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昼寝と旅人さん

「ふあぁ……」

 僕は欠伸を漏らしました。
 暖かくて、気持ちの良い風が吹く森の中でした。風が木の葉を揺らす音が響きます。
 眠さを我慢しつつ、しばらく歩いていると拓けた草原に出ました。ここで眠れば、どれだけ心地よいことでしょう。

 僕は近くの木の陰に、背負っていたバックパックを下ろしました。

 さーて、寝るぞー。

 どさっと寝ころんで、目を閉じます。
 ……うーん。それにしても。

「何だろう、この鳥たち……」

 草原には先客がいたのです。
 鳥です。全長三メートルくらいの白い鳥です。彼らからすると、僕なんて豆粒も同然でしょうね。失敬な。僕はそんなに小さくないです。
 鳥は一匹だけではありません。草原に埋め尽くされるくらいにいました。
 ほかにも場所はあるだろうに、どうして集まっているのでしょう。

 ……まあ、放っておいてもいいですよね。こちらから何もしなければ、彼らも何もしてこないでしょうし。
 もう一度目を閉じて、烏合の衆を無視します。
 彼らの存在なんて、無視すればどうだってことありません。草原は心地よくて、気温もいいくらいです。時折吹く風は暖かく、まるで布団のように僕を包んでくれます。ただ、少し生ぐさ――

「って、これ鳥の息だよねぇ……」

 薄く目を開けると、ピンク色のくちばしが目の前に迫ってきていました。つん、と額をつつかれました。痛いよ。なんなのさ。
 睨んでいると、鳥はちゅんちゅんと笑いました。

『人間だ、人間だ。こんなところで眠っているよ。食べていいかい?』
「ダメに決まってるじゃないか。僕は眠いんだよ。ちょっと寝かせてくれないかな」
『いいやいいや。それは無理無理。ここは私たちの巣なのだから。人間の立ち入る場所じゃないね』
「そんな冷たいこと言わないでさ。ほら、缶詰めあげるからさ。これで許してくれないかな?」
『焼き鳥だよね? 焼き鳥だね! その缶詰に入ってるの、焼き鳥だよ。バカにしてるのかな、人間』

 うむ……うるさい鳥たちですね。

 僕は渋々立ち上がり、バックパックを背負うと、歩き出しました。

『待て待て人間』

 しかし、僕は引き留められました。一体、この鳥は僕に何をさせたいのかな。

『尋ねたいことがある。私たちの仲間のジョニーが、一週間ほど前から姿を見せないのだ。何か知らないかな?』
「僕が君たちの事情なんて知るわけないじゃないか」
『それもそうだそうだ』

 鳥は言って、ちゅんちゅんと笑いました。
 僕は今度こそ歩き始めました。

 幾許か、歩いたところで、ログハウスを見つけます。誰も住んでいないのかと思えば、家の前で薪を割っている男を見つけます。
 男も僕に気づいた様子で、あいさつをしました。

「やあ、旅人さん」
「どうも。ここに住んでいるのですか?」
「ああ。狩猟をして、生活をしているのさ」

 男は言って、自慢げに弓を見せてきました。弓の教養のない僕には分からないことですが、適当に返事を返します。

「へえ、素晴らしい弓ですね」
「そうだろう。これは、珍しい鳥の骨で作ってあってな。このあいだも、その鳥を捕まえて焼き鳥にしてやったところさ」
「焼き鳥に?」
「ああ。ここの近くに国があるんだが、そこで買い取ってもらうのさ。俺たち狩人はそうやって生活をしている」

 僕はふと、バックパックに入った缶詰を取り出してみます。
 暫くじっと見つめた後、僕は踵を返しました。

 草原に戻ってくると、鳥たちはまだそこにいました。
 彼らは僕を見るなり、ちゅんちゅんと鳴きます。

『どうしたどうした人間。やっぱり食べられたいのかい?』
「違うよ。ジョニーを見つけたんだ」
『本当か!』

 叫ぶように言った鳥たちの前に、僕は缶詰をそっと置きました。

『『『………………は?』』』

 両手を合わせると、身体を翻して、旅を続けます。

『『『ジ、ジョニィィィィイイイ!!』』』

 背後から叫び声が轟きますが、無視。
 森の道を歩いて行きます。
 先ほどのログハウスの前を通りかかると、狩人のおじさんがまだいました。お互いに会釈程度の挨拶を交わして、僕はその先へと進んでいきます。

 狭まっていく道を進んでいくと、ふと、影が通り過ぎます。
 空を仰ぐと、そこに白くて巨大な鳥が滑空していました。僕が来た道を飛んで言っているようです。

「あの鳥……もしかして」

 僕は首を傾げて、彼の姿が消えるのを見守りました。

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