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八話

 前回、失態を犯してしまった僕は、兄上にお礼を言わなくてはと考えていた。言葉が通じなくても、心をこめてお礼をいうことにきっと意味はあるはずだし、それが僕の義務だ。兄上は、僕を守ってくれたのだから。
 もしかして、よくわかってなくて、攻撃されたからとりあえず反応してみたのかもしれないけど……。
 けれど、バタバタしていて機会がない。
 あの悪人を兄上が倒した日、僕は叱られるのを覚悟した。半透明の兄上は皆には見えないから、僕がやった事になるだろうと。けれど、皆僕を褒めて、喜んで、いろんな事を教えてくるようになった。
 人殺しはいい事なのだろうか。ならば、兄上はほめられるべきなのだろうか。
 僕は、びっくりして父上に聞いた。すると、父上は言った。
 理由なく殺すのはいけない事だが、敵を倒すのはいい事だと。だから、僕がしたのは良い事なのだそうだ。けれど、それは本当だろうか。僕にはそうは思えない……。
 そして、兄上の「食事」は、肯定されるものだろうか。否定されるものだろうか。
 父上には兄上を否定してほしくない。でも、僕はそんな事を肯定してほしくなかった。
 僕は悪い子だ。
 いつも僕に優しくしてくれる先生も、僕をすごく褒めてくれたけど、兄上を貶すから全然嬉しくなかった。
とにかく、僕は「とうしゅさま」になる勉強をするらしい。
 本当は兄上の手柄だから、兄上がとうしゅさまになるのが正しいのでは? 人殺しが出来るのがとうしゅさまなら、僕はとうしゅさまにはなれない。

「父上、とうしゅさまとは何をするのですか?」

「この国と領地を守る、偉い人だよ」

 何ということだ、兄上には無理そうな気がする。
 というか、とうしゅさまになるために渡されたこの本が、まず兄上には読めないだろう……。
 しかし、僕も、雷を出すことが出来ない。とうしゅさまというのは、兄上にも僕にも無理なのではないだろうか。
 どうやら、兄上も、不穏なものを感じたらしい。
 何やら考えた後、何か「ピコン!」と口でいい、急いで部屋を出ていった。
 しばらく兄上が来ない日が続いた。兄上とはもう会えないのかもしれないと思うと、とても悲しくなった。まだ、お礼も言っていないのに。すごく後悔した。



 数日後……兄上は、自信満々に現れ、僕が一人になるのを待って僕に近づいてくる。
 
「あの、竜虎呼兄上! この前はありがとう!」 

「らいりゅうせんあにうえ。うまうま」

 兄上に、悪気がない事はわかっている。
 多分、兄上は何か肯定的な雰囲気を感じ取って、同じく肯定的な言葉を言いたかったんだろう。ちゃんとあにうえと言えるようにもなっているし、上達してる。だが、うまうまと言われると、僕はビクッとなってしまった。
 理性では分かっていたけど……ううん。疑ってしまったんだ。
 兄上は、僕の中にすっと入り込んだ。
 そして、一瞬兄上の考える事が流れこんでくる。
 僕は、驚いた。
 兄上の頭の中に、小さい四角が無数に浮かんでいた。
 小さな四角とは、兄上の技と名前の入った箱だった。魔物の文字だろうか? 僕にはわからない。でもそれよりも、兄上が一つの言語を習得してるということにすごく驚いた。
 小さな四角の山の中に三角が一つ浮かんでおり、三角に刺された四角は大きくなって詳しい説明が現れる。
そして、兄上はそれを高速で選択・組み替えて、それを僕の体で使えるか試していた。
 そして、はっきりと兄上の考えていることがイメージとして流れ込んできた。
 

 雷。実戦には使えない程度。
 炎。発動が限界。火種には使えるかも。
 風。属性の関係上、この程度の弱さでは意味なし。
 バフ(支援)・癒し系超一流(この世界では支援系と治癒系は同系統である)
 頭脳。かなり頭の回転が速い。
 武術の才能。悪くはない。頑張れば二流まで行けるだろう。

 
 バフ? 癒し? 支援? 治癒? 僕は、胸がざわめくのを感じた。
 人を傷つけるのではなく、癒す術。それは、とても素敵なことだと思う。
 頭がいいと言ってもらえるのも嬉しかった。
 それと同時に、ほっとする。そうか。僕の兄上は馬鹿じゃないんだ。兄上はきっと普通で、僕の頭がいいだけだったんだ……! 兄上が馬鹿じゃない。それは僕の大いなる希望だった。
 僕は知っている。魔法は、一番強い才能に集約されていく。
 だから、僕はバフとやらの魔法の系統になるだろう。
 とても嬉しい。
 けれど、兄上は、何か納得した様子を見せ、そして、僕の中に何かを設置した。
 雷の才能と召喚とやらの才能である。
 僕 の 治 癒 術 を 消 す 気 か 。
 発見三秒でぶち壊しにされた僕の将来の展望。
 だが、兄上はドヤ顔をしてしきりに頷いている。
 その中には、はっきりとごまかしが上手くいってほっとした気持ちが混ざっていた。
 兄弟仲が危機に陥った瞬間である。
 と言っても、言葉が通じないので怒ってもしょうがないのだが。
 悪気があってしたのでもないし。
 でも、僕の将来は潰れたのだ……。

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