三話 登頂!
「ねぇ……なんであんたまだ生きてんのよ?!」
そう脳内に響くように聞こえる声に、眼を開けて、身じろぐように体を震わせる一匹のスライム
もうすっかりと定着した彼の名前はブス
「しかもなんだよペットかよ?スライムでブスって……ブフッ!ベスのバッタモンかよ!」
「おお!これはこれは超絶絶対可憐美少女女神ルナたんじゃぁないですか!こんな駄スライムを未だに気にかけて頂けていたなんて……ありがとうございます!ありがとうございますぅ!」
器用に触手を二本伸ばして、まるで土下座をするようにペコペコと触手立て伏せをするブス
「……相変わらずのド変態ね……まぁ、あんたをファルクエオンラインから追放したお陰で順調にスライムが増やせてるからいいんだけど」
「それは重畳。愛しのルナ様の手助けになるのでしたら私の体がスライムになる位わけがありません!」
「そうよね!むしろ感謝されるのが当たり前よね!って違うわよ!なんであんたがまだ生きてるのか?って聞いてるのよ!私言ったわよね?勇者の糧になる為にも殺られて死ね!って!」
触手で器用にゴマをするブスを女神ルナは両手を腰に当てて顎をクイッと上げて睥睨する
その見た目身長140前後の少女の肉体に、幼さの残る大きな瞳で射抜かれたブスはプルプルッと身震いするが
「ハァハァ……幼き少女からの侮蔑の眼差し……これはどんなご褒美なのか!」
恐怖からではなくカンジていただけのようだ。しかしスライムだからナニがドウなる訳でもない
その喜びに打ち震えるブスに女神はこめかみにピクピクッと青筋を浮かべると
「あぁ?!……別にあんたを喜ばせたくてやってるわけじゃねーんだよ!このブサイク軟体生物!」
「なんと!これ程の罵倒がご褒美ではないと?!」
驚きを体全体で表現すると「なぁんてことだぁ!」と生やした触手で側面を両側から掴むようにプルプルと震わせて
「この勘違いしたダメスライムに、その侮蔑の眼差しを向けたままっ!私めのジェル状の肉体に!お仕置きとしてルナ様の黄金水をぶっかけて頂きたくぅぅ!」
ビチャァ!と仁王立ちするルナの足元に一瞬で伸びるように広がるブス
まるで一滴足りとも逃しはしない!と全身全霊を賭して挑む歴戦の戦士のようだ。スライムだけど
「なっ!女神の私は汚物なんて出さないのよ!ってか何ドサクサに紛れてパンツ覗こうとしてんのよ!……でもお生憎さまね。今日の私はちゃぁんと対策してきてんんだから!ざまぁみなさい!」
ふふん。とピンク色のブリーツスカートの端を摘むとヒラヒラと捲り上げる
なんと、そこにはお尻から太腿にかけて、キレイな肌色を隠すように覆われた黒地のスパッツ
「ハァハァ……美少女のピチピチスパッツ!パンティのラインがピチピチのスパッツに浮かび上がり、その股ぐらには盛りマンまでご用意されているなんて!流石は女神様!パンティ如きでは表わせきれない隠れたエロスを全面に押し出していらっしゃルベらっ!ぶらぽっ!」
ドス!ボコォ!ベチン!
