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最終話

ロケットが火星へと到達する。
科学者達は息を飲んだ。このロケットを作るのに7年が掛かっている。
 到達したロケットから次々と出てくるロビーが、地面に穴を開け、何らかの薬剤と種を入れていく。
 その後、様々な活動を始めた。
 遅れて出てきた宇宙服を着たシバイと風太が、声をそろえて唱和する。

「緑よ!我が祈りに答えて、芽吹け!!」

 緑が芽吹いていくのを、モニターしていた各国の科学者達が驚愕して見つめていた。
急いで配られた資料に目を通す。
緑化の為の魔術理論。魔術補助の術具の作り方。
隼人博士が初めて公開した、魔術の理論の片鱗。
それは、獣人やフェイクキッズ、隼人の息子のディーンだけが使えるもの。

「これは第一期だ。ロビー達には、10年ほど植物の成長を守るようプログラムされている。たとえば、肥料と共に少しずつ解けていく圧縮酸素などを散布し、植物が窒息しないようにする。最終的に直径一キロメートルの円形にする事が目標だ。成長を促す術を今掛けていて、その後植物の成長を維持する魔力を埋めた石を埋めていく。
これは一年で効力が切れるから、その時には獣人かフェイクキッズを呼んで魔力を補充してくれ。ちなみに今、作っている緑の大地の所有権は、アメリカ領となる。第二期には日本が主体でこちらの地図の場所に植林を計画している。これは明日出発予定だ。わしも忙しいので、質問は手短にな」
「領土!?」
「ちなみにわしの土地の分は既に約束してもらっている。あそこの丘の上に一軒家を建てるのだ」

 シバイが、アメリカの旗を緑の地の真ん中で火星に立てて、アメリカの科学者から歓声が沸いた。

「すぐにロシアに連絡を!ハヤト博士!今回の作戦に使われた薬剤やロビーシリーズや術具は、売っていただけるんですよね!?」

 そこにいたロシアの科学者が、声を上げた。

「ロビーシリーズは解析もせず普通に運用するだけなら無料レンタルだ。術具は売ろう。魔術師については各自交渉してくれ。獣人は魔力が強いから、わしの改良した緑化の為の術理論の最終ページの魔法陣を使えばだいたい今と同じことが出来るはずだ。砂漠にも使えるが、それには最終ページの魔法陣を変えねばならんぞ。理論は載せてあるから、応用は簡単なはずだ。シバイと風太は優等生だから、他の者が同じ事をすれば小規模にはなるがな。ちなみに風太は菓子が好きだ」
「風太くん、ロシアに来てくれるかな?お菓子ならいっぱいご馳走するよ」
「いいよ。緑化計画には全面的に協力する」

 風太の言葉に、ロケット建設とスポンサーを募る行為が大々的にされた。
テレビで火星の映像が流れ、いつか天体望遠鏡で緑の星を見るのだ、と言うのがスローガンになった。
一瞬にして、世界の目は火星と砂漠に向かう。
その頃、隼人はロケットに乗って火星へと出発した。
ロケットがつくと、獣人…アリアが宇宙服を来て降り立った。
アリアは、作業を開始し、宇宙服を着たハヤトはロビーたちを指示して家を建てさせ始めた。
一ヵ月ほどして、緑の野が出来、その中心に本当に家がたち、ハヤトは宇宙飛行士たちを見送った。

『さあ、アリア。静かな新居を楽しもうか。以前は少し騒がしすぎたからな』
『はい、貴方』

 アリアと隼人は獣化して、宇宙服を脱いだ。
 これには、世界が度肝を抜かれた。
 即座に、隼人の家に取り付けられた通信機がなる。

「ハハハ、ハヤト!? 君、獣人だったのかい!? 呼吸は!?」
「向こうには魔王がいてな。可愛いわしの愛娘なのだが。それの影響で向こうに居続けると獣人になるらしい。息については、酸素濃度を測定する装置がある。獣人ならば、この程度の酸素濃度があれば昼のみなら活動できる。寒さ熱さや放射線は毛皮が防ぐしな。水はそこらの氷から作れるから、しばらくここで生活するつもりだ」
「ハハハ、向こうにいけない明確な理由が出来たね」

