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第6話。その速さ、疾風の如し

 前回の、ワネットウォーズを簡潔に説明すると……。
 心環家屋敷を自爆させてキャンプ場暮らしになったハットワンズは、屋敷再建のための資金を稼ぐべくバイトを探し、見事高額報酬オファーをゲット! これだけである。
 
 ――というわけで読者の皆様お待たせしました、これからがバイト編の本編にてございます。
 
 竜の王国こと、オーストラリア王国。
 かつてはイギリス連邦のひとつとしてイギリス国王を盟主とする立憲民主主義国家だったのが独立王国となったのには当然必然の訳がある。
 ワネットによるファンタジー化の影響でただでさえ独自の生態系を持っていたオーストラリア大陸はファンタジー面でも稀少種幻想種なモンスターや動植物のメッカとなっていたのであった。その最たるものが竜である。他の大陸他の島では決して見ることのないファンタジーモンスターの代名詞。それはなぜかオーストラリア大陸にしか出現しなかった。そしてオーストラリアに住んでいた人間達もそのほとんどが竜人と竜の要素を組込まれた亜人へと変貌していたのである。正に竜の巣であろう。
 そんなオーストラリアに対し各国は竜種研究のためだのなんだの理由をこじつけてはオーストラリアへ竜狩りもとい秘密裏侵攻を企て特殊部隊やら秘密部隊やらを送り込み、竜の捕獲を目論んだのだが、竜人も竜も強かった。なにせライフル弾を弾くのである。既存の武器が通用しない――捕獲部隊は全滅全壊。ほとんどが戦闘の過程で殺され、生き残った者達もことごとく生け捕りにされどこの根回しか誰の差し金か徹底的に吐かされた。
 で、捕獲部隊の生き残りが吐いた情報にオーストラリアの人々は怒りいきり立った。なにせ盟主であるイギリスからも部隊が派遣されていたのである。裏切られた感を抱いた竜人達は「ドラゴ・ナショナリズム」という思想運動に染まり、オーストラリア大陸を竜人竜種の独占独立国家とすることを決議し国家変革宣言を発表。イギリス連邦も抜けて王国となり今に至るという訳である。
 そのオーストラリア王国元首、竜王リチャード1世直々のオファーを受け、ハットワンズはオーストラリアにやってきた。しかし前回を読んでもらった読者ならおわかりだと思うが移動方法が「魔法によるテレポート」である。一瞬で目的地につけるのはいいことだが、突如見知らぬ者達が出現したらそれを目撃した者達が驚くというのは難しい方程式ではない。
 なのでテレポート魔法を使用した心環三兄弟は転送先をオーストラリア王国の首都、しかも国王の目の前という宮廷内への侵入を決行&断行した。そのピンポイントテレポート精度はナミコちゃんのサポートあってのこと。素晴らしい!
 だが、政務中だった国王リチャード1世及び側近閣僚官僚達は当然のごとく吃驚仰天! 「慮外者!」と叫びが木霊し、近衛兵の銃器が一斉にハットワンズに向けられるが、空行とシャルロットが真っ先に両手を上げ、すぐに跪き流暢な竜訛りな英語で「オファーを受けて参上仕りました。ハットワンズでございます」と恭しく礼をしたのだ。残りのメンバーもそれに続き跪く。虚を衝かれた無抵抗姿勢に近衛兵の攻撃態勢も緩む。その除小紹介を聞いた国王は「あ、そういえばバイト頼んだんだっけ……」と思い出しては苦笑い。近衛兵達に武器を下げるよう命を下し、側近共々挨拶仕返してくれた。かーなーり尊大な口調だったがハットワンズは気にしない。それが雇う者上に立つ者国を治める者に必要な資質だとわかっているから。ムカつくけど馬耳東風、イラつくけど集合霧散である。
「衛兵下がれ」国王リチャード1世がそう言うと武器を持っていた物騒な輩は全員その場から退去し、その場には政務を預かる側近達と国王、そして正式に雇用契約書にサイン捺印したハットワンズの面々が残った。そしていきなり本末転倒だが、ハットワンズの心環虚探が仕事の内容を尋ねたのだ。
「契約は完了しました。それで国王様、我々はこの短期間の間に何をすればいいのでしょうか?」
 おい! それ契約前に訊くヤツじゃね?
 派遣? 派遣のバイトなのあんたたち?
 登録? 登録制のバイト状態なのかな?
 そんな心配虚探をはじめ、空行、論実、シャルロット、アトランティス、ウィリアム&マリナの六人五組も百も承知であった。しかし誤解しないでほしい。ハットワンズにとって今一番大事なのは心環家屋敷を再建できるだけの高額報酬なのである。さすがに水商売やら風俗やらは聞いた後拒否するつもりだったが、依頼人(雇い主)が一刻の最も高い位置にいる御方なのであんまり心配しないでサインしたのである。警戒心が薄いんじゃと思われるならそれも結構。でもその報酬額は千載一遇のチャンスだった。
『幸運の女神を見たら前髪を掴んで離すな。なぜなら幸運の女神に後ろ髪はないから』という格言がある。衝動的であろう。思い立ったらすぐ行動、考え無しの行動かもしれない。でもそんな行動力が人生の突破口になることだって、あるんじゃね?
 まあとにかく、そんなノリで契約し今虚探が仕事の内容を尋ねたわけである。
 すると竜王リチャード1世は指をパチンと鳴らす。すぐさま部下が新たに入ってきて、ハットワンズにある書面を見せる。受け取る虚探。集まる仲間達。覗き込むとそれは……。

