが食いつくされているだろうね。紅弓蝶、これは軍事訓練なんだ。全員無事という訳にはいかないよ」

「そんな……! 私、行ってくる」

「この班のリーダーは僕で、君の離脱は命令違反となるけど」

「雷竜扇、だったら皆一緒に……」

「君の自己満足の為にチームの皆が死んでも構わないと?」

『助けてこようか?』

 兄上が首をかしげるが、僕は首を振った。
 
「うおおおおおおおおおおおおお!!」

 そこに、更に声が聞こえる。
 軍人課程の中では一番強い、紅弓蝶の兄、紅剣達(こうけんだつ)の声だ。

「行きましょう」

 僕はすっと立って、声のした方に足早に向かった。
 紅剣達もまた、よく僕を馬鹿にしてくるが、兄上を馬鹿にした事は一度もなく、むしろ庇ってくれていた。
 戸惑いがちにチームの皆が追ってくる。
 拓けた場所まで来ると、白翼獅子(はくよくしし)が暴れていた。しかも、複数いて、代表の一匹が戦っていた。
 僕らの二倍ほどの高さで、大怪我をした剣鬼がぐったりとしていて、紅剣達が必死に剣鬼に近づけまいと応戦している。だが、全く歯がたたない様だ。

 僕は小声で兄上に問うた。

「お力をお借りしても?」

『うん、戦い方を教えてやる』

「お願いします」

 では、召喚術を……と僕が術を使おうとした所で、兄上が、僕の体に憑依する。
 ちょ……! やめて下さい、またハードルが!

「雷竜扇! ばかっ紅弓蝶を連れてきたのか!? さっさと逃げろ、腰抜け!」

 すっと腰を低くして、『僕』は走る。
 白翼獅子は、怯えた様子で必死に爪を振り上げてくる。
 するり、と。本当にそんな感じで剣が硬い白翼獅子の体に切り込まれていった。
 あまりにもあっけなく、白翼獅子は絶命した。
 だが、破れかぶれになった他の白翼獅子が、絶望を胸に襲いかかってきた。
 ああ、逃げておけばよかったのに。
 その全てを軽く倒して、紅剣達と剣鬼、転がった生徒達の体を診る。
 そして兄上は憑依を解いた。

『治癒を。傷が深い。薬では足りない』

「全部兄上が食べていいですよ……って兄上、どうなされたのですか!?」

 どうしよう、兄上がはわわわわ、と困った様子でいらっしゃる。

しおり