 恐怖を孕んだゲイルの声に、隼人は笑みを浮かべた。

「タケルは喜んでいるようだが。わしの研究にもこちらの方が楽だしな。10年分の薬はある。5年後には日本の火星基地建設チームが来る事になっているしな」

 本当は、魔王の魔力を押さえ込む術を見つけてもう施してあるのだが、それは言わない。
 そして隼人は、研究をし、家庭菜園の世話をし、たまにはアリアと散歩をしてと、のんびりした老後の生活を始めた。
 その間も、アリアとロビー達は火星の緑化に勤めている。
 家には十分な術具は用意してあった。風太が上手く売るはずだ。
 一方、地球では多くの獣人が緑化プロジェクトに参加させられていた。
 火星に、緑の斑点が増えていく。そして、一つ一つの斑点が、次第に広がっていった。
 5年後、本格的な基地の建設があちこちで行われる。
 その時には、既にあちこちに緑化作業に来た獣人の村があった。
 5年の間に、隼人の開発した広域対放射線バリアが火星の地表を覆う。
 酸素量は人間が生活していけるギリギリの基準をクリアしている。
 恐る恐る宇宙服を脱ぎ始める宇宙飛行士たち。
 本格的な移民が、始まろうとしていた。

『ここも騒がしくなったな……。家を日本基地の誰かに貸して帰ろうか』
『そうね、しばらくぶりに武の顔が見たくなったわ』

 二人が外でお茶を飲んでいると、武が現れた。

「隼人、久しぶりですね」
「武!こちらへ配属されたのか」
「ここも日本領ですから。形だけですけどね。各国の協力体制はもう出来てますし」
「久しぶりだな、武」
「カインとアベル神父様もいますよ」

 武が後ろを振り返ると、そこに純白の翼を持ったカインがいた。

「カイン!!凄いな、天使の羽根か!」
「神は、カインの深い愛をお認めになられました」

 アベルが、満足そうに言う。

「あのね、好きって食べる事じゃないんだって神様が教えてくれたの」

 カインが、まだ幼い喋り声で言う。

「もったいない事ですが、カインと私にも火星緑化計画の招待状を貰ったのです。ああ、砂漠は大分緑が戻ってきましたよ」
「天使。いいですよね天使」

 羽根をさわろうとした武の手を、アベルは叩いた。

「私の崇拝する天使に触らないで頂けますか。奥様の毛皮だけで十分でしょうに」

 武のさわり癖は、未だ納まっていないようだった。
 そこへ、通信機が鳴る。ゲイルだ。

「悪いが降りてきて、獣人の追加をお願いできないかい?とても手が足りないよ」
「だ、そうだ。せっかく会えたのに残念だ、武」

 隼人の言葉に、タケルは首を振った。

「いいえ、気にしないで下さい。家の獣人達は、皆巣立っちゃったんですよ。全員緑化プロジェクトで各国に就職先を見つけまして」
「そういえば風太が電話でそういうような事を言っていたな。あれも地球と火星の往復が大変で最近ろくに話せていない。休暇を取るように言うか」

 そして、隼人とアリアは風太と家に戻り、次元を跳躍した。





「ディーン。いる……か?」
「ああ!師匠!俺、子供が生まれたんだ。後、皆と仲良くなったんで連れてきたんだ!
凄く騒がしくなって楽しいぜ。ああ、後、七五三の祝福頼む。一応皆には向こうの言葉を教えてあるから」

 ディーンが朗らかに言う。
丘の上の町に出たとき見えたのは、明らかに雪女っぽい人。竜人としか言いようがない人。エルフにダークエルフに ドワーフ。溢れんばかりの獣人に、フェイクキッズらしき子供達。明らかに町の許容量をオーバーしている。

「隼人博士!5年も何してたんですか。薬はこっちでも作れたから良かったですが、フェイクキッズはどうしようもありませんよ。それと、獣人を大半とした難民が大量に来るので食料が追いつきません!まずは獣人500人ほどと契約を交わして向こうへ送って、フェイクキッズは全員祝福を受けさせて、竜人からは卵が孵りがたいのでぜひハヤト博士の力を借りたいと言うことで、いや、一番初めに雪女さんをどうにかしてください!」

 ダナイが悲鳴を上げるように言う。

「次の研究は地球温暖化かな」

隼人は、半分雪だらけになりながら呟いた。
隼人に、引退している暇はない。

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