顔を真っ赤に染めた女神ルナは、足元に広がる汚物を力いっぱい踏みつけると大地に突き刺さった足で大地ごとブスを蹴り上げ、見えない壁まで吹き飛ばした
「ぬおおおお!いたいいいいいい!」
痛みに叫びながらも飛び散ったジェル状の欠片を集めるように地を這い回るブス
「はぁ……はぁ……この腐れブサイクデブピザヒキニートブサイクスライムがぁぁぁぁ!」
荒い息を吐き、肩で息をしながら怒りの余り全身から黄金色のオーラを放ちながら鋭い眼光を向ける女神
「そんな二回もブサイクって言われると……流石に少し……」
シュンと小さくなるブスに、流石に言い過ぎたかしら?とルナは覗き込む
「デそうになりましたよ」
プヨッと半回転するブサ。まるで後ろを向いて照れているかのようである。スライムの癖に
決してめげないブサにルナは、今日は疲れたわ……とため息を吐く
「すいません。女神さま、真面目な質問いいですか?」
疲れたから帰ろうかな?と思っていた処に、えらい真面目なトーンでブスが話し掛けてくる
「あ……なに?もう私疲れたから帰りたいんだけど……」
「お時間は取らせません。今俺が居るこの世界は一体何処なのかな?とファルクエオンラインとの関係性について聞きたいな?と思いまして……」
「ああ……ここは私が管理を任されている世界よ。んで、この世界に突然現れた魔の王を倒す為に、あんたの世界でファルクエオンラインっていうゲームを作って、年がら年中ログインしてて、突然居なくなっても問題なさそうな奴を見繕って拉致ってたって訳よ」
はい。説明終わり!とふんぞり返る女神ルナ
「えっと……じゃあ俺がスライム倒し過ぎてうんぬんって言うのは……」
「ああ。それは単に私の作業量増やした腹いせね。あんたのせいで私の睡眠時間がガンガン削れてたのよ」
美少女の肌が荒れたら大変でしょ?とさも自分が正しいと言わんばかりの女神ルナに、今までファルクエに費やした時間と2チョンネルの仲間たちが脳裏に浮かぶ
次に女神ルナの自己中っぷりにフツフツと怒りが込み上げてくる
「完全に逆恨みじゃねぇか!俺を元の世界に返せえええええ!」
ブスは全身を網状に広げて女神ルナへと襲いかかる
静かにしていたブスの突然の攻撃に反応が遅れたルナは、まんまと網に捕まってしまった
「ちょっ!……こら!……ダメ……スパッツ引っ張らないで!……ヤダ!服の中にまでネトネトが……」
「デュフフ……このままロリ少女に触手プレイ!を続けられたくなければ俺を元の世界に返すのだ!デュフ!デュフフ!」
「やぁ……おへそクリクリしないでぇ……ッア!て……いい加減にしろやこのロリペド豚がぁぁぁ!」
バリバリバリバリ!……ピシャァァァァァ!
女神ルナの怒りが頂点に達した時!彼女の全身には雷のオーラが纏わりつくのだ!
と大昔の格闘アニメのナレーションのような声が聞こえるような錯覚を覚えると、雷に痺れたブスは部屋中にその体を撒き散らした
「ぬおおおお……せっかく回復したというのに……また残りHP1に……」
苦しみ悶えるブスの肉体は1/10程まで減って、抱き締めサイズから手のひらサイズにまで縮小してしまった
「糞が!さっさと勇者に殺されろよな!」
ペッ!とブスに唾を吐き付けるとルナはその姿を虚空へと霞のように消えて行った
★
「はっ!」
ブスは意識を取り戻し、プルンプルンとグミ状の肉体で周囲を確認する
目覚めたそこは、昨日勇者パーティーの女性陣に抱っこされて連れ込まれた宿屋の一室だった
「良かった……夢か……」
周囲を見れば、壁には木目が、床はフローリングと明らかに木造の宿屋に安堵の息を吐くと、念の為メニューを開くと
「HP減ってる……夢の世界のダメージが現実にも反映されるなんて……危うく彼女の胸をネトネトにしてしまう処だったのか……」
そうブサがチラリと横を見ればスヤスヤと睡る美少女がいる
勇者パーティーの回復役、僧侶のリサちゃんだ
