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プロローグ

 その魔物を見つけた時、思わず口の端がつり上がった。
 足が、自然に駆けてゆく。こちらに気付いた魔物は、大きな動作で爪を振り上げ、私を両断しようと振り下ろしてきた。
 紙一重で避けて、一閃。
 更に、魔物を蹴りあげて一気に距離を取る。

「ぐぎゃああああああああああああ!!」

 着地とともに再加速。ギィン、と音がして、爪と剣とがぶつかりあう。
 何度も斬り合うと、私のそこかしこに傷が出来た、
 体に走る電流に、にぃぃ、と笑みが深くなる。さすが、発禁物のパッチだけある。大枚をはたいて買ったかいがあって、どこまでも現実に近い痛み。
 私は、生きている。
 この、架空の世界で。










「ふぅ……」

 頭に被ったダイブキャップを外し、私は時計を見た。
 そろそろ、道場を開ける準備をしなくては。
 私は、汗を流した後、道場の掃除を始めた。
 私がVRMMOに出会ったのは、子供の頃だった。
 喧嘩に武術を使った事を怒られて、私は腐っていた。
 何故、得た技術を使ってはいけないのか。そんな時だった。腹立ちまぎれに、祖父が使っていたゲームを勝手に遊んだ。
 ゲームのタイトルは、もはや覚えていない。それは、20禁のファンタジー系のゲームだった。
 内蔵などが描写される、リアルなゲームだ。
 それは私には衝撃だった。
 ……ゲームの中ならば、殺しても構わないんだ。
 それから、私は外では良い子になり、ゲームでは暴虐の限りを尽くした。
 直ぐに、人間相手では満足できなくなった。
 私は、致命的なまでにそれら、ある分類のゲームに向いていた。
 大きな魔物をぶち殺す快感。それを黙々と解体し、肉を喰らい、加工する事。
 それはもはや義務であった。
 あれから、ゲームも進んだ。金さえ払えば、いくらでもヤバイゲームが出来る。
 どこまでもリアルで。どこまでも暴力的なゲームを。
 洋風、和風、ファンタジー、SF、戦争物、様々な殺し合いが出来るゲームをやりこんだ。
 といっても、普通の廃人のように極めたりアイテムを集めたりするのとは違う。
 私がしたいのは殺し合いと、殺した相手を弄ぶ行為なのだから。
 今日の夜はどのゲームをするか考えていると、門下生が入ってきた。

「せんせ~、おねがいしまーす」

「おねがいしまーす」

 門下生の挨拶に、私は笑顔で挨拶を返す。優しい先生の仮面を被って。
 一応、国内有数の剣道の道場である。だが、私は剣道にさほど興味はない。
 それは、人間を相手に想定したものだからだ。人間相手など、つまらない。
 私は、犯罪者にすらなれないのだ。








 仕事が終わった後。メールをチェックしていると、一通のメールが届いた。

「異世界そっくりのゲームにご案内……?」

 そのゲームは何よりリアルで、魔物も沢山いるらしい。
 ゲームのシステムというのが、面白い。
 最初に、百のポイントが与えられる。
 そのポイントを使用して、初期ステータスを整える。
 ここまでは、普通だ。
 だが、それは一年に一ポイント減っていく。そのポイントがなくなれば、プレイ時間は終わりを告げる。
 そのポイントは、ゲーム内でも手に入るが、基本的に買ってくれというものだ。値段は巫山戯た事に、後でのお楽しみと書いてあった。
 だが、そのゲームにはなんとも言えない魅力があった。
 私の体は自然と動き、そのゲームをダイブキャップにインストール・ゲームスタートしていた。
 ――ポイントを割り振ります。貴方の欲望は何ですか?
 ――魔物との殺し合いですね。それに適した能力をリストアップします。
 
「勝手に読み取って割り振らないでもらえますか? 初プレイですから、そのまま行きます。素の性能を確認しないと。向こうに行ってからでもポイントは使用できるのでしょう?」

――わかりました。楽しんでいってください。

 そして、私は暗闇に覆われた。体の自由が効かず、息ができない。

「!???」

 そして、私は「ログイン」した。その世界に。


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