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七話

『いやーっ やめて! やめて、助けて! 消えたくない、消えたく……あああっああ……』

 バリバリと頭から食べられる少女の霊。それをのほほんとした顔で、まるでさほど美味しくないお菓子を何気なく食べるかのように、モグモグと食べるおっとりした半透明の男。それが、僕の兄上である。
 竜虎呼兄上は、悪魔に呪われているのではない。まんま悪魔である。……それでも、竜虎呼兄上は、僕の兄なのだ。
 僕は、悲鳴を子守唄にして育った。
 半透明の大人の男性。
 髪色は緑。眼の色は金。優しげな顔立ち。
 ただし、服は幼児着るようなデザインなので、ちょっと違和感がする。
 食べ終わった兄上は、僕をじっと観察し、真剣に僕の言葉を真似する。
 それ以外は、同じ半透明の人を捕まえて食べている。
 そして、僕と話す際には、応用をきかせてなんとか会話を成り立たせようとしてくる。

「竜虎呼兄上。兄上は、なぜおともだちを食べるのですか?」

『らいりゅうせんおにうえ。おにうえわ、……おにうえわ』

 だがしかし、僕の名前しか通じなかったようだ。
 僕は会話を諦め、絵本を指さしながら読む。更に、絵本のいくつかを指さして名前を教えてあげる。
 僕は、仲良くしている二人の子供の絵をさした。

「お・と・も・だ・ち」

『おっぱい?』

「違う」

『ちがう』

 ちなみに、兄上辞典には、食事はおっぱいとして登録されている。
 パンも、肉も、幽霊も、皆おっぱいである。
 人間は絵本だとおっぱい、生きている人間だと名前で呼ぶので、人間をどう思っているのかはわからない。
 だがしかし、幼児である僕にもはっきりと分かっていた。
 兄上は呪われているのではなく、ガチで魔物であると。
 けれど、そんな兄上でも僕の兄である。
 皆は嫌って、僕をとうしゅさまとやらにしようとしている。
 兄上はめったに身動きしないらしい。ここに本体が来ているからだから、めったに身動きしないというあくへきは誤解だけど、それよりももっと酷いことをしているのは皆知らない。いっぱい殺す、どうしようもない兄上である。弟に師事をする情けない兄である。それでも、いつも一生懸命な愛しい兄である。
 昨日一昨日と教えた単語をまた忘れている兄にいらっときながらも、僕は根気よく物を教えていた。
 そんな時だった。
 明らかに悪人が、僕の部屋に侵入してきた。
黒尽くめに覆面。そして刃物。ダントツの怪しさだ。
思わず、兄上を見てしまう。
 兄上の半透明の人殺しを忌避しながら、兄上を頼ってしまう矛盾。
 兄上なら、きっと守ってくれるはずという甘え。
 兄上は、何か考えこむような顔で刺客を見ている。駄目だ、この兄上わかってない!
 しかし、危険とか助けてという高度な言葉は兄上にはわからない。
 どうすれば……!
 僕に向かって、悪人が刃物を振るう。
 兄上は、いかにも、ひょいっと。
 とても簡単な動作で雷をだし、激しい音とともに、悪人は黒焦げとなった。
 浮かんでくる半透明の男を、兄上はバリバリと食べだす。いつもどおりに。
 ……兄上は、人間もどうでもいいと思っていた。
 そして、この人の死の責任は、僕にもあるんだ。僕は、泣きだしてしまう。兄上を、恐ろしいと思ってしまった。兄上を、疑ってしまった。
 そんな僕が、僕は嫌いだ。

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