彼女はブサを抱えたまま宿屋へと戻ると、宿屋の主人に「この子は安全です!」とゴリ押しして抱くようにして同じベッドで寝たのだった
「しかし……この安心しきった寝顔の美少女に薄い本のように触手を纏わりつかせて……デュフデュフ……リサ!薄い本が厚くなっちゃウーー!ってか?!デュフデュフデュフフ」
HP1しか無いくせにめちゃくちゃ元気なブスは、何時でも変態で変質者で犯罪者だった
「う……ん……」
と隣のベッドから身じろぎする音と声にブスはドキリとして振り返る……と言っても全身何処でも目なので動く事はないのだ……スライムだから
そのベッドの上で寝返りを打ったのは勇者パーティーの魔法使いドロシーちゃん
寝苦しそうな寝息を立てて、うつ伏せになっている彼女の胸は、苦しそうにその大きな鞠を歪ませて、今にも弾けそうになっている
「デュフ……ままま……全くもってけしからん!そのスイカが破裂したらベッドが一大事よ……そうなってからでは大変だからな。俺が破裂しないように転がしてやろう。デュフ……デュフフ」
言うが早く、ブスはプヨン!と隣のベッドに跳び移るとジェル状になり、歪んだスイカの下へと伸びていく
「ハァハァ……ドロシーちゃんの吐息が体全体に……」
うつ伏せの口から漏れるドロシーの吐息を浴びてグニョグニョと身悶えるも、まだスイカを救出できていないではないかっ!と硬くなった肉体を鋼の精神でプニョらせる
「せいっ!」
気合と共に歪んだスイカを持ち上げると、コロンと寝返りを打つドロシー
仰向けになった彼女は寝苦しさから開放されたのか、胸を規則正しく上下させ、そこにある大きな果実をたゆんたゆんと揺らしている
「おおお!二つの山が!上下に動いて……これぞまさしく人類最高のエベレストよ!デュフ……そして俺は今!このエベレストに登頂するのだ!デュフフフフ~!」
ファイトー!ヒャッパーツ!と気合を入れるとプヨンと跳び上がり、ボヨンと見事双子山の谷間へと着地した
「デュフ……登頂するはずが……つい跳び越えてしまったぜ……失敗失敗デュフフフフ」
プヨプヨと体を揺らして再度登頂を試みるブサ
しかし!突如頭上から硬い尖った物が落下して、ブサの頭頂部に激突した!
グサ!カツン!コロ……コロ……
「登頂するはずが頭頂部にぃぃぃぃ!ライフが!俺のライフがぁぁぁぁぁ!」
余りにも無警戒の状態での一撃に、今の状況も忘れてプヨプヨとその身を動かし痛みに耐える
「う……ん……なんか今すごい音が……」
「……なんなのよ~……ってブサ!私の胸の間で何やってるのよ!」
むんずと掴み上げて鋭い目を向けるドロシー
「待ってくださいドロシーさん」
今にも火炙りにせんと掌に魔力を貯めているドロシーに待ったをかけるリサ
「ん?」
「そこに転がっいてる板……どうやらドロシーさんのベッドの上の……天井の板が落ちたんだと思います」
ほら……とリサの指差している方向にドロシーが顔を向ける
「ホントだ……あたし……何ともないんだけど……」
「あの位置からしてドロシーさんに直撃は免れません。きっと気が付いたブサさんがドロシーさんに咄嗟に覆い被さって身代わりになったのかと」
「痛くて藻掻いてたのか……ごめんブサ。勘違いして……助けてくれてありがとう」
顔を赤らめて恥ずかしそうに摘んだブサをドロシーは優しく抱きしめる
──デュフ!なんか勘違いされているが……この圧力にして柔らかさ!素晴らしい!デュフデュフフ──
とてつもない変態言語を放つブスであったが、発声できないスライムの意図なぞ二人には通じる訳もなく……
「ふふ。ブサさんったら……可愛らしく変形させて……ドロシーさん!私にも抱っこさせて下さいよ!」
「いいじゃない!寝てる間は抱っこしてたんでしょ!ちょっとくらい貸してよ!」
──美少女が俺を取り合って酒池肉林デュフフデュフフフフ──
こうして今日も平和な一日が始まるのであった──