『竜の国のお宝、エアーズロックはいただくぜ〜 怪盗カブリコンズ』

「ってあいつらかーいっ!」
「いつの間に怪盗業始めやがったんじゃーっ!」
「ルパン気取りなの? ねえ! ねえ! ねえ!」
 空行、論実、シャルロットの順にハットワンズは吠えまくった。そりゃそうだろう。決着を着けなければならない関係とは言え、何もバイト先でまで鉢合わせたくはないのが本音、ましてやそいつらが怪盗業なんて法的犯罪に手を染めたなんて事実を知った暁にはもう、いろいろゲンナリしてしまうのである。
 一気にやる気ゲージを減らしていくハットワンズの面々。その中にあって唯一ゲージをあんまり減らさず冷静な観点から竜王様に質問する者がいた。誰でしょうか?
 アトランティスでした。彼はカプリコンズがエアーズロックを狙う理由を竜王様に尋ねたのだ。するととんでもない事実が明らかになった。
「エアーズロックはファンタジー化の影響で、パワークリスタルの塊となっているのだよ」
 なんと――あの世界一巨大な岩が丸ごとパワークリスタルになっているとは。これにはハットワンズも全員垂涎ものでゴクリと息を呑む。パワークリスタルは無害なくせに効能溢れる今までの現実になかった夢のようなエネルギー資源だ。正直バイト代と天秤にかけたくなるほど自分達だって欲しいモノだ。カプリコンズがどうやって情報戦で自分達ハットワンズに先んじたのかはわからないが、そりゃ狙いたくもなるな――と言うのが素直な感想。
 でも、ハットワンズの面々はそんな考えをおくびにも出さず、バイト代を最優先。生唾ごくりと飲み込むだけにして、早速仕事の確認に入る。
「つまりカプリコンズを追い払ってエアーズロックを護りきればバイト代を貰える、そういうわけですね竜王様?」
「そういうことだ。よろしく頼むぞ」
「了解です。ナミコちゃん!」
「はいさー」
「カプリコンズの奴等が今どこにいるか調べてこ」
「あいつらいったいどこにいるー?」
 空行の注文に応え、体内から空中に出現したナミコちゃんがナビゲータ能力を発動しカプリコンズの位置を探り始める。捜索範囲が地球全土と広いので、しばらく待ちましょうと空行が言い、その流れで竜王様がドリンクバーを部下に運び込ませてくれて一旦休憩コーヒーブレイク。各々が好きなドリンクを飲んでリラックスして筋肉弛緩状態になったちょうどその時、突如ナミコちゃんのエマージェンシーコールが入った!
「たーいへーん! カプリコンズの奴等、既にオーストラリア大陸に上陸してるわ! 既にノーザンテリトリー準州に侵入しているみたーい!」
 ナミコちゃんの報告にその場にいた全員が飲んでたものを「ブッ!」と吹いた。特に柳王様は動揺した様子で「バカな有り得ん! この国は大陸全土を人工衛星レーダーシステムで監視しておるのだぞ!」と吠え立てた。
 しかしナミコちゃんから告げられたのは、ハットワンズをも焦らせる驚愕の事実。
「それねー。無効化されちゃってるのよ。カプリコンズの奴等、匍匐前進で地べた這いつくばって移動しているから」
 その言葉にハットワンズの皆から血の気が引いた。ナミコちゃんの旦那である空行がナミコちゃんをすぐに掴み体内へと取り込んで捲し立てるように仲間達に怒号を発する。
「マズいぞ急げ! このままじゃエアーズロックはもう奴等の手の内だ!」
「おう!」「押忍!」ハットワンズの面々は飲みかけ残っているコップを無礼下品にもその場に投げ捨ててすぐにかっ飛ぶ準備に入った。そのいきなりの出動準備に戸惑ったのは竜王様や幕僚閣僚達である。
「なにをそんなに慌ててるんだ? 敵はたかが匍匐前進だろ」と。
 もっともな発言である。しかしそれはカプリコンズを知らない者の失言でもあった。
 その言葉を聞いた瞬間、今にも出動しそうな状態だったハットワンズは全員で竜王様達に振り向き、怒鳴る!
「わかってないねぇ知らないんですねぇ! カプリコンズの連中の匍匐前進はエクスプレス列車よりもゴキブリよりも速いんですよ! いかにエアーズロックが内陸にあるとは言えすぐに出動しなきゃ守り屋仕事じゃなくなる。間に合わないんです! じゃ!」
 そう告げてハットワンズは空行が飛び、残りはシャルロットの花の始祖鳥FFFに乗り込み王宮の壁と屋根をブチ抜き、一気に空飛び彼方でキラーン☆ あっという間にいなくなった
「い……行ってらっさーい」その慌ただしさLv.MAXブレイカーなハットワンズの出発を、『出動・出向』なのだとやっと気付いた竜王リチャード1世と側近達が呆然と光る曇り空の彼方を見ながら誰にでもなく呟くように返事する。空は曇って天気は暗転。これから嫌なことが起こる兆候かもと勘ぐらせるような、不安を掻き立てる空模様。

 果たしてハットワンズは巨大なパワーストーンと化したエアーズロックを護れるのか?
 それともカプリコンズがエアーズロックを盗み出して勢力図を逆転させてしまうのか?
 次回、久しぶりに両者が激突。世界を舞台にした魔法戦争が本格的に開戦となります!

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